14.ダブルデート

気を取り直して、俺達は城下町へとやってきた。相も変わらず、魔王像は立派にその存在ととある一部を主張している。だが、サティさんの正体に気づくものはいないようだ。

 むしろデスリッチがよく声をかけられている。こいつ意外と人望があるのかもしれないな。



「それにしても……人間の数がだいぶ増えましたね」

「ええ……最近はどこからか噂を聞いたのか、難民の方もやってきているのです。あとは四天王選抜試験が近いのと、明日は広場で魔物と人の交流会があるのでそれ目当ての人もいると思います。ご馳走もふるまわれますし、ダンスを踊ったりもするんですよ。そこでスピーチをするのでアルトさんも見に来てくださいね」

「もちろん行きますよ。そういえば今週は冒険者ギルドの受付嬢の仕事は有休をとってましたもんね」

「はい……まさかアルトさんと一緒にここに来れるとは思いませんでした。嬉しいです」



 そう言って微笑むサティさんはの顏はどこか誇らしげだ。彼女は元々人間と魔物の共存を望んでいたからな。むしろ今のこの状況こそが彼女の望んだ世界に近づいているのだろう。

 そして、俺はサティさんがこういう世界になるまですごい頑張っているのを知っている。



「よかったですね、サティさんの努力が実っているみたいです」

「えへへ、ありがとうございます。でも……これはアルトさんのおかげでもあるんですよ」

「え……?」



 予想外の言葉に俺が聞き返すと彼女は恥ずかしそうに微笑んで言った。



「だって、私が魔王だって知ってもあなたは私と仲良くなりたいっていってくれたじゃないですか……だから、私は魔物と人が共存できるって確信を持てたんです。不安になった時もアルトさんみたいな人もいるって知ってるから頑張れたんですよ」

「サティさん……」

『おい、バカップル共さっさと行くぞ』

「「なっ……」」



 デスリッチの言葉に見つめあっていた俺とサティさんは顔を真っ赤にする。いやいや、俺達別にカップルじゃないんだけど……だけど、そう言われて嫌な気持ちは一切なかった。むしろ……

 サティさんはどうなんだろうか? 

 ちらりと横目で見るがリンゴみたいに顔を赤色にしているだけだ。可愛いな、おい!!



「今のやり取りいいですね!! 真似してみましょう!! 私がこんな性癖に目覚めたのはオベロン様のおかげでもあるんですよ」

『は……?』



 俺達のやりとりを聞いて何を思ったのかジャンヌがよくわからないことを言い出した。デスリッチがきょとんとした顔で聞き返すとジャンヌは興奮したような顔で微笑んで言った。



「だって、私もこの性癖は気づいた時悩んだんですが、オベロン様の本に間違っていない……むしろ興奮するって書いてあったから、このままでいいなって確信を持てたんです。不安になった時もオベロン様なら受け入れてくれるって知ってるから頑張れたんですよ」

『いや、確かに書いたが……実際迫られるとこわいんだが……創作とリアルを同一視されるとこわいんだが』

「え? 私こんな恥ずかしい事言ってましたか? 死にたい……」



 そう言ってジャンヌは引いているデスリッチににくっつく。そして、サティさんは恥ずかしがって俺から距離を取る。くっそさっきまでいい雰囲気だったのに台無しじゃねえか……



「とりあえず市場に行きましょうか……」

「そうですね……」



 そうして、俺とサティさんはげんなりしながら市場を見に行くことにした。






「薬草だよーーー、ここには魔物用も人間用もあるよーーー」

「今なら人間の街では中々お目にかかれない肉が入ってるよー、魔物の方も人間の方も食べれるよー」

『女神教に入りませんか? 今ならパッド♪ パッド♪ スライムパッド♪ と唱えるだけで幸せな気持ちになれますよー♪』



 市場は大盛り上がりを見せている。人や魔物が入り混じって商売をしている姿はここでしか見れない貴重な光景だろう。

 薬草を売っている屋台を見るといつぞやの人狼と人間が仲良く店で接客をしていた。

 ちゃんと仲直りで来たんだな……そう思うとなんか嬉しかった。そして、サティさんの夢が近づいているのを実感できてた。



「へえー、魔王城の城下町というだけあって中々発展してますね。さすがに王都ほどではありませんが……あ、このお肉中々美味しいですよ。オベロン様も食べます?」

『いや、我は食べなくても生きていけるのだが……まあ、せっかくだからいただくとするか……王都も我がいた頃とはだいぶ変わっているのだろうな……』

「はい、口を開けてください!! えへへ、こういうのってなんかいいですよね」



 ジャンヌにあーんをされながら、デスリッチはどこか遠い目をしていった。こいつは元は王都の貴族だったのだ。なんだかんだ思う事もあるのだろう。



「いつか……人と魔物が共存できる世界が本当に実現したらオベロン様も王都に行けるようになりますよ。その時は私が案内しますよ。あなたがかつて通っていた『夏の夜の夢』もまだあるんですよ」

