9.第一回戦
「へぇー、お前この男と組むのか……? いいのか、俺達を敵に回すことになるんだぜ」
突然の乱入者にケインが挑発するように言葉をかけるが、サティさんはそんな彼に、むしろ失望したとばかりに溜息をついた。
「構いません、それよりもケイン……見損ないましたよ。あなたは正々堂々と戦うタイプだと思っていましたが……」
「わかってるよ!! 俺だってこれが卑怯だっていうことくらいよぉぉ!! でもよぉぉぉぉ。お前にわかるか!? 長年推していた魔王様が突然のよくわからない男といちゃつき始めたんだぞ!! ダンスを踊っている時のあれは完全にメスの顏だったぜ!! 俺なんて『モフモフですね』って言って触ってもらう事を夢見て毎日ブラッシングをがんばっているっていうのによぉぉぉ!!」
泣きながら絶叫するケインを無視してサティさんは、焦ったようにこちらを見る。
「そ、そんなメスの顏なんてしてませんでしたよ!! ねえ、アルトさん!?」
「いや、無茶苦茶嬉しそうで可愛かったですよ」
その言葉にサティさんは顔を真っ赤にする。いやぁ、本当にあの時のサティさんは最高だったな無茶苦茶可愛かったな……ダンスを踊っている時のサティさんを思いだして、俺は無茶苦茶にやけてしまう。
でも、変装をしているとはいえ、こいつらはサティさんファンクラブの連中である。これくらいの変装なんてすぐに見破るのでは?
「なあ、こいつさっきこの女をサティさんって読んでなかったか? よく見れば顔立ちも似て……」
「いや、お前冷静に考えてもみろよ。ほらな……全然違うだろ?」
「ああ、確かに……でも、雰囲気は似ているから俺達同様サティ様のファンかな? 嬢ちゃんこれやるよ、その……育つといいな」
「じゃあ、行くか―。アルトと嬢ちゃんには負けねえからな!!」
一瞬ざわついたファンクラブの連中だったが、サティのとある部分を見て、別人と納得したようだ。むしろサティさんの顔立ちを見て仲間と思ったのか、少し暖かい目でをしながら牛乳を差し出すとそのまま奥へと入っていった。
「へぇ……なるほど……なるほど……」
受け取った牛乳を手に掴みながら、ぷるぷると震えているサティさん。にこやかに笑っているが、無茶苦茶怖いんですけど!!
「あのサティさん……」
「ファンクラブは害がないと思って放置しておきましたが、解散させた方がよさそうですね」
うわぁ、あいつら死んだわ。まあ、変装しているとはいえ、ちょっと?胸が小さくなっているくらいでサティさんの正体に気づかない程度の愛なのだ。
彼等には己の愚かさを悔いてもらおう。
「まあ、俺があいつら全員分……いや、それ以上に推して見せますよ」
「もう……アルトさんの馬鹿……おや、ケインが残っていますね、どうしたんでしょうか?」
一人だけ残って遠目からこちらを見ていたケインはなぜか、サティさんの視線に気づくと敬うようにお辞儀をして他の連中を追いかけていった。あいつまさかサティさんの正体に気づいたのか? それよりもだ……
「サティさん……いえ、ティーサさん、なんでこんなところにいるんですか? 貴賓席で四天王と一緒に俺達の戦いを見ているんじゃ……?」
「その予定だったのですが、リリス叔母さまに『今の時代は、女も一緒に戦うものよ』と言われまして……せっかくなので参加してみました。ちなみにリリス叔母様が私の変わりに貴賓室に変装をして観戦をしてくれるそうです」
「ああ、そういえば変化魔術を使えるんでしたね。それで変身しているのか」
「はい、リリス叔母さまは、他の魔物そっくりに変化できますし、物や空間の性質も変化させることができるんです」
「すげえ……魔王の血筋は伊達じゃないってことですね」
サティさんそっくりとなると胸が……と思ったが、そこらへんはエルダースライムが上手くやるだろう。
「それに……アルトさんが頑張っている所を特等席で見たかったんです」
「サティさん……」
目をうるわせてそんなに可愛い事をいう彼女を前に俺は抱きしめたくなる主導に襲われる。でも、それは今じゃないと言い聞かせる。
「ありがとうございます。でも、サティさんに頼りっきりになる気はないので、できるだけ俺に任せてくれたら嬉しいです。」
「もちろんです。私だって結構厳しい所もあるんですからね……でも、私はアルトさんがすごいっていうのをたくさん知ってますからね」
腕をグッと握って微笑むサティさん。可愛いな、おい!! だったらその期待に答えなきゃな!!
俺達が先に進むとドーム状の空間があり、他の参加者たちがすでに待機していた。そして、俺達を囲うように、観客席があり、多種多様な魔物や人間達が参加者を見ている。
なんというかすごいな……確かにこれだけの目線の中で結果を出せれば……
最後になった俺達が足を踏み入れると同時に入り口に鉄格子いや……これはミスリル格子が落ちてくる。
「これは……コロシアムかよ……」
「逃げ道を塞がれましたか……アルトさん、私から離れないでくださいね」
俺が緊張しているとサティさんが手を握って激励をしてくれる。おかげで冷静になれた。戦いはもう始まっているのだ。大丈夫、今の俺はブラッディクロスさんすら凌駕する存在だ!!
俺は鑑定スキルを使い、厄介そうな相手をピックアップしていく。そして、あらかた目星がついた時に空から一人の精霊が降りてきた。
『レディース&ジェントルメン!! 本日はお日柄も良く、新たな四天王を選ぶのにふさわしい日々ですわ!! 一回戦は私ウィンディーネが担当させていただきます』
その言葉が終わると同時に空から水が降り注ぐと、地上に落ちる間に鳥や、馬、ドラゴンなどに形をとって空を舞う。
その幻想的な光景に観客はどころか、参加者すらも、夢中になる。流石ハコネィで観光業をにぎわせていたウィンディーネだろう。
『それでは準備が整いましたので、一回戦を始めるとしましょうか』
水芸が終わると会場に降り立った水はそれぞれ大きな〇と×をかたどっている。一体何が始まるというのだろうか?
『この昨今、四天王に必要とされる力も、多様化してきましたわ。ですが、絶対必要なものは存在しますの……それは魔王様への忠誠心ですわ!! というわけで……第一回戦『魔王サティ様ドキドキクイズ大会』開始ですわ―――!!」
「「は?」」
俺とサティさんが同時に声を発した。いや、マジで何言ってんの?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます