26.聖女と奴隷
「え……だって、これは私の力を抑えるためのものじゃ……」
「違う、これは自己犠牲の腕輪っていうものらしい……デスリッチ知ってるか?」
『教会め!! これは前勇者時代の遺物だろうに……こんなものをまだ使っていたのか!! この腕輪は勇者が現れる前に、その身を犠牲にして魔王を殺そうとした連中がつくった物だ。勇者が現れたことによって破棄されたはずなのだがな……』
腕輪の正体を知ったデスリッチが険しい顔をする。当たり前だろう、こんなもの自爆アイテムじゃないか。しかもジャンヌはそれを知らないでつけられていたというのだ。残酷すぎるだろ。
「デスリッチさっさとそれを外せ!! ぶっ壊すぞ」
「ははは、魔女に、魔物どもめ!! これでお前らも終わりだ!! これで我々人間に平和が……」
「黙りなさい、不快です」
わめく騎士の口をエルダースライムの触手が封じる。そんな傍からジャンヌの腕輪にひびが入る。そして、ひびが広がっていき徐々に魔力が溢れ出しそうになり、彼女が必死に抑える。
なんだよ、これ……ああそうか、こいつら最初っからジャンヌをこうするつもりだったのか?
「私……魔女って……やっぱり私がわがままを言ったから神様が怒ったのでしょうか? ちょっとだけですよ……ちょっとだけ自由になりたいって願っただけじゃないですか……今まで一生懸命頑張ってきたじゃないですか……それなのに、なんで……」
『ジャンヌ……』
彼女の目からポロポロと涙が溢れ出していく。そんな彼女に俺はなんといえばいいかわからなくなる。そんな間にも腕輪が徐々に砕け散っていって……
「オベロン様……お願いします。私を殺してくれませんか? 私が死ねば腕輪の発動も止まるかもしれません。魔王様やオベロン様が頑張って作った街を壊すわけにはいきませんから……」
「『なっ』」
ジャンヌの言葉に俺とデスリッチは思わず訊き返す。確かに腕輪が彼女の魔力を使っているならば彼女が死ねば魔力の供給がとまるかもしれない。
だけど既に発動途中だ。このまま爆発するかもしれないし……それに何よりも彼女に死んでほしくないと思う自分がいた。
「あなたがやれないというのなら私がやりましょうか?」
『エルダースライム、貴様……!?』
「それとも魔王軍四天王一の知将というのはその程度なのでしょうか? そんなんだから勇者に初恋の人を奪われるのです」
エルダースライムの本気か冗談かわからない言葉にデスリッチは唸りながら怒鳴り返す!! それを見て彼女がニヤリと笑ったのを俺は見逃がさなかった。
『ぐぬぬ、まったく……我を舐めおって!! ジャンヌも勝手にあきらめて、全てを悟ったような笑みを浮かべる出ない!! 作り物みたいで……昔のカレンみたいで不快なのだ。アルト!!」
「任せろ!! 腕輪の構成は封印術2割。魔力吸収2割……これどんだけ複雑なんだよ!!」
文句を言いながらも俺は構成をデスリッチに伝え、彼は『根源壊し』を使い、腕輪の根源を破壊を試みる。
魔力があふれるのが先か、デスリッチが壊すのが先か……
「オベロン様、アルトさん、私の事はもうどうでも……」
「『よくない!!』」
「お前は俺と一緒に恋バナをした友達だろ!! どうでもいいはずがないんだよ!!」
『貴様は我の奴隷だろうが!! 素直に助けられるがいい!!』
弱気になっているジャンヌの言葉を俺達は否定する。なんだよ、これ。今までさぁ、散々聖女として頑張ってきたジャンヌがこんなに辛い目にあっていいはずがないだろう!!
