13.
「くっ……こんな辱めはじめてだわ……自由になったらただじゃおかないんだから……あっ♡」
殺気に満ちた目で睨みながらもちょっとエッチな声を上げるサラマンド。いや、こんなことになるとは思わなかったんだって……
誤解を解こうと一瞬手を放した瞬間すさまじい殺気に襲われ、びびった俺はまた逆鱗に触れる。
「くぅ……早く離しなさい……今なら八つ裂きで……あっ♡」
「うおおおおおおおお、離したら殺されるぅぅぅぅぅぅ!!!」
「ああ、そんな強く触れられると……んんっ!!」
恐怖のあまり思いっきり逆鱗を握るとサラマンドはひと際大きな声を上げて、そのまま倒れこんだ。あの……生きているよな?
『意識を失ったためサラマンドは敗北とみなします』
恐る恐るサラマンドの顔を覗いているとアナウンスと共に彼女は転移されていった。なんだろう、人ととして最低な事をしてしまった気がする。
彼女には後で謝ろうと思いつつ俺はフラフラのケインにポーションを差し出す。
「さあ、約束だぜ。これで回復をして、タイマンを……」
「ひぃぃぃぃぃ、この人間こわいよぉぉぉぉ。公共の場であんな辱めに合わせるなんてぇぇぇ!! 俺も何をされるかわかったもんじゃねえ!! リタイアしますぅぅぅぅぅ!! くっそ、魔王様にふさわしい男は極悪非道な人間だっていうのかよぉぉ!!」
「え、いや、ちょっと待って……」
恐怖に満ちた目で俺を見ながらケインは、敵意はないとばかりに両手を上げて逃げ出した。あれ? さっきまで「お前を認めてやるぜ」みたいな雰囲気じゃなかった? なんか種族を超えた友情が芽生えそうじゃなかった?
俺が何かを言う前にケインもまた転移されていった。
『それでは二回戦Aグループは一位はアルト!! 二位はケイン!! 三位サラマンドとなりました。みなさん惜しみない拍手を!!』
「ぶーぶー!!」
「アルトとかいうやつ最低だぁぁぁ!!」
「強気なドラゴン娘の屈辱に満ちた顔最高!!」
一部を除いて凄まじいブーイングである。あれ、何か俺やっちゃいました? ええ、やっちゃいましたね……
『ええい!! 離さんか、ウィンディーネ!! あの人間ぶっ殺してやる!! 俺の愛娘を公衆の面前で辱めおってぇぇぇぇぇぇぇ!!』
『私としては賛成ですが、サティ様が悲しむからだめですわ!!』
貴賓席を見ると殺気に満ちた目でこちらに飛んで来ようとするアグニをウィンディーネが、お湯を鞭のようにして拘束している。マジでこえええ!!
今回ばかりはアグニが正しいな……正直すまんかった……
そして、俺は控室に転移される。あー魔物達にむっちゃ恨まれた気がするどうしよう……そんなことを思っていると、俺を待っていてくれたのだろう。サティさんと目が合った。だけど、その表情はどこか冷たい。
「アルトさんのエッチ……」
「いや、違うんですよ!! まさかこんなことになるなんて思わなかったんですって……」
「勝つためってわかってますけど……他の人にああいうことをやったらダメですよ!!」
俺は慌てて言い訳をするがサティさんは拗ねてしまったようだ。どうしようかなと思っていると、アナウンスが流れる。
『それでは気を取り直しBグループの戦いです。今回はゲストとして参加している人間の勇者アリシア様がも戦います。楽しみですね、ウィンディーネさん』
『そうですわね、さっきの戦いはスケベ男のせいで変な感じになってしまいましたが、今回は勇者と優勝候補の一角謎の仮面Oの戦いですわ!! デスリッチ!! 元四天王の意地を見せるのですわ!! もごもご』
『失礼しました、放送事故で不適切な言葉が流れてしまいましたね、謎の仮面O……一体何者なんでしょうか?』
すっげ―グダグダなアナウンスが聞こえてきた。だけど……確かにあの二人の戦いは興味があるな……
「サティさん観にいきませんか?」
「別にいいですけど、アルトさん誤魔化そうとしていませんか?」
「いや、そんなことはないですよ、あはは……」
そうして俺達はアリシア達の戦いを見るために控室から出るのだった。サティさんだけでなく他の参加者の視線も冷たいのは気のせいだと思いたい。
火や氷などすさまじい魔術がぶつかり合っている。爆音と共に土煙が舞うがそれを払うように風が踊り、視界を晴らす。
まるで、英雄譚の最終決戦のような迫力に観客席も盛り上がる。
「うおおおおお、謎の仮面Oもすげえが、やっぱり勇者もすげえな!! 人間もやるじゃないか。さっきのクズとは違って!!」
「さすが魔物だ、魔力の扱いがうまい。王都から金払って見に来た甲斐があったぜ!!」
『ふれふれー♪ デスリッチ様ーーー!! 私達アンデッドはあなたがリストラされて応援しつづけますーーよ』
魔物も人も熱狂的に叫ぶ。てか、クズって俺の事じゃないよな? あと、アンデッド達がデスリッチの正体をばらしているんだがいいんだろうか?
