12.バトルロワイアル

転移先には10人くらいの人や魔物がいた、その中には何人か知っている顔もあるが……


 よっしゃーーー!! アリシアもデスリッチもホーリークロスもいない!! とりあえずは最悪の事態はまぬがれたな……

 俺は思わずガッツポーズをする。だが、要注意人物はいるようだ。俺は堂々と立ち、周りをけん制しているかのように睨みつけているサラマンドを見る。


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名前:サラマンド=スターロード

職業:魔王軍四天王の側近

戦闘能力:8534

スキル:獄炎のブレス・威圧感(中)・人化魔術

コミュ症度:9999

備考:四天王アグニの娘であり、魔王軍の一員。能力的には発展途上であるが、勤務を真面目に行っているため、他の竜族たちからも評判はいい。

 ただし、コミュ症なので勘違いされやすいのと、昔読んだ漫画のツンデレが人間の女の子のしゃべり方と勘違いしていることもあり、色々と面倒な事になっている。周りの魔物からは微笑ましいなぁと甘やかされている。

 脆弱な体でありながら、魔王を倒した人間を尊敬しており、現勇者にもアイドルのような気持を抱いている。勇者グッズを勝手にバザーに出されてから父とは険悪である。最近の悩みは父から加齢臭がすることと、先にお風呂に入られる事。

 尻尾が弱点にある逆鱗で触られると力が抜ける上に色々と大変な事になる。


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 アグニ程ではないがかなりの戦闘力の持ち主だ。彼女を一番に警戒しないといけないだろう。弱点の尻尾に触れれば何とかなるのだろうか?



「お前の方が参加したのか……?」

「ん?」



 ケインはなぜか信じられないものを見るように顔をしかめた。さっきまで俺とは話したくないみたいな雰囲気だったのに一体どうしたんだろうな。



「あの人に出てもらえればこんな戦いは楽勝だっただろうに……」

「そりゃあな、元々俺が出るって言いだしたんだし、それに俺には男を見せたい相手がいるんだよ」



 俺はどこかで見ているだろうサティさんを想いながら呼吸を整える。全体的に見ても一番厄介なのはサラマンドだろう。とりあえず姿を隠して様子を見るか……

 いや、待った……それよりもだ。



「お前やっぱり、ティーサさんの正体を気づいたのか?」

「ああ、俺は鼻が良いからな……一度嗅いだ匂いは忘れんよ。握手会で握手をしてもらった時に嗅いだ匂いは一生の思い出だぜ……あまりの嬉しさにここ数年手を洗っていないくらいだ」



 ケインは包帯にまみれた左手を自慢げにかかげる。これって怪我じゃなかったのかよ。どんだけ洗ってねえんだよ。無茶苦茶クサさそうなんだけど!!



「なぜあの人が正体を隠して胸を潰して貴様といるかはわからん……だが貴様のためなんだろうな……だったらファンとして俺は……」

『それではバトルロワイヤルを開始する!! ファイトォォォォ!!!」



 何かを言おうとしたケインの言葉をかき消すようにアグニが開始の合図とばかりに雄たけびを吠えた。それと同時にすさまじい殺気が会場を支配する。


 

「うおおおおおお!!? あっぶねえ!!」


 

 近くのやつを片っ端から倒そうと巨大な体のオークがこん棒を乱暴に振り回し、杖を持ったダークエルフが火の玉を周囲にまき散らして、あたりは混沌と化す。

 確かに強いけど……攻撃はアリシアの方が早いし、魔術の質もデスリッチの方がはるかにやばい。これなら回避だけなら何とかなりそうだ。と思ったのも束の間だった。



「何よ、あんたたち!! その程度で私を倒せると思っているのかしら!!」



 サラマンドは魔術をその身に受け止め、凄まじい速さで、オークの攻撃を避けて、拳をその腹にめり込ます。

 それなりに強いはずのオークがぶっ飛ばされて壁に当たりそのまま意識を失った。その光景を見た観客たちが湧きたつ。



「ぐげぇ……」

「うおおおおおおお!! サラマンドすげえ!!!」

「私は誇り高き竜族なのよ!! これくらい当たり前なんだから!!」

『流石我が娘!! サラマンドマジ美ドラゴン!!!』



 歓声にこたえるようにサラマンドが観客席に手を振る。その口調とは裏腹に顔はにやけており、尻尾は嬉しさを隠しきれないかのように激しくパタパタと動いている。

 いやいや、戦闘力を見て予想はしていたけどあいつだけは別格だわ……多分まともにやったら瞬殺されるだろう。だけど……この様子だと付け入るところはありそうだ。

 参加者たちの視線がサラマンドに集中している間に、俺は姿隠しのローブを着て身を隠す。一定の距離を取って、俺は他の参加者に集中攻撃をされても余裕そうなサラマンドを観察する。



「おい、アルト……そのまま逃げて、生き残るつもりじゃないのか?」

「それでも三回戦はいけるかもしれないけどさ……それじゃあ、カッコ悪いだろ」



 匂いで俺の場所がわかるのだろう、何故かついてくるケインに俺は答える。てか、こいつがいるとサラマンドにばれちゃうんだが……



「何か策があるのか……俺はお前を勘違いしていたようだな。世間知らずのサティ様を騙す悪い人間だと思っていたが、ちゃんとした戦士なのだな」

「何を言って……」



 ケインの俺を見る目がゴミから、尊敬すべき存在を見る目に代わっているのに気づく。何か知らないが彼の好感度が上がったようだ。

 だったらちょうどいい。仲間が欲しかったところだ。



「よかったら手伝ってくれないか? 俺には鑑定スキルがあってな。彼女の弱点は知っているんだ。だから、俺が合図をしたら隙を作ってほしい。そうしたらなんとかする。サラマンドを倒したら、その後は一騎打ちをしてどっちが一位か決めようぜ」

