16.アルトとジャンヌ

 そして、俺とジャンヌは二人っきりになってしまった。やべえ、サティさんやデスリッチとかがいたからよかったけど二人っきりとなると何を話せばいいかわからないぞ……



「せっかくです。もう少し街をみてみませんか? 私としても本当に聖女や勇者が不要になったか見極めたいのです」

「ああ、別にかまわないが……」

「ありがとうございます。お礼と言ってはなんですが、ご飯は私がおごりますよ」

「いや、そこは別にいいよ。年下の……しかもアリシアの友人におごってもらうのはちょっとカッコ悪いからな。その代わり、王都でのアリシアがどんな感じかを教えてくれよ」



 俺がそう言うと彼女はなぜか目を見開いてから微笑んだ。一体どうしたというのだろうか?



「ああ、すいません。アリシアの友人ですか……あなたは私を聖女でなく、私をそう言う風に認識してくれているのですね。あの子の言った通りの人ですね」



 まあ、本音はアリシアの友人で性女なやべーやつなんだけどな。



「へぇ……アリシアは俺の事を何て言っているんだ?」

「ふふ、素敵な人だっていつものろけていましたよ。昔から頼りになるし、かっこよくて巨乳好きだと……」

「最後のはいらなくない? わざわざそこを言う必要ある?」



 ジャンヌの言葉に俺は思わず頭を抱える。待って、勇者パーティーの全員に俺の巨乳好きがばれてんのかよぉぉぉ。本当に勘弁してほしい。

 



「そして、自分が勇者の力に目覚めても、態度を変えなかった唯一の人だそうです」

「そりゃあ……アリシアはアリシアだからなぁ……勇者になったってアリシアが変わるものでもないだろ」

「ふふふ、そう言うところにあの子は惹かれたんでしょうね……ちょっとすいません」



 俺に頭を下げると彼女は何かを見つけたのか断りを入れて駆け出した。その先にはダークエルフの子供と人間の子供が喧嘩をしている。二人とも殴り合ったのか怪我をしている。

 ジャンヌは何をしに行ったのだろうか? 教会の一部ではダークエルフを邪なものだと考えている人たちもいると聞いたことがある。まさか……



「ジャンヌ……」

「二人ともどうしたんですか? こんな街中で喧嘩をしてはいけませんよ」

「なんだよ、お前!! 俺達は決闘をしているんだ!!」

「そうだ。これは男の意地をかけた決闘なんだよ!!」



 よかった俺の心配は杞憂だったようだ。どうやら喧嘩の仲裁をするつもりか。子供たちの言葉に彼女はうなづくと後すごい事を言い出した。



「なるほど……それは失礼しました。ならば私が審判をしましょう。ですが、怪我をしたらあなたの保護者が悲しみますよ」

「でも……」



 不満そうな少年たちにジャンヌは優しく微笑む。その姿はまさしく英雄譚に出てくる聖女の様だった。普通にしていればこんなに清楚で素敵なのに……



「幸い私は多少聖魔術を使えますから遠慮なくやって大丈夫です……というわけでファイト!!」



 ジャンヌの言葉を合図に再び少年たちが喧嘩を始める。人間とダークエルフの少年はつかみ合いの喧嘩をし始めてしまう。



「いや、止めないのかよ!!」

「彼らには彼らのルールがありますからね。中途半端に大人が止めるよりもすっきりさせた方がいいんですよ。孤児院でもこれくらいの喧嘩は日常茶飯事でしたからね」



 ジャンヌは微笑みながら答える。ちゃんと考えているんだ……てか、説得力あるな。これが聖女としての顏なのかもしれない。

 そして彼女はどこか寂しい顔をしながら言葉を続ける。



「こうして、ぶつかり合える相手がいるっていうのは幸せな事ですから……」

「ジャンヌ……」




 そんな風な顔をした人を俺は二人ほど知っている。勇者の力に目覚めた直後のアリシアと、魔王であることを教えてくれたサティさんだ。彼女たちは自分の立場に悩んでいた。

 なんとかしてやりたいが、俺は慰めることができるほどジャンヌを知らない。だけど……彼女をしっている人ならいる。



「ジャンヌにもアリシアや、モナがいるだろ。少なくともアリシアはジャンヌを対等な存在だと思っているぜ。手紙でさ、モナやジャンヌ、あとさっき会ったホーリークロスの事も信頼ができる仲間だって書いてあったよ。それにアリシアは社交辞令で手紙を書いたりするようなやつじゃない。ジャンヌの事を本当に仲間だと思っているから手紙とかを書いているんだよ」

「そうですか……いえそうですね、ありがとうございます」



 俺の言葉は少しは届いてくれただろうか? ジャンヌは嬉しそうにうなづいた。



「ばいばい、おねーちゃん。怪我を治してくれてありがとうね」

「ええ、ケンカをした後はちゃんと仲直りをするのですよ」

「「はーい」」



 そう返事をすると二人の少年はジャンヌにお礼を言って走っていった。殴り合ってすっきりしたのか二人とも晴れやかな顔をしている。



「喧嘩の内容は先生の事をどっちが好きかだそうですよ。うふふ、可愛らしいですね。そして、素晴らしい事です。人間と魔物が対等にこんなくだらない理由で争う事が出来ている……彼らは魔王様の考えが当たり前になっているのでしょうね。確かにこれなら人間と魔物の共存はできるかもしれませんね」



 そう言って嬉しそうに笑う彼女は慈愛に満ちている。人間も魔物分け隔てなく癒し平和を愛する姿はまさに聖女という言葉が似あう。

 てか、キャラ変わりすぎじゃない? ドMな彼女とどっちが本当のジャンヌなんだ? 考えてもわからんな。普通に聞いてみよう。



「デスリッチといる時とずいぶんとキャラが違うけど……」

「それは……当たり前じゃないですか!! その……好きな人にアプローチをするのに必死なんです。こんな風に胸がドキドキするのは初めてで……」



 そう言うと先ほどまでの慈愛に満ちた大人びた顔から、一変して顔を真っ赤にして手で覆う。あの性癖暴露がジャンヌなりのアプローチだったのかよぉぉぉぉ!!



「いや……普段通りでいた方がいいんじゃないかな?」

「だって好きな相手ですよ!! 普段通りでいられるはずがないじゃないですか」



 くっそ、このセリフだけなら可愛い恋する乙女なのに……さっきまでの言動が残念すぎる。



「そうだ、アルトさん一個だけお願いがあるのですが……」

「一体なんだ? デスリッチとの恋を成就させるのを手伝って欲しいとか……」

「いえ、それは自力でなんとかします。それよりも食事がてら恋バナをしませんか? あなたは魔王様の事が好きなんでしょう? 色々とお話を聞きたいんです!!」



 そう言って年相応のおんなのこの顔をして目を輝かせている彼女の言葉を俺は断ることができなかった。




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申し訳ありません、宣伝になりますが、カクヨムに異世界ファンタジーの新作を上げました。


「悪役好きの俺、推しキャラに転生!ゲーム序盤に主人公に殺される推しに転生したので、俺だけ知ってるゲーム知識で悪役令嬢、偽聖女を従え、悪役達の帝王として君臨す。おい、なんで主人公のお前が舎弟になってんだ?」



という新作を投稿してみました。異世界転生の悪役に転生物です。悪役好きの主人公が推しの悪役に転生したので、ゲーム知識を使って破滅フラグを防ぐ感じです。


今回は新しいタイプのヒロインにも挑戦してみたので、読んでくださると嬉しいです。

 よろしくお願い致します。

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