12.城下町へ

「これは一体……」

『我に聞かれても困るのだが……」


 俺は混乱のあまりデスリッチに聞いてしまったが、彼も困惑をしているようだ。ぱっと見変装しているけどこれってサティさんなんだよな……その事に触れてもいいんだろうか? 

 俺とデスリッチが悩んでいるとジャンヌが声をかける。すげえな、この子の作戦はガンガンいこうぜなのかなかな?



「あれ、魔王様、どうしたんですか? もしかしてその格好はコスプレってやつですか? わかりますよ。私も聖女なんてやっているからストレス解消に変装して夜の街を歩いてましたもん。スラム街とか変な人が声をかけてくてくるからいい刺激になりますよね」

「いやいや、別に私は刺激を求めているっていうわけではありません!! その……ただ私もアルトさんと一緒に街を歩きたかっただけで……あ……」



 ジャンヌの言葉に慌てて反論するサティさんだったが、俺と目があうとやらかしたとばかりに顔を真っ赤にして手で覆った。可愛いな、おい。

 てか、それって俺と一緒に街を歩くために変装をしてくれたって事なのか……やばい……すごい胸がどきどきしてきた……



「お待たせしました。驚きましたか、アルトさん。ちょうどいいのでサティにも城下町を視察に行ってもらおうと思ってまして変装をしてもらっているんですよ……あれ? なんですか、この空気は?」



 遅れてやってきたエルダースライムが怪訝な顔をする。なるほど建前はそういうことだったんだな……死ぬほど恥ずかしそうにしているサティさんを見て、思わず嬉しくてにやけてしまう。

 でもさ、サティさんがこんなに頑張っているのに、俺は何もしなくていいのか? いいはずがないよな。



「サティさん、俺も同じ気持ちですよ。一緒に街を歩けて嬉しいです。だから案内……いえ、デートをよろしくお願いします」

「デートってアルトさん……」



 俺の言葉にサティさんは本当に嬉しそうに微笑んで……こくりと頷いてくれた。



「おや、もしかして私のアシストが不要なくらい距離が縮まってる感じでしょうか? 素晴らしいですね。このまま既成事実を作ってくれたら色々と助かるのですが……」

『このヘタレにそんな度胸があるはずないだろうが。というわ我達も一緒に同行することを忘れているんじゃないだろうな……』

「うふふ、ダブルデートってやつですね。楽しみですね、オベロン様」



 そうして、俺達は街に行くことになった。てか、ヘタレっていうのやめてくれない?





「へぇー、この染料はスライムなんですか」

「はい、スライムパックといって、髪の毛の色を変えることができるんです」

『パッド♪パッド♪スライムパッド♪ はっ、口は勝手に……今のは無意識だったのだ。だからそんな殺気に満ちた目で我を見るなぁぁぁぁ』

「いきなりどうしたんですか? オベロン様? 今のはなんらかの儀式でしょうか?」



 ウインディーネに洗脳された後遺症かデスリッチが例の歌を歌い、サティさんにすごい目で睨まれている。

 いつもの光景に俺は安らぐ。最近モナが来たりして、あんまりゆっくりできなかったからな。今日のデートは楽しむとしよう。

 でもさ、一個疑問があるんだが魔王ってばれないもんかな。魔王像とかもあったよな……



「それにしても……変装をしているようですが、それで本当に正体を隠せるのでしょうか? 魔王様って結構有名なんですね?」

「ええ、魔王と言っても。魔物は多種多様な外見をしていますからね……外見の特徴的な所を変えれば案外気づかないものですよ。あなたがた人間もお忍びで王族が街を歩いてもきづかないでしょう? それと同じです。」



 そういうとサティさんは銀色から鮮やかな水色に変わった自分の髪の毛に触れて微笑んだ。



「外見の特徴を変えるか……確かに……」

『うむ、これならわからんな』



 俺とデスリッチの視線がサティさんのある一部に集中する。うん、これなら大丈夫そうだな……と思っているとすさまじい殺気を感じた。



「アルトさん、デスリッチ……言いたいことがあるなら言ってくださいね」

「いえ、なんでもないです。水色の髪色も似あいますね」

『なんでもないぞ……だからそんな目で我を見るなぁァァァ。トラウマが……』



 笑顔なのに異様な迫力があるサティさんに俺とデスリッチが必死に誤魔化す。あぶねえ、死ぬかと思ったぜ……



「それより、早く街にいきましょう。ジャンヌも魔王の拠点がどんな感じかみたいよな」

「そうですね、人と魔物が共存している世界……夢物語みたいで興味がありますから。もしもそれが本当い可能ならば勇者も……聖女だって不要になりますからね」



 俺の言葉にジャンヌがいつにもまして真剣な表情でうなづいた。それをみて思う。この子はちょっと?変態だけど、確かに聖女なのだ。勇者パーティーの一員ということだけあって、人間の未来に関しては真面目に考えているのだろう。



「わかりました。ではいきま……きゃっ」



 俺達が街に出ようとした時だった。轟音と共に突風が吹いて、一匹のドラゴンがやってきた。ちなみにサティさんは黒、ジャンヌは白だった。ナイス風ぇぇぇぇぇぇぇ!! スカートって防御力少ないよな。



『街に……ならわかる。だが、なぜ、魔王城に人間がいるのだ? デスリッチよ、貴様の仕業か?』



 あいつは……アグニだと…… 

 圧倒的なプレッシャーを放ちながらその巨体が俺達の前に舞い降りてきた。

 確かあいつは人間との共存に反対派だったはずだ。ジャンヌや俺がいるのってまずくない?

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