8.意外な仲間
『それではここで二人組をつくってください』
その一言で一瞬固まった俺だったが、冷静に考えれば、俺には鑑定スキルがあるのだ。いきなり二人組を組めと混乱している中、有力な参加者と手を組めばむしろ試験を有利に進めるはずだ。
このグループにいるのは魔物ばかりだな……あとはフードを深くかぶった男か……なんか胡散臭い。
「なあ、あんた、よかったら俺とペアを……」
「はっ!! その匂い、モブっぽい顔……あんたはアルトだな!! わりいが俺はむしろあんたを倒すために参加したんだ。組まねえよ!! そして、俺以外もあんたと組む人間はいないと思うぜ」
近くにいた中で一番戦闘力の高い左手に包帯を巻いた獣人に声をかけるが、冷たくあしらわれる。こいつは俺の事を知っているのか……? しかも、無茶苦茶嫌われているんだけど……嫌な予感がした俺は、この獣人を鑑定する。
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名前:ケイン=ビーストキング
職業:四天王エルダースライムの部下兼サティ様ファンクラブ幹部
戦闘能力:545
スキル:咆哮、上級爪術・人化・異常嗅覚・神速・オタ芸
趣味:サティ様ファンクラブの活動。
備考:普段は、門番として魔王城を守っている。少々短期だが、部下にも優しく、人望も厚い。その素早さは魔王軍でもトップクラスであり、『疾風のケイン』と呼ばれている。
オフは慣れない魔王を頑張っているサティ様の応援、及びファン活動をしている。彼の獣人特有の身体能力を活かしたアクロバティックなオタ芸は、ファンクラブでも有名である。四天王になるのもサティさんの近くにいたいから。
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サティ様ファンクラブだと……何それ、俺も入りたいんだけど!!
「アルト……貴様は一体なんなのだ? いきなり現れてサティ様とダンスを踊るとは……いつもはエルダースライム様としか踊らないというのに……」
ケインは悔しそうに涙ながら語る。そっか……サティさんはいつもは他の男と踊ったりはしないんだ。つまり、俺は特別というわけで……だから、あんなに囲まれたのだろう。
無茶苦茶嬉しいな!!
「まあいい、貴様がこれ以上進むことは無い……なぜなら、貴様は我々ファンクラブのオリハルコンの戒律である『頑張る姿と大きなおっぱいを遠くから見守ろう。抜け駆けダメ絶対』を破ったのだからな!! いくら人間でもそれは許されんぞ!!」
「いや……俺はそもそもファンクラブに入っていないんだけど……」
「やかましい!! 魔物も人もみなサティ様のファンになるんだよ。一生懸命頑張る姿とか無茶苦茶可愛いだろ!! 力になりたくなるだろ!! そう思ったらお前はもうファンだ!!」
「くっ……正論すぎて反論できねえ……」
この獣人何て説得力のある言葉を言うんだ。あんなに可愛い女の子が頑張っていたら力になりたいに決まっている。
そして……俺はリリスさんが言った意味が少しわかった気がした。サティさんは魔王だ。このファンクラブの獣人ほどでないにしろ彼女を信仰している魔物はいるだろう。そんな彼女の隣を歩くにはそれなりの地位や力が必要なのだ。
「だったら、俺がサティさんの隣にふさわしい人間だってお前らに見せてやるよ!! この四天王選抜試験を勝ち残ってなぁ!!
「ふん、何を言うかと思えば……貴様ごときに何ができると言うのだ!! それにここにはお前と組む魔物はいないぞ。神は俺達の味方の様だ。集まれ、同志たち!!」
ケインが上着を脱ぐとその下に笑顔のサティさんがプリントされたTシャツが露わになる。いや、それだけじゃない。他の参加者たちも全員おんなじTシャツを着てやがる!!
「流石サティさん……こんなにファンがいるなんて……でもこれじゃ……俺は二人組すら作れない……」
不幸にもここにいるのはファンクラブの連中ばかりのようだ。彼らは完全に俺を敵視している俺一人で何とかやるしかないのか……
てか、チーム分け理不尽過ぎない? 悪意を感じるんだけど!!
「全くよってたかって……あなた達も魔物ならば正々堂々と戦おうと考えないのですか? まあ、その……魔王様にそれだけ忠誠を誓っているのは素晴らしいと思いますが……」
「え? あなたは……」
俺達の争いに呆れた声で割り込んできたのはフードの男だ。いや、彼がフードを脱ぐと青い髪と端正な顔が露わになる。いや、違う……彼は男じゃない。見覚えのある青い髪に男と間違うほどのスレンダーな体つきの少女……
「サティさん? なんでこんなところに? 今は貴賓室にいるはずじゃ……」
「サティ? いいえ、私はティーサです。それよりも、話は聞いていました。アルトさんは組む相手がいないんですよね? でしたら私と組みませんか?」
彼女は俺に向けてほほ笑んだ。いや、無茶苦茶心強いけど、流石に反則じゃない?
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