20.アルトとサティ
魔王城に帰宅したサティさんや四天王選抜試験の参加者は急な試験で疲れているだろうということもあり、それぞれの部屋で休みを取るように指示をされていた。
ただし、なぜか俺は呼び出しを受けている。一体何を話されるのだろうと疑問に思いながらエルダースライムの部屋の扉をノックする。
「アルト君ね、入っていいわよ」
「まずは無事にサティに告白をできたことをおめでとうと言わせてもらいます」
部屋にはリリスさんとエルダースライムが座っており、壁には『祝 サティに彼氏ができた!!』『ヘタレが告白した!!』などが書いてある紙が貼りつけられている。
そして、何故か机の上には何やら落書きのようなものが書かれた紙とペンが散らばっていた。
「これは……」
「ああ、これはあなたたちの愛の告白を聞いてついね……ラフ画だからあまり見ないでほしいわ。アルト君のエッチ」
リリスさんは少し気恥ずかしそうに紙を隠す。いや、ちょっと待って!! 今の落書き、俺とサティさんに似てなかった? おい、まじかよ。俺達で変な本を書くつもりなのか?
無茶苦茶つっ込みたかったが、今はそれよりも聞きたいことがある。
「それで……リリスさんはなんでこんなことをしたんですか? あれが単なる試験で、人と魔物が手を取り合うところが見たいというのなら、わざわざ俺とサティさんだけをみんなと別行動をさせる必要はなかったですよね。第一わざわざ魔王の試練を受けなくてもよかったはずです。そのせいでサティさんは苦しんだんですよ!!」
魔王の墓で様々の光景を見せられたサティさんが辛そうに声を出していたは気のせいではない。四天王選抜試験にサティさんが参加したのは俺のためだ。
それは原因で彼女が苦しむのは嫌だったし、何よりも彼女の心を傷つけたのが許せなかった。ちゃんとした理由がなければ納得できない。
「ええ、そうね……あなたには今回私がこんな事をした理由を聞く権利があるわね。あのね……旧魔王派がサティの方針に疑問を持っていたことは確かなのよ。だからこそ、彼女には魔王の試練を受けてもらい、歴代の魔王に認めてもらったという結果が欲しかった。かつての魔王たちが認めたというならば、旧魔王派が反対する理由はなくなるわ。ねえ、エルダースライム?」
「はい、サティが傷つくことはわかっていました。だから、多少強引ですがあなたに同行をしてもらったのです。あなたとなら絶対試練を乗り越えることができると思っていましたから」
「でも、エルダースライムまで手を貸すなんて……」
ルシファーさんがサティさんに試練を受けさせなかった理由がよくわかる。あの試練は心をえぐるだろう。自分の道に迷いがあったら罪悪感に苛まれてこわれてしまうかもしれない。
今回はサティさんの心が強かったからクリアできたけど一歩間違ったら……
「勘違いしないで、エルダースライムも反対していたけど、私が無理やり巻き込んだのよ。四天王選抜試験に協力をする条件としてね。大体あなた達もルシファーも甘すぎるのよ。この前の純潔派の攻撃みたいなことがおきたら全てを影で対処するつもりなの? あの子だっていつまでも子供ではないわ。理想を掲げて生きてきたんだもの。敵と戦う覚悟だってできているわ。それに……今は、ちゃんと支えてくれる人がいるんでしょう?」
リリスさんが嬉しそうにまっすぐと俺を見つめる。その表情でわかる。ふざけた言動こそしていたけど、彼女は彼女なりにサティさんの事を心配しての行動だったのだ。
「はい、俺はずっとサティさんを支えるつもりです。いや、支えだけじゃない。一緒に歩んでいくつもりです」
「ふぅん、告白して吹っ切れたからか良い顔をするようになったじゃない。今回の件で魔物と人が手を組めることの可能性を示せたし、あなたとサティがお互い信じあっていることもみんなわかったはずよ。あとはあなた達ががんばりなさい」
俺が即答すると、リリスさんは満足そうにうなづいて立ち上がり、踵を返す。もちろん、書きかけのラフ画も忘れない。
「私は今回の件を元に旧魔王派をまとめておくわ。彼らもあの映像は見ていたでしょうし、納得してくれると思うわ。応援しているわよ。アルト君」
そう言い残して彼女は部屋を出る。残されたのは俺とエルダースライムだけだ。ちょうどいい彼女には言いたいことがあった。
「アルトさん」
「エルダースライム」
やべえ、かぶった。俺があたふたしていると彼女は苦笑しながらお先にどうぞと譲ってくれる。
