22.作戦会議

俺はエルダースライムとデスリッチと共に会議室にいた。ちなみにここにはサティさんはいない。



「サティは今日大事なスピーチがありますからね。余計な心労を増やす訳にいきませんから。あと、この会議室には防音の魔術も施されているので多少騒いでも大丈夫ですよ」

「そういうことか……」



 俺の表情で察したのかエルダースライムが答える。確かにジャンヌが攫われたなんて言ったら、スピーチに集中できなそうだよな。



「それで、ジャンヌが帰ってきていないっていうのは本当なのか……?」

「はい、私の部下も魔王城の付近で彼女を見たものはいないそうです。デスリッチから話を聞いた後一応何体かの分体を城下町に放ったのですが、見つけることはできませんでした……」

『あの女は我らにさらわれたってことになっているからな、教会の人間に会って。救助されたというのならまだいいが……』

「ホーリークロスさんの話を聞くかぎりそれだけではすまなさそうだな……」

『ああ、そうだ……徹夜して魔力封じの腕輪について調べている場合ではなかったな……一刻も早くあの女が無事に帰ったか確認すべきだった』



 俺の言葉に深刻な顔をしてデスリッチがうなづく。ホーリークロスいわく純潔派はジャンヌの力を利用しているようだ。だったら、仮に保護をされているだけでも彼女の将来はあまり明るいものではないだろう。

 てか、こいつさっそく腕輪を作ろうとしていたのか、昨日の感じからして、なんだかんだジャンヌの事を悪くは思っていないのだろう。男のツンデレか……萌えないな。

 


「純潔派……大した脅威ではなかったからと放置しておくべきではなかったですね……単に集まって襲撃するくらいならば、害はないのでいいのですが、今回のパーティー会場で聖女の力を使われたらまずいですね……早めに対処しておきましょう」

「いや、ジャンヌが聖女の力を使う事はないと思う。彼女はそんなことしないよ。少なくとも愛するオベロン=アンダーテーカーが悲しむような事はしないと思う」

『ふん、いつもからかう意趣返しか? だが、今回ばかりは貴様に同意だな。あの女の目には魔物に対する偏見はなかった。頭はおかしいが倫理観はまともだろうよ』


 

 デスリッチも同意なようだ、あとはなんとか純潔派からジャンヌをもう一度攫えばいいだろう。そう思ってデスリッチとアイコンタクトをしていたが、何か言いたそうな顔で俺とデスリッチを見つめていたエルダースライムが口を開く。



「アルトさんがそう言うのは理解できます。ですが、聖女自体には魔物に対して偏見はなくとも、家族などを人質にとられたりして、無理やり力を使わされる可能性があるでしょう? 彼女を救う? デスリッチまで何を言っているのですか、我ら魔物の命がかかっているのです。もちろん、救えるなら救う事を考えます。ですが、それは聖女が我々に力を使わないと確信を持った時です。場合によっては排除することも選択肢の一つにしなければいけないのですよ。サティの夢と領民たちの命をたった一人の少女の命を天秤にかけるわけにはきません」

「エルダースライム? あんた……いや、そうだよな……四天王の立場ならそう考えるのが当たり前か……」



 俺はエルダースライムの言葉を一瞬疑ったがすぐに納得する。俺やデスリッチはジャンヌと短い間だが行動を共にして人となりを知っている。

 だけどエルダースライムは違う。彼女からしたら、ジャンヌはデスリッチについてきたかつての敵だ。



『そうか……アグニが朝早く飛び立ち、貴様の分体が、パーティー会場に集結しているのはジャンヌを探すためではなく純潔派を倒すためか……さては元から純潔派は始末するために泳がしておいたな』

「はい、私は四天王が一人エルダースライムですから。サティのためならば手段を選びません。あなたにも協力をして欲しかったのですが難しそうですね」

『ふん、我はもう、四天王ではないからな……勝手にやらせてもらう』



 そう言うとデスリッチは険しい顔をして出口へと向かう。



「デスリッチ……純潔派の教会を監視していた分体が人が一人入れる特殊な魔力が込められた棺桶を抱えている人間達を目撃していました。もしかしたらその中に我々に見られたくない何かが入っているかもしれません」

『ふん、ありがとうよ』



 振り向かずに乱暴に扉を閉めるデスリッチ。その後ろをエルダースライムは複雑な顔で見送っていった。



「私にとって一番大切なものはサティの夢であり、領民たちの命なのです。私はあの子が魔物と人がここまでの関係になるのにどれだけ頑張っていたかを知っています。今回の事が成功すればあの子の自信にもつながり、商人や冒険者を通じて、魔物と人が共に暮らす街という評判はより広まるでしょう。たった一人の少女のためにそれが無に帰すことを私は許容できません」

「エルダースライム……」



 俺は彼女に何といえばいいかわからなくなる。彼女がサティさんの頑張りをどれだけ見てきたか、応援しているのかがわかってしまったからだ。



「そして、デスリッチの言うように私は純潔派が何かを企んでいることを知っていながら放置していました。攻撃されたので反撃するという名目がほしかったのです……アルトさん、私を軽蔑しますか?」

「俺はあなたがサティさんを大事に想っていることを知っているよ。今回だってサティさんのためにやっているんだろ? だから軽蔑何てしない。だけど……俺もジャンヌを助ける方法を探すよ」

「はい、そう言ってもらえるだけで嬉しいです。はい、私のできる限りのサポートはしましょう」



 エルダースライムの一部が飛んできて、俺の肩に乗る。こいつを通して情報の共有をしようという事だろう。



「あと、今回の件はまだサティに内緒にしておいてください。せっかくあの子が嬉しそうにしているのにその顔を曇らせたくはないのです。そして、スピーチをする前の彼女に優しい言葉をかけてくださったら嬉しいです。あなたに励ましてもらえるとあの子も勇気が出ると思いますから」

「ああ、言われなくてもやるよ。その代わりってわけじゃないけど……」

「はい、なるべく聖女らしきものを見たら攻撃はしないようにします。私だってサティの友人を見殺しにしたいわけではないのですから……ただし、力を使おうとした場合は……」



 俺の言葉に申し訳なさそうな表情でエルダースライムはうなづいた。ここからが重要だ。俺は鑑定にスキルを駆使して、ジャンヌがどこにいるかを見つけなければいけないんだからな。

 最悪純潔派の中につっ込む必要もあるだろう。

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