『あの薄汚い古本屋はまだあるのか!! ふん、品ぞろえだけはよかったが店主が不愛想だったな。我の恋バナをしたらストーカーと言いおって!!』



 そう言って、デスリッチは不快そうにうなる。だけど……彼の目にはその態度とは違い何を懐かしむような温かさがあった。

 空気読んで言わないけど、ストーカーは正しいと思う。

 


「いつか……私が叶えてみますよ。だからその時を楽しみにしていてくださいね、デスリッチ」

『ふん、期待しないで待っていてやろう』

「男のツンデレは需要ないぞ」

『やかましいぞ、ヘタレ男!!』



 いつもとは違うデスリッチに新鮮な気持ちを抱きながら俺達は市場を歩く。色々なものが売っているな。

 お、本か。魔族の本屋はどんなものがあるんだろう? 俺は人気作とよばれているものを見てみる。『転生したら魔王だった件。最強スキルで勇者を相手に無双する』『魔王様直伝、巨乳になるには』『魔王様と俺のラブコメ~俺のスキル淫魔で四天王も魔王もメロメロに~』か……

 サティさん人気だな!! でも、この存在は本人は知らないんだろうなぁ……


 こっちは人気作家コーナーか『とある四天王がおしえる女性の口説き方。骨でもハーレム作れます』『勇者に幼馴染の聖女を寝取られパーティーから追放された俺は、リッチになって魔王軍に入って復讐をする 58巻』これの作者って絶対デスリッチじゃん。あいつ本当に多芸だな……てか、58巻ってすごいな!!



「何かいいものはありましたか?」

「色々と売ってますね、すごい……品揃えだけど、値段もやばいですね……」



 サティさんがこっちにやってきたので、俺は彼女の視線を本から隠しながら答える。さすがに自分が題材になっているのは辛いだろうからな。

 それにサティさんとのラブコメなんて絶対許さないんだからね!!



「そうですね、本もいいですが、こっちには手先の器用な魔物が作った工芸品もありますし、ここは魔物と人が戦った戦場でもありますからね、中には掘り出しものありますよ。アルトさんは鑑定スキルを持っているので見てるだけでも結構楽しいかもしれませんね。よかったら鑑定結果をおしえてください。私も楽しみです」



 俺の言葉にサティさんはなにやら嬉しそうに答える。ああ、でもこれってショッピングデートっぽいな……せっかくだし、何個か鑑定してみよう。

 まって、元四天王が使っていた魔剣とか売っているんだけど……これってマジもんなの? 



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名前:魔剣エターナルフォースブリザード 


効果:一瞬で相手の周囲の大気ごと氷結させる。相手は死ぬ。


備考:かの有名な魔術院ファイブチャンネルにより作られた禁呪が込められた魔剣

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 無茶苦茶シンプルだけどやばいもんがあるんだけど!! 相手は死ぬって……何でこんなものが市場で当たり前の様に売ってるんだよ……

 魔王城ってやっぱりやばいんじゃ……



「どうしましたか、アルトさん。あの剣がどうかしましたか? その剣は中々売れないようでずっと置いてあるんですよね。面白い効果でもありました?」

「いや、ただのぼろい剣でしたよ……」



 サティさんが興味深そうに聞いてくる。この様子だと彼女はあの魔剣の正体を知らないようだ。彼女に言ったら胃を痛めそうだからあとでこっそりエルダースライムに言って回収してもらおう……やばいやつがもったら一波乱おきそうである。

 俺はとっさに真っ黒い真珠の埋まっているネックレスを指さした。



「それよりもあっちのネックレスが綺麗ですよ」

「確かに綺麗ですね……でも、どこかで見たことがあるような……?」

「え? 有名な品なんでしょうか? 鑑定してみますね」


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名前:黒真珠のネックレス


効果:進化の秘密が込められた秘宝。これを使用することにより己の体を進化させることができる。


備考:魔王家に伝わる秘宝であり、切り札である。ルシファーによって風俗のツケとして払われたが、流れに流れて市場に来た。先祖はまじで泣いている。

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 魔王関連かよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。これを知ったらサティさんマジでぶちぎれそうなんだけど!! てかルシファーさん何やってんだよ!! こんなもの市場に出したらダメだろ……

 俺がどうごまかそうか悩んでいると、サティさんがとあるイヤリングを見て、声をあげた。



「あっ……」

「どうしました? 何か掘り出し物でもありましたか?」

「いえ、そういうわけじゃないんですよ。ただ……」

「お、これに目をつけるとはお目が高いね。どうだい、彼氏さん、彼女さんにプレゼントしてあげたらどうかな?」



 そう言って店員が差し出したのは黒と白のイヤリングである。なぜかサティさんが慌てている。どんな効果だろうか?



