13.アグニとの再会

アグニの登場で一瞬にして緊張が走る……ことはなかった。いや、だって、サティさんの方が圧倒的に強いもんな。むしろあほな事を言ってサティさんをぶちぎれさせないかが心配である。



『アグニよ……こいつらは魔王の客人なのだ。だから失礼な真似は……』

『ふん、わかっているさ。我ら竜族は力強きものに従う。魔王様の意向とあれば従うさ』



 デスリッチの言葉に素直にうなづくアグニ。ずいぶんと物分かりが良くなっているが、真実だろうか?

 気になった俺は鑑定スキルをアグニに使う。



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名前:アグニ=スターロード

職業:四天王兼竜王

戦闘能力:99999

スキル:獄炎のブレス・威圧感(特大)

プライド:最近自分に自信がなくなってきた。

備考:魔王にボコられてから無茶苦茶ビビっている。奥さんとなんとか和解したが、家庭内のヒエラルキーは最低まで落ちた。なお仲介を頼んだエルダースライムの命令で人間との共存派になった。

 最近娘より先にお風呂に入ると怒られるのと、近寄ると臭いと言われるので加齢臭を気にしている。

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 うわぁ……すっげえ残念な理由で共存派になってるわ……まあ、これなら安心だな……こいつが俺達を襲う事はなさそうだ。



『人間どもよ。魔王様が許可をしているとはいえ、あまり勝手をするなよ』

「ええ、もちろんです。愛しのデスリッチ様に迷惑をかけるわけにはいきませんから」

『ほう……この女はデスリッチの愛玩奴隷だったか。ふふふ、とはいえあまり乱暴な事をするなよ、魔王様に消されるぞ。貴様は変わらんな』

「そんな愛玩奴隷……乱暴な事なんて……そそります……」

『おい、アグニ……ここではそれ以上言うんじゃない』



 アグニの言葉にジャンヌが何故か顔を赤らめて恍惚とした表情をしている。いや、本当に何でだよ!! まあ、Mだからなんだけどさ。というか変わらないってどういう事だ? こいつはずっと童貞だったはずだが……

 そして、デスリッチが慌てているのは何でだろうか? その答えはすぐにわかった。



「それにしてもお前は聖なる属性の女に好かれるのだな……酒の席でも言っていたが昔も幼馴染の聖女に求愛されて大変だったのだろう? モテて困ると言っていたもんな』

「幼馴染の聖女に……」

「求愛されていた……ですか……」



 アグニの言葉に俺とサティさんは思わずオウム返しをしてしまう。いやいや、こいつは初恋をこじらせて、勝手に片思いをしていただけじゃん。聖女に求愛どころか、NTRされた―って騒いでたじゃん。

 まあ……友達同士ではつい強がっちゃうよな……わかるぜ、デスリッチ……



「デスリッチ……あなたって人は……」

『やめんか、我をやたらと優しい目や、虫けらを見るような冷たい目で見るんじゃない!!』



 俺達を見てデスリッチが叫ぶ。まあ、この感じならアグニは俺達に害を与える感じではなさそうだ。俺が安堵の吐息を吐くと、アグニが俺達を見つめて……いや、サティさんを見つめた。まさか、正体がばれたか?



『そこの青髪の魔物は……デスリッチの部下か。見ない顔だな』



 うおおおお、四天王のアグニですら気づかないとは、変装は大成功ですよと視線を送ると、サティさんが笑顔で得意げにピースをしていた。可愛い。

 しかし、次の言葉にその表情が固まる。 



『いや、良く見ると魔王様に少し似ている気もするが……』

「いえいえ、私はサティ様とはなんの関係もない、ティーサという魔物ですよ……」



 サティさんが誤魔化すが、一瞬ひやりとした空気が流れて、アグニの目線がとある部分で止まる。俺はその反応に無茶苦茶嫌な予感を感じた。デスリッチも同様なのか、冷や汗をかいている。骨のくせに器用だな!!



『ふむ、確かにそうだな……魔王様は貴様のような貧相な胸ではない。一瞬雄と見間違えたわ。はっはっは。栄養が足りないのではないか? 肉を食え、肉を!! そんなんではオスに相手にされんぞ。まあ、本当は魔王様も……』

『アグニよ!! 魔王城に何か用があったのではないか? こんなところで油を売っていてよいのか?』

『うむ……エルダースライムと四天王選抜試験でちょっと相談があったのだ……我が娘も出たいと言っていてな……』

『あやつは忙しそうにしていたぞ。急いだほうがいいのではないか?』

『ああ、そうだな。デスリッチよ、落ち着いたらまた、酒でも飲もうではないか。その時は色々と愚痴を聞いてくれると助かる』



 そう言うと、アグニは飛び去っていった。ナイスデスリッチ!! 彼のとっさの機転で一匹のドラゴンの命が救われたぜ。



「じゃあ、城下町に行こうかー楽しみだな」

『あ……ああ、そうだな……さっさと行くとしようか……』



 俺とデスリッチはさっさと街の方へと歩こうとする。だが、そうはいかなかった。



「ねえ、アルトさん……」

「『ひっ』」



 すさまじい殺気を感じて俺とデスリッチは恐る恐る振り返る。そこには魔王にふさわしい圧倒的なまでの殺意を纏ったサティさんがいた。

 ああ……俺はここで死ぬ……あまりの濃厚な殺意に俺が浴びたわけではないと言うのに死を連想させられた。いやいや、マジでこわいんだけど!!」



「たしかお肉が好きでしたよね……ドラゴンステーキとか興味がありませんか? 知ってます。火竜のお肉ってすごい美味しいらしいんですよ」



 そう言って、うつろな目でサティさんは「うふふ」と笑っている。おいおい、アグニのやつ死んだわ。俺はアグニがせめて苦しまないで逝けるよう祈るのだった。

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