11.第二回戦

転移も二回目ともなれば流石になれたものである。俺は隣にサティさんがいることを確認して周りを確認する。

 今度は先ほどよりも大きな闘技場だ。観客たちの声もより大きく聞こえる。四つのフィールドに別れており、それぞれに結界が貼ってあるようだ。



『一回戦お疲れさまでした。一部出題者が暴走してしまいましたが、皆さんの機転や、知恵を見せていただきました。まずはお疲れ様です』



 エルダースライムのナレーション共に観客席から拍手がおきる。一回戦を勝ち残った人や魔物はここに集結するようだ。上の方を見ると屋根の上から俺達を見下ろしているアグニに、貴賓室からエルダースライムと、ウインディーネ、銀髪にこの距離からでもわかるふくよかな胸のサティさん(偽がいる。



『一回戦目の成績優秀者はAグループアルトチーム Bグループアリシアチーム Cグループデスリッチ……じゃなかった。スケルトン仮面0、Dチームホーリークロスチームとなります。まだまだ逆転のチャンスはありますのでがんばってくださいね』



 ほとんど身内じゃねーかよ!! てか、絶対サティさんの好みとか俺の事言っただろ……全員俺とサティさんの気持ちを知っているしな……

 


『二回戦は俺が仕切らせてもらうぞ!! 先ほどの様な茶番はなしだ!! なんだかんだ言っても四天王には戦闘力は不可欠だ。五分の休憩を挟んだら、バトルロワイアルをさせてもらう。ペアのうち代表者を決め、片方にのみ参加してもらい最後まで残った3人のチームまでは次に出場できるぞ!! せっかくだ、参加者の代表に決意表明でもしてもらおうか』



 アグニが上空に火のブレスを吐きながら、説明をした。これもパフォーマンスなんだろうなぁ……観客たちがキャーキャー言っておりアグニもまんざらではない顔をする。

 そして、彼はとある人物を指さした。



『それではサラマンドよ、選手たちを代表してひとこと!!』

「え……その……私が竜族の力を見せてあげるわ!! 恐れおののく事ね!!」

『可愛い!! 優勝!! 三回戦に進むがいい!!』

「ふざけんなーー」

「えこひいきじゃねーかよ!!」



 アグニの言葉に他の参加者たちがすごいブーイングがおこる。そして、サラマンドはというと顔を真っ赤にして顔を隠している。



「父さんの馬鹿……」



 また、親子の溝が深まったようだな。そんな事を思っていると難しい顔をしたサティさんが俺の耳元で囁く。



「それで……アルトさん、どうしましょうか? 直接的な戦いは苦手ですよね? もし、よければ私が参加しますが……」



 そりゃあさ、サティさんが参加すればバトルロワイヤルなら圧勝だろう。だけど、それじゃあ、意味がないんだよな。これは俺がサティさんの隣にいる事を示すための戦いなのだから。



「サティさん、心配してくれるのは嬉しいですが、ここは俺に任せてもらえませんか? こっそりと姿隠しのローブも持ってきたんです。いざとなったら逃げきってやりますよ」

「アルトさん……ですが、魔物の攻撃は強力です。殺意はなくとも大けがをする可能性が……」

『ふん、ティーサとやらよ……そこのヘタレが珍しく男を見せているのだ。見送ってやるのだな』

「うふふ、私のアドバイスが効いたようですね。覚悟が決まっていて素敵です!! 頑張ってくださいね、アルトさん。共に愛しの人によいところを見せましょう!!」



 俺達の話を聞いていたらしき、デスリッチとジャンヌがやってきた。ジャンヌが胸を押し付けているがデスリッチも慣れたのか、ようやく普通にしゃべれるようになったようだ。

 いや、そんな事はなかったわ。こいつ自分の膝にナイフを刺して、その痛みで正気を保ってやがる……



「あなた達は……」

「デスリッチとジャンヌです」


 

 正体に気づかないサティさんの耳元で囁くと、彼女は納得したように頷く。



「なるほど……確かにこの言動そうですね。それにしても……二人はアルトさんを信じているのですね……だったら、私も信じないわけにはいきませんよね……」



 サティさんが意を決したように俺の手を握りしめて、正面から見つめる。



「アルトさん……私は信じてますよ。ちゃんと無事に戻ってきてくれるって……その……私のために頑張ってくれて嬉しいです」

「サティさん……今のでもっとやる気が出ました!! 任せてください。その代わり勝ち残ったらご褒美をくれませんか?」

「はい……アルトさんが欲しいもので私が、上げれるものなら何でも……」



 俺の言葉にサティさんが顔を真っ赤にして頷き、手をぎゅーっと握る。今何でもって言ったよな!! あんなことやこんなこともオッケーなのだろうか……

 うおおおおおお、絶対負けられねえ!!