「ここまで来てあれだけど、俺は四天王選抜試験を辞退しようと思う」
「……理由を聞いても?」
「ああ、四天王選抜試験で俺はみんながサティさんのために戦うのを見たよ。みんな一生懸命がんばって、魔王のために、魔物達の未来のためと死力を尽くしていた。今回の試験も他の四天王も知っていたのんだよな?」
「はい、アグニは面白そうに、ウィンディーネは悔しそうに協力してくれました」
「やはりそうだよな……四天王になったら俺は魔王であるサティさんを支えることになると思う。でも、四天王という立場があると、あんたやウィンディーネの用に仕方なくサティさんに辛い目にあわせてしまう事もおきるかもしれない。俺はそんな時でもあの人を守りたいんだ。魔王である支えようって言う人や魔物はたくさんいるっていうのが今回の試験でわかった。でも、女の子としてのサティさんを支えれるのは俺だけだ。今回の試験で俺はその存在感やサティさんとの関係性もアピールできたと思う。だから、俺はただのサティさんと一緒に歩む人間にになるよ」
そう、俺が元々四天王選抜試験に出たのは四天王になるためではない。周りにサティさんにふさわしい存在だと認めてもらうためだ。
だったらもう、それは十分叶ったのだ。四天王にふさわしいのは俺じゃない。四天王になって彼女を支えたいやつにまかせれおけばいいのだ。俺がやるべきことはただのサティさんと一緒に歩むことなのだから。
「ふふ、実は私も同じことをあなたにお願いしようと思っていたんです。あなたには四天王としてではなく、大切な人として彼女を支えてほしいと……これからもサティをよろしくお願いします」
俺の言葉にエルダースライムは珍しく満足そうな笑みを浮かべてそう言った。
「いつの間にかあの子も大人になっていたようですね……歴代の魔王にあそこまで言い切るなんて……
「はい、サティさんはすごいよ。ん? ちょっと待った。なんで何を話していたかまでわかるんだ……まさか、サティさんの谷間で話を全部聞いていたのかよ!!」
「うふふ、中々素敵な告白でしたよ。空気を読んで黙っていましたが私も意識はありましたからね。話は終わりました。あなたがいるべき場所はここではないでしょう? お姫様はきっとあなたに会いたがっていると思いますよ」
「うぐぐ……」
からかいの言葉に俺は顔が真っ赤になる。告白のセリフまで完全に聞かれてるじゃねえかよ……しばらく、こいつには頭が上がらないなと思いながら、部屋を出ようとすると声をかけられた。
「アルトさん……私はサティの正体に気づいたのがあなたで本当に良かったと思っています。これからもよろしくお願いしますね」
「ええ、俺もサティさんの正体に気づくことができて良かったと思います。おかげで俺は憧れの受付嬢ではなく本当の彼女を知る事ができてより好きになれましたから」
「ふふ、お熱いですね。サティはあなたの部屋の前にいます。会いに行ってあげてください」
エルダースライムにそう返事をして部屋を出る。俺もサティさんと話がしたくなっていたのだ。ちょうどいい。
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俺の部屋の前につくとエルダースライムの言う通りサティさんが待っていてくれた。
「もう……アルトさん、今日は頑張ったんですからゆっくり部屋で休んでないとダメじゃないですか」
「そういうサティさんこそ、こんな夜に一人でいたら危ないですよ」
「大丈夫です、この城で私が一番強いですし、何かあっても守ってくれる優しい人がいますから、ね?」
怒ったふりをして注意をするサティさんに俺は軽口で返す。そして、顔を合わせて笑い合う。あのあとゆっくりと話す時間はなかったけど、そのおかげかお互い少し落ち着いたようだ。
「アルトさんもしお時間があったら少しお話をしませんか?」
「はい、もちろんです。俺もちょうどサティさんとお話をしたかったんです」
「うふふ、気が合いますね。では、ついてきてください。アルトさんに見せたいものがあるんです」
嬉しそうに笑う彼女について一緒に歩く。真夜中の魔王城だが、サティさんといると不思議と心が躍る。
そしえ、彼女が案内してくれたのは魔王城のバルコニーだった。そこからは城下町が一望でき、街の光が宝石の様に輝いている。
「ここは……?」
