5.特訓
「じゃあ、まずは私と稽古をしよう。どこからでもいいからかかってきてよ」
街から少し離れた平原で俺はアリシアと向かい合っていた。彼女は訓練用の木剣をぶらーりと構えている。
優れた達人はあえて隙を作るという……アリシアのもそれだろう……俺は警戒しつつ鑑定スキルを使う。
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名前:アリシア=ペンドラゴン
職業:勇者
戦闘能力:999
スキル:魔物感知・精霊魔術・聖魔術・神級剣術・聖剣使い・対魔物特攻 etc
好感度:99999オーバー
備考:王都にて勇者として必要な魔術や剣術を教え込まれた人類最強の現勇者。久々にアルトに会えたので訓練とかこつけてイチャイチャしようとしている。
最近はモナに言われ有事の時用にエッチな本を読んで色々と勉強をしている。
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いや、イチャイチャするために隙を作ってるのかよ!! てか有事って何? ねえ、なんなんでしょうね? 俺は思わずアリシアの豊かな胸を見て生唾を飲んでしまう。
「早くかかってこないならこっちから行くね」
「え?」
それは一瞬だった。彼女の言葉が聞こえたと同時に俺の剣は弾かれて宙を舞っていた。なにこれ? 強すぎる……これが勇者の力なのか……
「えへへ、どう、アルト兄? 私強いでしょー」
「ああ……そうだな……」
得意げなアリシアとは対照的には俺はへこむ。そりゃあ、アリシアは強いとは思っていたが、俺だって中堅の冒険者だ。ここまで一方的だとは思わなかった。
「どうしたの、大丈夫? その……おっぱいもむ?」
「いや、お前何言ってんだ? てか、自分で言って恥ずかしくなるならやめろっての」
胸を強調するように両腕で寄せているくせに、顔が真っ赤なアリシアに呆れながら注意をする。本当に揉んだらどうするつもりだったんだよ。いや、揉まない……けど……
「うう……だって、モナから借りた本に、へこんだ男の人を励ますにはこれが一番だって書いてあったんだもん」
「ふふふ、巨乳好きのアルトにはこれが一番でしょ!!」
アリシアは恥ずかしそうにしながらモナを指さす。彼女は「どうかしら!!」とばかりにどや顔をしていた。このエロリっ子、アリシアになんて教育をしているんだよ。
いいぞもっとやれ!! じゃなかった……それはともかくだ。
「自分で言うのもあれだが、アリシアと俺じゃあ実力に差がありすぎて訓練にすらならないんな……これで本当に俺はアリシアに勝てたりするようになるのか?」
「何を言っているの、勝てるわけないじゃないの。あなたは勇者パーティーでもないただの人間なのよ」
「は? じゃあ、俺はなんのために……」
俺が抗議をすると、モナは「ふふん」と鼻を鳴らしてどや顔で言った。
「でも……あなたの目はアリシアの早い動きに反応できるくらいにはなるわ。そして、鑑定にスキルを持っているあなたにはそれが何よりも大事な事よ。この本にも弱点を減らすよりも長所を活かしなさいって書いてあったわ」
「そう言う事か……」
確かに今更素振りだのなんだのするには時間が少なすぎる。人類最強のアリシアを目で追えるようになれば、大抵の相手の動きは見えるだろう。そして……見えれば鑑定をすることができて、弱点がわかるかもしれない。
無茶苦茶納得したけど、デスリッチの案っていうだけでなんだかむかつくな。
「じゃあ、アルト兄訓練を続けようか!! 次は組手だよ」
「え? 組手じゃ動きはあんまり見えないだろ……なにこれ力やば!! まじで微動だにしないんだけど!!」
「えへへ、アルト兄の匂いだぁ……やっぱり癒されるなぁ……」
俺はそのままアリシアに押し倒される。これじゃあ、訓練にならないだろと抵抗しようとしたがが、押し付けられる柔らかい感触に全てがどうでもよくなる。
まあ、これは訓練だししかたないな。
「次は私の特訓よ」
そう言ったモナの指導でアリシアと一緒に俺はテラス席のあるカフェにいる。目の前に有るのはカップルメニューとやらの金魚鉢のような巨大なコップに、ハートの形をした二つの口がある特徴的なストローが刺さっている。
下の方の穴は一つだが、途中でストローが二つに分かれており飲み口は二つになっているのだ。これって強制的に間接キッスじゃねえかよぉぉぉぉぉ。
「だ、だめだよ、アルト兄。モナも言っていたでしょ。『どんな状況でも冷静に、複数人を対象にスキルを使う特訓』だって。だから一緒に飲も!!」
「ああ、そうだよな……これは特訓だもんな」
俺の事を好きだという女の子との間接キスにドキドキしながらストローに口をつける。見るとアリシアも顔を真っ赤にして……あ、むっちゃ幸せそうな笑みを浮かべている。くっそ、可愛いな、おい……
それはともかく、俺は街を歩く人を片っ端から観察し鑑定をする。
「確かにこれは……疲れるな……」
純潔派との戦いでも思ったが、一人をじっくり鑑定した事はあっても、動く複数人を同時に鑑定という経験はあまりなのだ。レベル上げには薬草とかを使ってたしな……
一気に入ってくる情報に頭がパンクしそうになる。
「アルト兄、大丈夫?」
「ああ、少ししんどいが……何とか乗り越えてみせるさ」
「いや、そうじゃなくて、サティさんがすごい目で私たちを見てるよ」
「え?」
アリシアの指さす方を見てみると、街を視察にでも来たのだろうか、エルダースライムや護衛らしき魔物を引き連れているサティさんと目が合って……ぷいっっと視線を逸らされた。
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、最悪だぁぁぁぁぁぁ。これじゃあ、告白したのに速攻他の女といちゃついてるクソ野郎じゃん。いや、マジで最悪だな!!
そんな風に絶望している俺の目の前に二人の少女がやってきた。
「ねえ、ちょっと……あんたが勇者なの? 四天王選抜試験は近いのに、男といちゃついているなんてずいぶんと余裕ね。私は今日も鍛錬をしていたっていうのに……」
「君は何かな? アルト兄とのデートを邪魔するなら容赦しないよ」
一触即発な雰囲気を醸し出しているのは赤い髪に立派な角が二本生え、臀部からは立派な赤い鱗の尻尾が生えた美少女と、その一歩後ろに控えている黒髪の少女だ。彼女にもまた、人間ではないという証の角と黒い鱗に覆われた尻尾がある。なんだ、こいつら? アリシアが勇者とわかって喧嘩を売ってきたのか?
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