17.アルトの想い

「お前は……お前らは何もわかっていない!! 確かにお前の見せた連中は可哀そうだ。俺が同じ立場だったら復讐を考えるだろうよ!! だけど、サティさんはこういう事がおきないようにするために、今戦っているんだろう?」

「アルトさん……」

『へぇ……君が語るか……いいよ、続けて。ふふふ、他の連中も興味を持ったみたいだね』



 先ほどから俺達に話しかけていた灯以外もこちらに近づいてくる。こいつら全員魔王の残留思念なんだよな……

 本気を出せば俺なんて瞬殺だろう。でも……だからって止まれるかよ!! 一瞬冷や汗をかいたが自分に喝を入れる。



「お前が最初に見せた獣人の悲劇も、次に見せた聖女の悲劇もお互いの友好関係と理解不足が原因だ!! フェンリルたちの毛皮を人間達が狙った事は、種族同士で同盟なり協定を組んでおけば防げたし、聖女の件だって魔物に詳しいあなた達から知識を得ていれば相いれない魔物もいるって分かったはずだ。こういう悲劇を防ぐために今サティさんは一生懸命人と魔物で友好をつかもうとしているんだよ!!」



 俺は黙って聞いている灯たちを睨みつけながら言葉を続ける。



「大体サティさんが安全地帯にいるだって? サティさんは人間達の街で俺達を知るために生活していたんだぞ!! 確かに俺なんかより強いのは認めるよ!! だけど、心は普通の女の子と変わらないんだよ。そんな彼女が仲間もろくにいない環境で暮らしていて何も辛くなかったはずがないだろうが!!」


 

 鑑定スキルで正体を知って仲良くなった時にさ……サティさんは全然友達ができないって寂しそうに愚痴ってたんだよ。本棚に『友達の作り方』とかを置いちゃったりするくらい悩む普通の少女なんだ。



「それにだ。お前らは全然公平じゃない。サティさんのせいで復讐心を持て余す奴がいるのだってわかるよ。だけど、それ以上に救われた人間だっているんだよ!! サティさんがいなけりゃ俺やローグタウンの住人はアグニに殺されていたかもしれない。アリシア達勇者パーティーや四天王は真正面から戦って、誰かが死んでいたかもしれない。今もこんな風にお祭り騒ぎをできているのはサティさんが頑張り続けたからなんだよ!!」



 俺の言いたいことは全て伝えた。サティさんの夢がこんな……何もわかっていないのに、知ったような口を開くやつらに否定をされているのがつらかったのだ。俺は今こいつらに対して怒っている。サティさんがどれだけがんばっていたか知っているのだから……

 


『ふぅん……君は人間のくせに随分と彼女の肩を持つんだねぇ……わかっているのかい? 君と彼女は人と魔物なんだぜ。彼女が本気を出せば一瞬で君は消し炭になるんだよ?』

「それはあり得ない。サティさんはそんな事をしないからな!!」

『君は彼女を……サティ=エスタークを……魔王という存在をどれだけ知っているっていうんだい』

「少なくともお前なんかよりも知ってるよ、俺はずっとサティさんを見てきた。彼女は絶対理不尽な暴力を振るったりはしない、そりゃあすごい力をもっているけど、美味しいものを食べたり、感謝の言葉を伝えたら喜んでくれて、俺がアホな事をしたら怒ったり嫉妬もしたりする普通の女の子でもあるんだ。そして……そんなサティさんの事が俺は大好きなんだよ!! 好きな人の事も信用できないで愛が語れるかよ!!」

『は_』

「え?」



 俺の言葉にその場の空気が凍る。あれ……俺今何か変な事を言った気がする……



『はっはっは、まさか魔王の試練で愛の告白をする奴がいるとはねぇ……これも時代の流れかな? それでサティ=エスタークよ、僕らは彼の言葉は聞いた。彼の信頼も知った。君は確かに結果を残している。その上でここを見た意見を聞きたい。答えてくれるかな?』

「アルトさんが……好きって……」

『いや、ごめん。今はちょっと真面目な話をしているから正気に戻ってくれる?」



 顔は見えないがおそらく俺と同様に真っ赤にしているんだろうなぁと思っていると、深呼吸をする音が聞こえた。

 心を落ち着かせようとしているのだろう。そして、俺と握られた手はそのままだ。



「はい、これらの悲劇があったことは認めます。すぐには彼らが許し合うことができないという事も……だから、私たちは話し合いの場を作ろうと思います。何度でも……それでも分かり合えなかった場合は……人間達と協力をして戦います」

『なるほど……全てを背負う覚悟はできているか……まあ、及第点かな。君たちの紡ぐ新しい魔王像を楽しみにしているよ。それではみんなはどうかな? ちなみに僕は……ベルゼブブ承認』

『アスモデウス承認』

『レビアタン承認』

『アスタロト保留』

『ヴェルへゴール承認』

『ベリアル否認』

『過半数の承認を確認。サティー=エスタークの魔王試練合格を認めよう!! 次の部屋に行くといい。本当はこれで終わりなんだけど……あの女狐め、中々面白い事をするじゃないか』



 笑い声と共に闇が晴れていき、灯たちも消えていった。それと同時に闇が晴れる。そこはただ薄暗いだけの何もない部屋だった。そこに俺とサティさんだけが残される。

 やべええーーー、勢いで告白をしてしまったがどうしよう……俺達は顔を真っ赤にして見つめ合い恥ずかしくなって目を逸らす。



「その……後で色々とお話をするとして、先に進みましょうか?」

「そ、そうですね……」



 そして、俺達は手を繋ぎながら先に進む。次の扉を開けて、踏み入れると同時に、入った扉に鉄格子が落ちててくる。



「あっぶね!!」

「というかここは何でしょう?」



 サティさんが困惑するのも無理はない。なにやら甘い香りが部屋には充満しており、照明は薄暗く、テーブルと場違いなような大きく立派なベッドがあるだけだ。

 いや、これってまさか……



「アルトさんこれを見てください……」

「はぁぁぁぁぁぁ!!??」



 扉には大きく『せ〇〇〇しないと出られない部屋』と書いてあったのだ。








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