「綺麗でしょう。いつも悩み事があるときはここで色々と考え事をするんです」
光の中で微笑むサティさんは銀色の髪とあいまってどこか幻想的だ。話とは何だろうと思っていると、胸元がいきなり動き始めた。
『では、私は鍵をかけておきますのでお二人はごゆっくり……』
サティさんの胸元からエルダースライムが這い上がって出て行った。一瞬黒い布が見えたのは気のせいではないだろう。どうやら空気を読んでいるらしい。
「きゃっ!? もう、エルダーたら、いきなり……アルトさん見えてないですよね?」
「え? ああ、もちろんです」
「本当ですか?」
ジト目でじーっと見てくる。やっべえ、ばれてるぅぅぅぅぅ。サティさんはしばらく俺を見た後にフフっと笑って、真剣な顔で俺を見つめてきた。
「アルトさん、私の事を好きって言ってくれてありがとうございます。私もアルトさんの事が大好きです」
「じゃあ、付き合って……」
「それを答える前に少し真面目なお話があります」
俺の言葉にサティさんは申し訳なさそうな顔をして、言葉を続ける。
「アルトさんもご存じのように、私は魔物達の上に立つ魔王でもあります。この街の輝きを……私を信じてくれている魔物達を守らなければいけません。だから、普通の恋人の様にはできないかもしれません。例えば記念日などに魔物がピンチになれば、そちらを優先するでしょう。私と付き合う事によってあなたを逆恨みするものや、権力目当てとか、言いがかりをするものもあらわれるかもしれません。それと……胸は小さいです。それでも、付き合ってくれますか?」
サティさんは唇をかみしめて震えながら俺の答えを待ってくれている。そこにいるのは最強の魔王ではなくただの少女だった。
俺の答え何て決まっているのに……不安そうにしているただの少女だ。俺は彼女に近づいてそのまま思いっきり抱きしめる。
「何を言っているんですか? そんなこと承知で好きになって告白をしたんです。俺はサティさんの責任感が強い所もちょっと間の抜けたところも、大好きですよ」
「いいんですか? アルトさんに迷惑をかけてしまうかもしれないんですよ!? それに、私は結構嫉妬深いですし、めんどくさい所もあります。そして、魔王の仕事で悩んだ時はアルトさんに甘えてしまうかもしれませんよ?」
「ええ、構いません。そう言うところも含めて好きですから」
「えへへ、アルトさんの女たらしぃ……」
サティさんが俺を抱きしめ返してくる。甘い匂いと共にやわらかい感触が心地よい。胸の中で嬉しそうに笑っているサティさんの頭を撫でながら、俺達しばらくいちゃついていた。
こんな時間が永遠に続けばいいなと思う。
「あのですね……あの部屋では色々としましょうといいましたが……やっぱり、色々と手順を踏んでからそういう事はしたいものでして……」
サティさんがもごもごと言い始めているので、何でいきなりこんな事を……と思うとアルトのアルトが元気になっていることに気づく。サティさんに絶対あたってるぅぅぅぅ!!
でもさ、しょうがねーだろ!! 好きな女の子抱き合ってんだからさ!!
「いや、これは生理現象というかですね……ん!?」
俺の口が一瞬サティさんの唇に塞がれた。これって……せっぷんか!!
「だから、今はこれだけで許してください。その……初めてなので責任をとってくださいね。なーんちゃって」
「だめです。許しません、俺からもします!!」
そして、反撃とばかりに今度は俺がサティさんの唇をふさぐ。本気で抵抗すればできるのにしないっていうは良いって言う事だよな。
そして、俺達はしばらくいちゃついていた。こうして俺達は正式にカップルになったのであった。
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ついに結ばれましたね。長かった!!
また、この作品とは一切関係ないのですが
『外れスキル「世界図書館」による異世界の知識と始める『産業革命』~ファイアーアロー?うるせえ、こっちはライフルだ!!~』
というこちらでも公開している作品が今月10月14日に発売されます。
領地運営モノでファンタジー世界の住人がこちらの科学の知識を手に入れて魔法と科学の力を組み合わせて様々なものを発展させる話となっています。
よかったら買ってくださると嬉しいです。
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