15.

 俺が驚いている間にも戦いは始まる。銀ピカの鎧をまとったホーリークロスとイザベルが対峙している。一応勇者パーティーの一員だ。動向を見ておいた方がいいかな? ああ、でも、ジャンヌがここにいるってばれたらまずいんじゃ……

 そう思いながら見つめるとホーリークロスと目が合い、彼はこちらにウインクしてきた。ジャンヌの存在に気づいたか。



「よそ見とはずいぶんと余裕だな、人間!!」

「よそ見? 私は君にくぎ付けさ!! その豊かなボディ素晴らしい!! 芸術的だよ!!」

「戦い中に胸を凝視するなぁぁぁ!!」



 イザベルの怒りの篭った攻撃を受けてホーリークロスが吹き飛ばされる。しかもこっちに!! やじ馬たちはさっと回避しやがった。

 みんな身体能力高すぎない? 猛スピードで吹き飛ばされてきて反応できないんだけど!!



「アルトさん、危ないです!!」

「うおおおおおお!!?」



 中堅冒険者に過ぎない俺はそのまま衝突するかと思ったが、サティさんに抱きかかえられる。うわぉ、お姫様抱っこじゃん!! 俺が女の子だったら惚れていたぜ。いや、もう、惚れているんですけどね!!

 肝心の吹っ飛んできたホーリークロスはと言うと……受け身をしてあっさりと体制を立て直す。そして……



「ああ、君がアルト君だったのか……教会の者かと思ったが勘が外れたか。いや、そもそも教会の者ならデスリッチと一緒にいるはずがないか……」



 俺の方を見てにやりと笑ってそう言った。この人、俺の事を知っているのか? アリシアからでも聞いているんだろうか?

 そして、そのまま彼は俺と同じ様な体制でデスリッチに抱きかかえられているジャンヌに声をかけられた。



「そこの少女よ、もしもあのダークエルフに怪我をさせてしまったらまずい。この場にいて、非常時は治療をしてくれるかな?」

『おぱーい、おぱーい』

「……はい、お任せください」



 そう答えるジャンヌの表情は硬い。なんだろう、さっきまでのアホなキャラとはまるで別人の様だ。

 そして、相も変わらずしょうもない事言っているデスリッチを見て何かに気づいたのかサティさんが耳元で囁く。少し恥ずかしいのかその顔は赤い。



「あのすいません……もしかして私の胸が当たったりとかしてますか?」

「え? 大丈夫ですよ。柔らかさは一切ありませ……やっべ」

「どうせ、私は小さいですよ!!」



 俺は自分の失言に気づくがもう遅い。サティさんは頬を風船のように膨らませて、俺を地面に降ろす。くっそ、考え事をしていたせいで、本音がでてしまった。冷静に考えたら胸当たってるよぉぉぉぉ!! 気づかなかったけど!!

 そのせいでサティさんの温もりが逃げてしまったぁぁぁぁぁぁ!! 別におっぱいの感触はないけど幸せだったのに……



『あの男……貴様の仲間であろう? イザベルごときに苦戦をするような実力ではないと思うのだが……』

「ええ……彼は何かを考えているのでしょうね。私とはここで会わなかったことにするようですし」

「あのエルフ結構強そうなんだけど……実はそうでもないのか?」

『いや、一応四天王候補の末席に数えられる程度には強いが……あの男はおそらくこの国で二番目に強い人間だ。本気を出せばイザベルでは荷が重いな」



 俺がホーリークロスに鑑定スキルを使おうにも巧妙に視界から逃げられる。代わりにイザベルを鑑定してしまった。



-----------------------------------------------------------------------------------------------

名前:イザベル=シュバルツ


職業:魔王軍の衛兵長


戦闘能力:352


スキル:精霊魔術、上級剣術、料理スキル、掃除スキル、洗濯スキル


備考:魔王に憧れて四天王を目指している。ウィンディーネの部下であり、彼女の勧めで女神教に入信した。自分の胸が大きくて入会特典でもらったスライムパッド(偽)を使う事が出来ないのをちょっと悩んでいる。

 最近親友が結婚してやたらとマウントを取ってくるので彼氏が欲しいが出会いがない。衛兵たちの間ではエルフの結婚適齢期であるので彼女の前では婚活の話はタブーになっている。

 最近アフターファイブでは家事を習っている。得意料理はオムライス。

---------------------------------------------------------------------------------------------


 やべえ、まじでどうてもいい情報ばかり入ってきた……鑑定結果に俺がげんなりしていると、ホーリークロスとイザベルの剣がぶつかり合う。そのままつばぜり合いになるかと思いきや予想外の事がおきる。



「最強剣術『斬鉄』」



 ホーリークロスが剣を振るうと同時にイザベルの剣を真っ二つに切れたのだ。え? 何あれ? 剣で金属を切れんの?



「なっ!?」

「ふっ、これで今夜君をデートに誘う権利を得たかな? それよりも君の美しいおっぱ……じゃなかった肌に傷がついていたらまずい。治療をしてもらおうじゃないあk」



 唖然とするイザベルにホーリークロスが気障ったらしいセリフで声をかける。そして、彼女の手をとってそのままこちらへと向かってくる。

 いやいや、あんなセリフで口説けるはず……



「はい……」



 うっそだろ? イザベルさん顔真っ赤なんですけど? 惚れる要素あった? 顔か? 顔なのか? イケメンならあんなクソみたいな口説き方でもいいのかよ。



「それでは少女よ。私の愛しの姫君を治療してくれるかな。もちろんお金は払うとしよう」

「え? なんで俺に……それにお金なんて払わなくても……」

「まあまあ、受け取ってくれたまえよ。アルト君」



 そして、彼は俺に強引にお金を握らせて、治療が終わるとそのままイザベルと街の方に消えていった。



「嵐のように去っていきましたね……あの人勇者パーティーの一員なんですか?」

「はい、剣聖ホーリークロスです。オベロン様は戦ったことありますよね」

『ああ、だが、あの男……魔王城の近くに来るとは何を考えているのだ? 魔王よ、一旦城に戻るぞ。嫌な予感がする』

「確かに……勇者パーティーの一員が何の連絡もなくきているとはちょっと問題ですね……アルトさん申し訳ありませんが私とデスリッチは先に魔王城に戻ります。よければお二人はもう少しお楽しみください。ちょっとばたつきそうなので、食事も済ませておいてくださると嬉しいです」



 そうして、ダブルデートはお開きになってしまった。申し訳なさそうなサティさんに返事をしながら俺は先ほど渡されたお金にはさまっているメモに目を通す。



『ジャンヌの事で話がある、夜になったら指定の場所へ来てほしい』



 一体なんだというのだろうか? 俺は混乱しながらも手紙をしまうのだった。



-------------------------------------------------------------------------------------------------

申し訳ありません、宣伝になりますが、カクヨムに異世界ファンタジーの新作を上げました。


「悪役好きの俺、推しキャラに転生!ゲーム序盤に主人公に殺される推しに転生したので、俺だけ知ってるゲーム知識で悪役令嬢、偽聖女を従え、悪役達の帝王として君臨す。おい、なんで主人公のお前が舎弟になってんだ?」



という新作を投稿してみました。異世界転生の悪役に転生物です。悪役好きの主人公が推しの悪役に転生したので、ゲーム知識を使って破滅フラグを防ぐ感じです。


今回は新しいタイプのヒロインにも挑戦してみたので、読んでくださると嬉しいです。

 よろしくお願い致します。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る