「お二人とも大丈夫ですよ!! 死んでも30分以内なら私が蘇生できますからね!!」

『貴様は空気を読まんか……』

「あ、いたぁ、今の良いですね。もっとぶってください!!」

『ああ、くっそ、むしろご褒美になってしまった。どうすればいいと言うのだ……この性女……』

「くっそ、あの二人組のバカップルどもこんなとこでいちゃつきやがって……」

「死ねばいいのに……」

「私達ってこの二人と同じ扱いなんでしょうか……」



 デスリッチに叩かれて騒ぐジャンヌのせいで余計な注目を浴びて、嫉妬にみちた視線が集中する。いや、俺達は別にいちゃついていたわけじゃないんだけどな……



「アルト兄ーー!! と変な恰好をしてどうしたのサティさ……もごもご……」

「お前は空気を読んでくれよぉぉぉぉぉぉぉ!!」



 騒ぎで俺達に気づいたらしき、アリシアがこっちにやってきたが余計な事を口走りそうだったので慌てて口をふさぐ。

 こんなところに魔王がいるってばれたら、大騒ぎになるだろうが!!



「アリシアさん……今の私はティーサって呼んでください」

「うん、わかった。でも、ティーサさん、そんな恰好をして参加しているの?」

『ふん、愛しのヘタレのために決まっているだろうが、相変わらず頭の回らん奴だな」

「お前はさっきの変態仮面!! アルト兄、付き合う友人は考えた方が良いよ」

『誰が変態仮面だ……この女……』

「まあまあ、落ち着いてください。それに変態って言われるのもいいものですよ」



 デスリッチを睨みつけた後に、アリシアは俺とサティさんを交互に見つめて、何かを悟ったように頷くと少し寂しそうな微笑んだ。



「アルト兄もティーサさんもお互いのために頑張っているんだね、それで……やっと素直になったんだね……ひとまずはおめでとう。だけど、ティーサさん……私はまだあきらめてないからね!! それとアルト兄!! もし、戦う事になっても私は手加減しないからね!! いや、むしろトーナメントにかこつけてイチャイチャすれば合法的に……」

「アリシア!?」

「アリシアさん!?」

「えへへ、冗談だってば」



 途中まではいい事言っていたのにこいつ……だけど……こいつなりに俺とサティさんの事を認めようとしてくれているのだろう。

 この試験が終わったら色々と話さないとな……



「アリシアも頑張れよ、三回戦で会おうな」

「大丈夫だよ、私は四天王のデスリッチだって倒したんだからね」



 アリシアの言葉にそれまで黙って大人しくしていたデスリッチが口を挟む。



『ふん、まぐれで勝ったからからって調子に乗るなよ。我は魔王軍一の知将なのだからな』

「え? なんで君が怒ってるのさ? まさか、デスリッチの部下とか?」

『あ……』



 やらかしたーとばかりに冷や汗をかくデスリッチ。こいつ本当に四天王一の知将なのだろうか……



『それではそろそろバトルロワイヤルを始めるぞ!! 参加するものはそれぞれの紙を握れ!!』

「じゃあ、私はモナたちの方へ行くね、三回戦で」



 アリシアが向かう方を見るとホーリークロスがモナのほっぺたをぷにぷにしており、それをイザベルが嫉妬に満ちた目でにらんでいる。

 こわ!! あっちも修羅場じゃん。



「では、行ってきますね」

「はい、アルトさんなら応援してますね……あなたならできるって信じます!!」



 そうして、俺達は見つめあい甘い空気が流れ……なかった。



「バフをかけますね、えい!!」

『ぎゃぁぁぁぁぁぁ、やめんか、浄化されるぅぅぅぅぅ!!」



 後ろがうるさすぎるんだよぉぉぉぉぉ!! 俺はげんなりしながらも、強敵がいないといいなぁと思いながら転移されるのだった。

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