15.魔王救出大作戦
「みなさん、お集まりいただきありがとうございます、急な予定変更をして申し訳ありません」
四天王選別試験の二回戦を勝ち残った参加者達は、とある部屋に集められていた。その中にはアリシアやモナ、ホーリークロス達勇者パーティーや、サラマンドやケインなど魔物達の姿もある。そこは大きなテーブルが置いてあるだけの殺風景な部屋だ。とてもではないが、飲んで騒ぐような雰囲気の場所ではない。
『それは別に構わんが……一体どうしたのだ? 決起会をしようという雰囲気ではないが……それにここは重要機密に関して話す場所だろう』
元四天王であるデスリッチは何度か使ったことがあったので知っていた。ここは他の魔物に聞かれたくない事を話す部屋だ。最近ではサティが人間の街に潜入するという事を決めた時に話し合いがされていたのだ。
「はい、想定外の事がおきたのです。その前に……皆さんにはここで話すことは内密にお願いをしたいのです。もしも、他者に話したことが発覚した場合は我々四天王を敵に回すことになるかもしれません。もしも、誰にも話さないという自信がない方がいたら出て行ってもらっても構いません」
エルダースライムの一言で室内の空気が一気に重くなる。ただ事ではないと悟ったのだろう。少し騒がしくなったが、すぐに静まり、この部屋から出ていくものはいなかった。
「流石四天王選抜試験を勝ち残っている猛者たちですね……あなたたちのような方々が今ここにいるのと魔王の加護に感謝します」
その様子に彼女は満足げに頷いた後に事情を説明する。魔王が旧四天王にさらわれたと聞くと、ざわざわと色めき立つ。
それも当然だろう。魔物の中でも魔王は最強であり、強さの象徴でもあるのだから。
『それで……警戒されている四天王たちの代わりに我々に助けに行けという事か……』
「はい、無理は承知で言っています。それに獣聖ファングは強力な魔物です。今回は試験とは違い命を落とす可能性もあるでしょう。それにこの件は完全に我々魔物の落ち度です。他言無用でいてくれるのなら、勇者様達は抜けてくださって構いません。もちろん、他の参加者もです」
エルダースライムの言葉に再び場が静まり返る。だが、それも一瞬だった。真っ先に口を開いたのはアリシアだった。彼女は少し怒ったようにエルダースライムに言った。
「私を舐めないで欲しいな。サティさんは私の友人なんだ。見捨てるはずないでしょ。それに……勇者はね、困っている人も魔物も助けるもんなんだよ」
「我々勇者パーティーは魔物と友好を深めるために来ているのだ。ここで引くわけにはいかんな!! 人類の英雄ホーリークロスが救うと誓おう!!」
『ふん、人間がここまで言っているのだ、我々魔物とて、引くわけにはいくまいよ。なあ、皆の者よ!!』
「もちろんよ!! 私だって、魔王様の道を信じて四天王を目指したんだもの!! お父さん以上の働きをしてみせるわ!!」
アリシアの一言をきっかけに人と魔物の気持ちが一つになる。エルダースライムはそれを見て、胸が熱くなると同時にチクリと心が痛んだ。
「あれ? でも、アルト兄は……? まさか、一人で行ったんじゃ……」
「大丈夫ですよ、彼には特別なお願いをしてあります。命の心配は何のでご安心を」
そして、彼女はみんなに作戦を説明して、四天王選抜試験の参加者たちは一人もかけることなく魔王の谷へと向かって行った。
いや、一人だけ残っている人物がいる。
「おや、あなたはいかないのですか?」
『ふん、大変そうな貴様にアドバイスをと思ってな……わかっていると思うが、アルトは四天王にしないほうがいいぞ。やつにはやつにしかできん役割がある」
「ええ、わかっていますよ。それにしても……大変だとわかっているなら私と変わってほしいのですが……」
『あいにく今の我は四天王ではないのでな……奴隷の世話もあるしな。その代わり茶番につきあってやるのだ。感謝するがいい』
デスリッチの意味深な言葉にエルダースライムは大きくため息をつく。相変わらず頭は回る男だ。あとはもう少し気を遣えればいいのにと思う。
「謎の仮面O様ーーまだ、ですか? あ、それともこれって放置プレイってやつですか? すごい嬉しいんですけど、今は魔王様の救出を優先しましょう!!」
『ちがうわ、ぼけぇ。今行くから大人しくしておれ』
そうして、魔王救出作戦がはじまる。
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