25.腕輪の正体

『ふははははは、人間ごときが我らに勝てると思ったのか!! さっさと聖女を寄こせ。そうすれば命だけは許してやる』

「そうだ、今はデスリッチ様も機嫌がいい。これ以上逆らうならば、拷問をしたあげくアンデッドにするぞ。デスリッチ様が!!」



 デスリッチに便乗して俺も周りを煽る。『貴様、我に全てをおしつけようとしているな』っていう顔をしてくるが舌をべーと出して返事をする。

 そんな中一人の聖騎士が震えながらも剣を構える。



「くっ、魔物どもめ!! だが我らには神の加護がある。絶対に負けるはずがないのだ!!」

『ふん、貴様らの神はたった一人の少女に全てを押し付けるのか、何とも傲慢だな』

「当たり前だろう、聖女なのだか……うぐぁ!!」

「デスリッチ!!」



 聖騎士の言葉にデスリッチが舌打ちをして風で作られた玉を飛ばして吹き飛ばす。俺は慌ててデスリッチが吹き飛ばした聖騎士を見るが、骨こそ折れているものの、命に別状はないようだ。よかった……



『ふん、エルダースライム達が殺していないというに我が殺すわけにはいかんからな』

「よかったですね。聖女を見つけることができたようで何よりです」

「うおおお、エルダースライム? 聖騎士たちは……?」



 いきなり耳元で囁かれて俺は大きな声を上げる。いつの間にかすぐ横にエルダースライムが立っていた。

 ああ、そっか、こいつは肩に乗っていた分体か!! 



「8割を戦闘不能にしたのでこちらに意識をうつしてみました。街の中の奇襲はウィンディーネが喰いとめ彼らの拠点はアグニが破壊しに行きました。もう、今の彼らには何もできないでしょう」

「200人くらいいたんだけどなぁ……てか、四天王ってやっぱりやばいんだな……」

「それよりも感動のシーンですよ。デスリッチがモテるなんてレアなイベントは何百年に一度しか見れないでしょう。一緒に楽しみましょう」



 エルダースライムは何事もなかったかのような態度で、結界の張られている棺桶を開けるデスリッチを眺めている。彼女にとっては純潔派なんて本当に敵ではなかったのだろう。

 それはそれとして、確かにデスリッチに助けられたジャンヌがどんな反応をするか気になる。てか、あの棺桶すっげえ厳重に封印されているのにあっさりと開けるな……



『目覚めよ』



 デスリッチが目を瞑っているジャンヌに手をかざすと不思議な光に包まれる。そして、彼女は寝ぼけ眼で目を開く。



「うう……確か急に眠くなって……あれ、オベロン様なんでここに……? 」

『決まっているだろう、貴様は我の愛奴隷なのだ。奴隷が主人をおいて勝手にどこに行くというのだ』

「オベロン様……まさか私を心配して……うわぁぁぁぁぁん、嬉しいです!! しかも、あなたの奴隷として認めてくれたのですね!! ありがとうございます!!」

『おっぱい……』


 

 デスリッチの顔を見たジャンヌが泣きながら抱き着いた。胸が当たっているせいかまたデスリッチが壊れてしまった。

 まあ、これで解決かなと思ったが俺は何かが引っかかっている。この様子だと、ジャンヌは力を使うのを納得どころか、事情も説明されていないんだよな。

 だったら、なんで彼女をここに連れてきたんだ?



「はは、ピエール様の言うとおりだ。アンデッド相手に抱き着くとは……聖女様は穢れてしまった。腕輪の封印を解いておいて本当に良かった」

「は? 封印」



 俺は嫌な予感がして、ジャンヌの腕輪を鑑定する。そして、思わず叫ぶ。



「デスリッチ気をつけろ、その腕輪は……」



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名前:自己犠牲の腕輪 


効果:持つ者の魔力を吸収する力がある。常に魔力を吸収しており、外したり封印が解けると強制的に魔力が放たれる。その際に全魔力と生命力を消費するため、持ち主は命を失う。


備考:かつて魔王を倒すために作られた遺物。勇者が現れたことによって時代の影に消えていった。

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「ジャンヌの魔力を抑えるものなんかじゃない……吸収して、放つための道具だ!!」

「え? そんなはずは……」

『なんだと……』



 俺の言葉にデスリッチはもちろんの事はジャンヌも信じられないとばかりに腕輪を凝視した。



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この作品の二巻が電撃新文芸様より8月17日より発売されます。表紙にはジャンヌとモナもいます。買ってくださると嬉しいです。



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