幕間 ピエールの末路

「なんでこんなことに……」



 ピエールは教会にある隠し通路から必死に逃げていた。いきなり巨大な火竜が現れて拠点にしていた教会にブレスを吐いていき破壊していったのだ。何重にも結界を張っていたはずなのに、何もなかったかのように焼き払うその力を思いだすと体が震える。

 やはり魔物達は畏怖すべき存在だ。



「だが、今頃魔物どもはジャンヌの力で……」

「そうはならんよ、彼らならばやってくれるだろう」



 ピエールの独り言ちに何者かが答える。その声の主はまるで待ち合わせにやってきた友人に語り掛けるような態度である。



「何者だ!! ここは私しからないはず……」

「この教会はかつて魔王との戦いでの最前線だった。そして、そこには勇者もいた。ならばその子孫が知っていてもおかしくはないだろう?」

「貴様は……」



 壁に寄りかかっていたのは銀ピカのやたらと光る鎧を着た壮年の男だった。ピエールは目の前の男を知っていた。いや、王都に住んでいた人間で彼を知らないものはいないだろう。

 かつて勇者にもっとも近いと言われ、人類で二番目に強いと自負する男である。



「ホーリークロス!! ちょうどいい。私をまも……ひっ!?」

「人の従妹を命の危機に晒しておいて、助けてくれとはずいぶんと図々しいお願いだな」



 ホーリークロスの剣がピエールの喉元に突きつけられる。こいつ……私がジャンヌにつけた腕輪の正体に気づいたのか? まずいまずいぞ……

 必死に言い訳を考える。



「待て!! 彼女は自ら今回の件には志願したのだよ。聖女としてね!! それに、力を制御できなかった彼女を救ったのは我々純潔派だぞ」

「ああ、もちろん、覚えているよ。そして、一生後悔していたよ。貴様らの力を借りるしかなかった自分に……何よりも彼女に恐怖してしまった自分にね……」



 そして、そのまま剣を振るう。ゴンという音共に、刀身で叩かれたピエールは意識を失った。満足そうにうなづくと、すさまじい魔力が空中で爆散する音が聞こえた。



「やってくれようだな。ありがとう、アルト君……デスリッチ殿……さて、私はこいつらの後始末をするか」



 ピエールを担いで王都へで向かう事にする。彼には王の命令もなく魔王軍を攻めた責任を負ってもらわなければいけないのだから。

 これで、純潔派は力を失うだろう。いや、失わせて見せる。もう二度とジャンヌに手や口を出せないようにしないとな。



「ホーリークロス、早く行くわよ。ワイバーンを待たせているわ」

「ああ、ありがとう、イザベル」



 彼の様子を見に来たイザベルに礼を言う。ジャンヌは王都には帰ってこないかもしれない。だけど彼女が望むのならばそれもいいと思う。これまで色々と我慢をしてきたのだ。これから自由に生きてほしいと思う。

 あの時恐怖してしまった罪滅ぼしではないけれど、彼女が幸せになればいい。そう思うのだった。










この作品の二巻が電撃新文芸様より8月17日より発売されます。表紙にはジャンヌとモナもいます。買ってくださると嬉しいです。

また、今日より発売日まで毎日更新いたします。よろしくお願いします。







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