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名前:願いのイヤリング


効果:ドワーフによって造られたイヤリング。とてもきれいでかっこよさが上がる。魔力的効果はない。


備考:魔王領で前魔王が告白するときに奥さんに送ったイヤリングを模したもの。そのエピソードから縁結びのイヤリングと言われ、付き合う前に送る場合は好意を示す意味が、カップルとして贈ればずっと愛しているという意味を持つ。

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 これは……中々……すごいアイテムだな。てか、この店員からしたら俺達はカップルに見えたっていうのだろうか。かなり嬉しい。



「あのですね……私たちはまだ恋人では……」

「いいですね、これください」

「はい、まいどありーーー!!」



 遠慮するサティさんを横目に俺はイヤリングを購入した。やたらにやにやしている店員からイヤリングを受け取りそのまま彼女に差し出すと、少し困惑しながらも受け取ってくれた。



「これは……いえ、ありがとうございます。このイヤリング綺麗なんでついみちゃいました」



 そう言って何かを誤魔化そうとするサティさん。ああ、そういう事か……



「サティさん……ちなみに俺は意味を分かって渡してますからね」

「もう……アルトさんの馬鹿!! こんなのもらっちゃたら私……私……」



 俺の言葉にサティさんが顔を真っ赤にして叫ぶ。うわぁすっげえ可愛い。効果は抜群だぜ!! これは無茶苦茶いい雰囲気じゃないだろうかと思った時だった。その空気はあっさりと壊される。



「オベロン様!! 私これが欲しいです!! この首輪を私につけてくれませんか?」

「デスリッチ様!! それは家畜用の首輪ですよ!! 人間の奴隷は魔王様によって禁止されています。いくら元四天王でもそういう用途では売るわけにはいきません!!」

『いや、我、一度もそれが欲しいとは言ってないんだが……ジャンヌが勝手に言っているだけなんだが!!』



 声の方を見ていると禍々しいとげがついた首輪をもってジャンヌが騒いでおり、店員が困っている。いや、それだけじゃない。



「ひそひそ……デスリッチ様……このご時世に奴隷何て……」

「あー、あの人は確かに人間との共存に反対していたもんなぁ……でも、魔王様のおひざ元でこんなことするなんてまずいんじゃないか?」

「四天王首になっておかしくなっちゃったのかな……」



 うわぁ……街を歩く人たちの好感度がどんどん下がっているっているぜ……デスリッチ哀れだな……

 そんな事を思っていると、向こうの方がやたらと騒がしい。



「おーい、決闘だぞ!! 四天王候補のダークエルフのイザベルと人間が戦うってよ!! どっちが勝つかかけようぜ」



 その言葉に俺達は顔を見合わせる。人間と魔物が街中で乱闘ってさすがにまずくない?



「まったくいくら何でもこんな街中で決闘はダメですよ……みなさんちょっと付き合っていただけますか?」

「もちろんです」

「ああ、私の首輪ぁぁぁ」

『いいから行くぞ、痴れ者が!!』

「あ、その軽蔑した感じいいですね♪ アンコール♪ アンコール♪」



 俺達が現場に向かうと褐色で巨乳なダークエルフと、三十代後半くらいの人間の剣士が対峙していた。その周りには人だかりができておりみんながはやし立てている。

 てか、あの顔誰かに似ているな……



「ふん、では約束通り私が買ったらその業物の剣はいただくぞ」

「もちろんだとも。その代わり私が勝ったら君を口説く権利をいただこうか」



 うわぁ、なんかくだらない理由で決闘をしているな……案の定男の言葉に巨乳エルフは鼻で笑う。



「ふん、私達エルフは貴様ら人間とは寿命が違う。若く見えるかもしれないが貴様の何倍も生きているのだぞ」

「ふふ、わかっているさ。ウイスキーと一緒だよ。年齢を重ねればそれだけ魅力も熟成されるのさ」



 ダークエルフの言葉を聞いてむしろ男はテンションがあがったようだった。てか、これもうどうでもいいな。理不尽な喧嘩じゃなさそうだし、男が怪我してもいい勉強になるだろ。さすがに殺しはしないだろうし……



「……アルトさん帰りましょうか、晩御飯は何が食べたいですか? まだ城にいるはずなんで、活きのいいドラゴンステーキをご馳走しますよ」

「ええ……そうですね……待って? ステーキが城にいる? まさかアグニじゃ……」



 あきれたサティさんの言葉に従い俺達が帰ろうとした時だった。男を見たジャンヌが驚愕の表情で呻いた。



「ホーリークロス……何でこんなところに?」



 え? まじで、勇者パーティー最後の一人じゃん。本当になんでこんなところにいるんだよ!!

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