そして、腕輪がもうひびだらけになった瞬間だった。
『外れたぁぁぁl!!! ふははは、我の才能が憎いな!!』
「これはいただきますね」
ジャンヌの腕から外れた腕輪をエルダースライムが触手で拾うとそのまま空の方へと伸ばす。すさまじい早さで伸びていく触手が点のようになった時だった。
轟音と共に空の上で魔力が爆発する。これが地上で発動していたかと思うとゾッとするけれど、こうしてしてみると、どこか華やかで綺麗だった。
これでジャンヌも無事……と思ったがそうはいかないようだ。なぜか胸を押さえて苦しんでいる。
「皆さんありがとうございます……ですが、私から離れてください。腕輪が無くなった今、力が暴走する前に……」
「ああ、そうか……ジャンヌの力を吸収している腕輪がなくなったから……」
元々腕輪はジャンヌの力を吸収していたのだ、ならばそれが無くなった今、それが溢れ出す可能性がある……絶対領域とやらの効果を俺は知っている。あれが広範囲に広まれば俺達は吹き飛ばされて圧死するかもしれない。
ジャンヌの言葉に俺は距離を取ろうとするが、デスリッチはそれはとは対照的に彼女を抱きしめる。
『ふん、何を言っているのだ? 自分の力なのだろう。覚醒したばかりならばともかく、貴様は聖女として……そして、勇者のパーティーの一員としてその力を使っていたのだ。制御できないはずがないだろう?』
「オベロン様は私を信じてくれるのですね……でも、私は……」
ジャンヌは何か辛い事でも思いだしたかのように彼女は唇をかむ。そんな彼女にデスリッチが厳しい目をしながら訴える。
『やかましい!! そもそも、神の加護なのだぞ!! 制御できない者に授けるはずがないだろうが!! 弱気になりおって……信じられないならば我を……貴様の憧れるオベロン=アンダーテイカーを信じろ!! 我が断じよう!! 貴様なら必ずできると!!」
「オベロン様……」
デスリッチの言葉にジャンヌの瞳にわずかにだが、希望が宿る。確かに、鑑定をした時に制御できないなどの鑑定結果は無かった。つまり、本当は制御できるだけの力があるけど、今まで腕輪に頼っていたから制御できないと思いこんでいるだけではないだろうか? 彼女に足りないのはおそらく自信だ。だったら……
「ジャンヌ!! このままでいいのか? お前はデスリッチの愛奴隷になってスライム攻めとか、放置プレイとかをしてもらうんだろ!! だったら、今、制御できなきゃダメだろ!! デスリッチもジャンヌを自分の奴隷だって認めたんだからさ!!
「アルトさん……そうですね……私はオベロン様にあんなことやこんなことをしてもらうためにもここで頑張らなきゃなんですよね……」
『は?』
俺の言葉にジャンヌは一瞬目を見開いてうなづいた。デスリッチが何言ってんだ? みたいな顔でこちらを見つめてきたがきにしない。
「そうです!! 私はこれからオベロン様に首輪をつけてもらってお散歩デートしたり色々するんです。それに……ご主人様に『力を制御しろ』って命令されたんです。ここで日和ったら奴隷失格です!!』
『え? いや、我はそんなつもりで言ったわけでは……』
「うわぁ……この男クズですね……童貞を拗らせていたとは思いましたがここまでとは……」
まばゆい光と共にジャンヌの力が彼女の体内に吸収されていく。その姿はまるで後光がさしているようで……天使が降臨してきたように美しく神秘的だった。
「えへへ、皆さんのおかげで制御できました。ありがとうございます」
そう言うとジャンヌは涙をぬぐって立ち上がり微笑んで……力尽きたように倒れた。デスリッチが慌てて受け止めて、安堵の吐息を漏らす。
『心配はいらん、気を失っているだけだ』
「解決したようですね……では横になっている聖騎士達(ゴミ)の後始末は私がしておきましょう、アルトさんはサティの元に向かってもらえますか? 私の分体が運びますのでご安心を」
「ああ、わかった。でもどうやって……」
エルダースライムは平べったくなると俺を乗せてすさまじい早さでパーティー会場に向かうのだった。
この作品の二巻が電撃新文芸様より8月17日より発売されます。表紙にはジャンヌとモナもいます。買ってくださると嬉しいです。
また、今日より発売日まで毎日更新いたします。よろしくお願いします。
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