「お前は俺を仲間になれというのか?」

「ああ……先代勇者がどうやって戦闘力がはるかに上の魔王に勝ったと思う? 作戦と……仲間がいたらからだよ」 

「ふん、面白い事を言うな」



 俺の言葉にケインがニヤリと笑う。今のセリフかっこよくなかった? 珍しく決まったぜ!! そして、俺はケインに指示を出して、サラマンドの隙をさぐる。



流石四天王選抜試験に出るだけはあって自信があるのか、それともサティさんに化けたリリスさんや、四天王に良いところを見せようとしているのか、参加者たちは次々にサラマンドに立ち向かって行き、そして撃退されていく。



「ふふん、私が絶対四天王になるんだから!!」

『うおおおおーーー。サラマンドォォォォ!! すごいぞぉぉぉぉ。圧倒的じゃないか!! 5歳までおねしょをしていたお前が……』

「お父さんこれ以上言ったら二度と口を利いてあげないんだからね!!」

『ごめんなさい……』



 サラマンドの言葉でアグニが露骨にへこみ、いつの間にか彼の近くにいたエルダースライムが何事か囁いたかと思うと、アグニに変わり彼女の声が会場に響き渡る。



『いよいよ、二回戦目も佳境に迫ってまいりましたね。このまま圧倒的な力を持つサラマンド選手が勝つのでしょうか? なお、今生き残った方々は三回戦目に進出することは決定しております。そろそろ他の選手も何かを仕掛けてくるかもしれなせんね。どう思いますか、ウィンディーネさん』

『そうですわね……あのヘタレが何で何を考えているのかはわかりませんが、ただ逃げるだけとは思いませんわ』



 どうやら、実況が変わったようだ。アグニはサラマンドの事ばかり喋ってたからな……でも、お前らも俺の事ばかりじゃねーか……てか、姿隠しているんだから、いるって言うなよ……

 だが、それだけ期待をしているってことなんだろう。だったら見せてやるよ。



「ケイン!!」

「今更かかってくるなんて何を考えているのかしら!!」

「はっ、当たらなければなんてことはねえんだよ!!」



 俺が合図をすると、ケインがその素早さを駆使して、ブレスをかわしサラマンドに接近していく。すげえな、戦闘力では圧倒的に不利だが、回避に徹しているためか、サラマンドの攻撃は中々彼を捕えない。

 


「中々やるわね!! でも、逃げてばかりじゃ私には勝てないんだから!! これならどうかしら!!」

「ちっ、俺の動きに慣れてきやがったか!!」



 両手に加え、尻尾も駆使した攻撃にケインの余裕が徐々になくなっていく。もう少しだ。もう少しケインに集中してくれ……

 その気持ちが通じたわけではないだろうが、ケインがこちらを見てにやりと笑った。



「どうしたんだ? 竜族ってのはそんなもんなのか? それとも今日もおねしょをしてきて布団が渇いているか気にしてるのか?」

「なんですって!! こんなこと言われるのお父さんのせいじゃない、馬鹿ーー!!」



 サラマンドの顔が怒りで真っ赤になり、攻撃に激しさが増した。いや、注目を集めろとは言ったがそこまで挑発をしろと入ってねえよ!?



「すばしっこいわね!! これでもくらいなさい!!」

「ぐはっ」



 サラマンドの口から火の塊が吐き出され、サラマンドとケインの間で爆発する。自爆覚悟かよ!! この距離では二人ともダメージを受けるだろうに……

 流石にかわしきれずに、爆炎と共にケインがうめき声を上げて、吹き飛んだ。



「私達火竜は火に対する耐性が強いの。でもあなたたち獣人はどうかしら……あれ、何かしら……?」



 ケインの犠牲を横目に、煙の中俺は気配を消してサラマンドの方へと向かうが、得意げに語っている彼女の尻尾までもうちょっとという所で違和感を感じたようだ。



「姿を隠しているのね!! でも、気配の消し方が甘いわよ!!」


 

 彼女の拳が迫ってくる。悲鳴をあげそうになるのをこらえながら俺はかろうじで彼女の拳をかわす。今よけれたのはほとんどまぐれに近い。だが……



「勝利を確信した時が一番油断しやすいんだぜ」

「くぅぅぅぅ……」



 俺はサラマンドの尻尾の根っこにある逆鱗を掴んだ。すると彼女は苦しそうにしながらしゃがみ込む。ふははははは、鑑定で尻尾が弱点って書いてあったからな!! ずっと隙を狙っていたのだ。

 思った通り彼女は脱力して……あれ、なんか顔は真っ赤だし、汗を垂らしている。なんだろう……この表情を見ているとちょっとエッチな気分になるんだけど……



「くっ……悔しい……でも、感じちゃう……♡」



 サラマンドはきっとした目で俺を睨みながら、どこか艶めかしいと吐息を漏らしながら言った。逆鱗に触れると力がぬけるってそういうことなのかよぉぉぉぉぉ!!


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