それにしても観客の言う通り、さっきと全然レベルが違う……もちろん、レベルを引き上げているのは……
『これはすごい!! 謎の仮面Oの魔術を勇者アリシアがいなす!! 他の参加者たちは一瞬でリタイアしてしまいました。この勝負どうなると思います? 解説のウィンディーネさん』
『そうですわね。やはり強力な魔術を使えるデスリ……じゃなかった、謎の仮面O選手は遠距離では分があるように見えますわ。だからこそ、開幕直後の魔術で決められなかったのは痛いですの。勇者もなんらかの手をうってくるでしょうし……それに、彼女がもう一つの力を使えば戦況はひっくりますわ』
得意げにしゃべるウィンデーネの言ったもう一つの力というのはおそらくルシファーさんの力の事だろう。
でも、あれは負の感情を使う。今のアリシアはモナ達と楽しそうにやっていたのだ。使えない可能性も……
「私が王都にいる間に……また、女の子とデートしててアルト兄のばかぁぁぁぁぁぁ!!!」
その言葉と共にアリシアの持つ聖剣が禍々しい黒い光を放つ。全然使えるじゃん。なんなら前よりも強まっているんだけど!!
聖剣に宿る禍々しい輝きがデスリッチの魔術が喰らい尽くす。そして、それと同時にアリシアはデスリッチの方へと駆けだした。
『これですわーーー!! 勇者アリシアはなぜか魔王の力も使えるのです!! アルトというクソ男への怒りの感情が彼女を奮い立たせるのですわ!!』
「あれが人間の勇者なのか……すげえ……」
「アルトって誰だかわからんが女たらしなのか? クソだな……」
「あれ? アルトってさっき出てなかったか? サラマンド様にセクハラしていたような……」
「勇者ちゃんすごい。俺も罵りながら切り刻んでほしい……」
ウィンディーネの実況を皮切りにアリシアの評価が上がり、俺の評価がどんどん下がっていく気がする。さっきは納得した風だったけど、やっぱり怒っていたんだな……
「その……アルトさん、ご愁傷様です。私はいつでもあなたの味方ですからね」
「ありがとうございます……俺も変装しよっかな……」
なんか街を歩いてたら石とか投げられそう。俺がへこんでいるとサティさんが元気づけてくれる。くっそ、俺は何にも悪いことしていないと言うのに……
『ちぃぃぃぃ、一気にここまで距離を詰めるとはな!!』
「悪いけど私は人類代表だからね。負けられないんだ」
接近戦となればデスリッチになすすべはなく聖剣が首筋につきつけられてあっさりと決まった。デスリッチは悔しそうに呪詛を吐く。
『恋愛では勝てんなのに、戦闘では勝つのだな……ぎにゃぁぁぁぁぁぁ!!』
「うるさい。ばーかばーか!! こいつどこかで見たことある気がするんだけど、何でかなぁ」
『勝負あり!! 一位アリシア、二位謎の仮面O、三位シェイドでした!! お疲れ様です。次の戦いは……』
容赦なくアリシアがデスリッチの首を切って決着がついた。アンデッドだから大丈夫なんだろうが容赦ねえな……俺はアリシアを絶対怒らさないようにしよう……そう誓ったのだった。
四天王選抜試験の半分も終わり、続きは翌日にやるそうだ。勝ち残った参加者には決起会があるという事で、俺は汚れた衣類から着替えるために部屋に戻っていた。
サティさんも着替えるらしいので楽しみだ。どんな服装で来るんだろう。
「だけど、一回戦も二回戦も一位か……これはひょっとしたらひょっとするかもしれないな」
俺は順調すぎる結果に思わずにやける。それにしても、サティさんの人望や四天王になりたい連中の熱意はすごい。
二回戦もサラマンドという圧倒的な存在に対してみんな逃げることなく立ち向かっていた。三回戦のリリスさんの試験に参加する連中はこれまでよりも強く、そして、より本気で四天王を狙っているのだろう。
「あれ……俺、四天王になりたいんだっけ?」
何か大事な事を忘れているような気がする。何かが引っかかっていると違和感を感じている時だった。少し乱暴なノックの音が響く。
『お休み中もうしわけありません、アルトさん……』
「どうしたんだ、エルダースライム」
扉を開けると珍しく息を乱している彼女の姿があった。見た事の無い状況に俺はとてつもなく嫌な予感がした。
「大変です。リリス様が旧魔王派にさらわれました。どうやらサティと勘違いをされたようです」
「は?」
突然の事に俺は間の抜けた返事をする事しかできなかった。
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