27.記念パーティー

「ありがとう、エルダースライム」

「いえいえ、これもサティのためですから。ちゃんとあの子の事を見てくださいね」

「それだけじゃないって。最初からジャンヌを殺すつもりはなかったよな?」



 俺の言葉にエルダースライムは一瞬押し黙る。そして、少し気まずそうに口を開く。



「そりゃあ、サティの知り合いですからね。ですが、打つ手がなかったらその時はわかりませんでしたよ」

「そっか……それでも、できるだけ守ろうとしてくれた気持ちが俺は嬉しいよ」



 彼女に別れを告げて、俺はパーティー会場にたどり着いた。戦ったせいで薄汚れた服装だったが、警備の人に武器を預けるとあっさり入ることができた。

 パーティー会場にはテーブルの上に豪華な料理が並び、様々な魔物と人間が酒を飲みながら歓談していた。俺がしばらくそれを眺めていると壇上にドレスを着た美しくも威厳のある少女……サティさんが登場した。

 そして、彼女はパーティーに集まった皆の顔を見て……あ、一瞬俺と目が合うとにこりと笑ってくれた。演説を始める。



「皆さん、今日は集まってくれてありがとうございます。魔物も人もここでは平等に生きることができます。魔物と人……魔王と勇者は長年争ってきました。ですが、戦っているだけでは真の平和は訪れません。魔物には魔物の長所が人には人の長所があります。共に力を合わせてこれから発展していきたいと思います」



 周りの参加者たちはうなづいたり、笑顔で話しを聞いている。それを見て、サティさんは満足そうに微笑みながら話を続ける。



「もちろん、長年の対立はそう簡単に解消されるものではなりません。私自体、人間の街に潜入をして様子を見ていましたが、魔物と人の共存は難しいと思っていました。ですが、とある一人の青年と会って私は自分の考えに自信を持つことができました。その青年は私の正体を知ってもそれまでと同じように接してくれたのです。今、ここにいらっしゃる方のように分かり合える魔物と人間は必ずいます。このパーティーが魔物と人の共存の一歩になることを願っています」



 サティさんがお辞儀をすると、会場内に割れんばかりの拍手が産まれる。これを見ているとサティさんの夢も実現できると思う。純潔派みたいなやつらもいるけど、こうして賛同してくれる人たちだっているんだ。

 そして、ダークエルフが竪琴を奏で、セイレーンたちが美しい歌声を披露する。生演奏ってやつである。心地よい音色を楽しんでいると人や魔物の一部が踊り始める。



「へぇー、いいな」

「じゃあ、私と一緒に踊ってくれませんか?」

「え?」



 俺が振り向くとこっそりとこちらにやってきたのサティさんがちょっと得意気な顔をして立っていた。先ほどまでの凛々しい彼女とのギャップと素晴らしいドレス姿に思わず見惚れてしまう。



「でも、今の俺は服とか汚いですし……こういうのって身分が高い人と先に踊るんじゃ……?」

「朝からエルダースライムが忙しそうにしてましたし、アルトさんはきっと私のために頑張ってくれていたんでしょう? それに……そんなのはどうでもいいんですよ。私はアルトさんと踊りたいんです。ダメですか?」



 周囲の人の視線が集中する。そりゃあ、魔王様がよくわからない人間が踊りに誘っているのだ注目を浴びるだろう。だけど……彼女はそんなのを気にしないで声をかけてくれているのだ。

 そして……俺が見るべきは周囲の視線じゃない。誘って断れたらどうしようと少し弱気になっている目の前の少女だ。



「では、喜んで。といってもダンスはあまりわからないんですけど……」

「構いませんよ。こういうところでは好き勝手に踊ってたの楽しめばいいんです」

「ではお言葉に甘えて……」



 そうして、俺は彼女の手を取って一緒に踊る。最初は緊張していた俺だが、彼女があわせてくれるおかげか、こけたりすることはなかった。礼儀も作法もあまりわからなかったけれど、彼女とのダンスは楽しく、この時間がずっと続けばいいって思った。













この作品の二巻が電撃新文芸様より8月17日より発売されます。表紙にはジャンヌとモナもいます。買ってくださると嬉しいです。

また、今日より発売日まで毎日更新いたします。よろしくお願いします。

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