24.四天王の力

城壁から見回すと街の方に向かった十字架が刺繍された旗を持った200人ほどの集団が進んでくる。初めて見る数の敵に俺は驚いた声を上がる。 



「すげえ、人数だな……」

『よくもまあ、魔王城の近くでこれだけ集めたものだ……本当は小規模な嫌がらせでもするつもりだったのだろうが、あの女を手に入れたことで調子ずいて全力を注いんだってところだろうよ』

「四天王が集結しているとも知らずにか……」



 俺の言葉にデスリッチがうなづいた。普段はサティさんはもちろんのことエルダースライム以外の四天王もずっと魔王城にいるわけではない。

 今回は別件でたまたま四天王たちが魔王城に集結しているのだ。俺達のとっては幸運で、彼らにとっては不幸なことにである。



「すげえ、一人一人がブラッディクロスさんと同じくらいの力を持ってるんだけど!!」

『ふん、流石は聖騎士という所か……人間にしてはやるがそれだけだな。見てみるがいい、エルダースライム一匹にあのざまだ』



 デスリッチが指をさした方を見ると軍隊の前に立ちはだかったエルダースライムの触手が聖騎士たちに絡みつく。

 騎士たちも結界や、魔物殺しの聖剣を振るって対抗するが斬っても斬っても再生し、結界ごと押しつぶされて、どんどんその数を減らしていく。



「強すぎんだろ……」



 俺が思わず感嘆の声を上げているとすさまじい轟音がなった。城壁の内部、つまり街で何かが爆発したのだ。

 侵入者がいたのか……確かに変装をしていれば入るのはたやすいだろう。しかもこの炎は……



「神炎だ……」



 聖魔術の一つであり、魔物を焼き払う聖なる炎である。その特性として魔物の力は効きにくいことがあり消火活動は難しいのではないだろうか?

 


「デスリッチ、これってやばくないか?」

『何を焦っている。我らにはあの頭のおかしい女がいるだろう。魔物ではない精霊がな』



 慌てている俺とは裏腹に彼は落ち着いた様子で、火元を指さす。すると次々と火が消化されていく。そして、そのまま悲鳴と共に何人かの人間が精霊たちに拘束されていく。

 その様子を見て、彼はどこか皮肉気な笑みを浮かべる。



『ふん、エルダースライムもウィンディーネも甘いな。殺してしまえば我が操ってやるというのに、気絶だけで済ませるとはな』



 彼らの命まで奪わないのはサティさんへの配慮だろう。ウィンディーネはもちろんの事、エルダースライムもあんなことは言っていたがちゃんと命までは奪わないように気を遣ってくれているようだ。

 だったら俺も俺の仕事をしないとな……


「デスリッチ、サポートを頼む」

『ふん、今回だけだぞ』



 デスリッチの魔術によって遠くがまるで目の前のように見える。結構基礎的な魔術なのだが、ここまでくっきり見えるのはこいつの技術の高さを物語っている。

 俺は視界に入った聖騎士を片っ端から鑑定する。違う、こいつも違う……5人ほど見た時だった。鼻からつーと血が流れてきた。頭も少しフラフラとする気がする。ただでさえ、負担の大きい人間を鑑定に、魔術を経由にしているうえに、抵抗力の高い聖騎士たちを見ているからか。



『この程度とは言わせんぞ、アルトよ』

「は、俺を舐めんな!! 鑑定だけは誰にも負けねーんだよ」



 煽るような激励に俺は強気に答える。15人目を見た時だった。こいつの情報の中にジャンヌの情報らしきものがあった。何人かで何かが入った箱を守っているらしい。



 方向はこっちか……



 箱の方に視線を送ると結界を張りながら何かを運んでいる数人の聖騎士が見えた。しかも、こいつら強い。1.4ブラッディクロスくらいあるぞ。



「デスリッチ!! その奥だ。結界を張りながら箱を運んでる」

『よくやった!! 我に捕まるが良い!! ついでだ、幻術をかけておいてやろう。貴様は人間だからな。教会の連中に顔を見られるのはあまりよくはないだろう』



 俺がデスリッチに抱き着くと同時に彼は魔術によってすさまじい速さで箱に向かって飛翔する。骨だからか、無茶苦茶ひんやりとする。



「うおおおおおおおお、速すぎる!! しかも骨だから硬いし!!」

『やかましいぞ、魔王の胸も硬さは対して変わらんだろうが!!』

「お前、それサティさんに言いつけたらどうなるかわかってんだろうな?」

『口が滑りました。本当にやめてください……』



 軽口を叩いている間にも矢や聖魔術が飛んでくるがデスリッチが張った風の結界によって、あっさりと弾かれていく。

 同時に違う魔術を使うって相当すごいことだって冒険者仲間が言っていたのを思い出す……なんだかんだ四天王は伊達ではないという事なのだろう。

 


「なんだ、アンデッドだと!!」

「なぜだ、なぜ、神の力が通じないのだ!?」

『邪魔だ、どけ!! ウインドストーム』



 そして、俺達は聖騎士たちの前に着地した。周りを囲まれていたがデスリッチはまるで虫でもたかってきたかのように煩わしそうに腕を振るうと吹き飛ばされていく。

 え? こいつこんなに強かったの?

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