10.いざ魔王城へ

『え、なにこの女怖い……アルト助けてくれ……』

「その返答はダメって事でしょうか……? はっ、もしや焦らしプレイってやつですか!! くぅ、さすがですね、オベロン様!!」

「うわぁ……」



 ドンびいた顔のデスリッチが俺に助けを求めるのを見るとジャンヌはなぜか、愉悦の笑みを浮かべて悶えている。予想以上にやべえな、この子!! 言葉が通じないんだけど!! 美少女なだけに残念だ。



『おい、アルトよ、現代の人間はみんなこんな感じなのか? 色々とやばくないか?』

「そんなわけないだろ、こんなやべーの一握りに決まってんだろ」

『だが、貴様の幼馴染の勇者も、中々だったではないか』

「うっ……」



 デスリッチの言葉に俺はなにも反論できなくなる。確かにアリシアも最初はこんな感じだったか……? サティさんをぶっ殺そうとしてたしな。

 いや、そもそもアリシアの暴走はデスリッチのせいだし、確かにちょっと思い込みが強いけどアリシアはいい子なんだよ!!

 なんか気づいてはいけない事実に気づきそうになったので、話題を変える。



「それで、ジャンヌはどうしたいんだ? とりあえずは一週間は自由な時間をゲットしたけど、それ以上はダメだぞ。魔王は人との和平を望んでいるからな。今回の件はデスリッチに全部の責任を押し付けるからか良いけど」

「そうですね……私としてはこの一週間で色々とオベロン様に教えていただいて、それを思い出にしつつ教会を時々抜け出して、愛を確かめ合う関係になりたいと思っています。うふふ……しばらく会えない時間が二人の関係をより強固にするでしょう」



 なるほど……ジャンヌ的には短い間でも、想い人と一緒にいれたらいいってことか……まあ、ヘタレ童貞のデスリッチに何かを教える事ができるとは思えないけどな。

 まあ、それならば話は簡単である。一週間ほど聖騎士たちの目の届かないところで暮らせばいいのだ。幸い伝手はある。



『我は全然良くないんだが!! そして、なんで我と聖女がくっつくことが前提になっているのだ!!』

「うるせーー、美少女の胸の感触を楽しんでるんだからいいだろ。目の前でおっぱいおっぱい言ってやがって!! 羨ましいんだよ!!」

「なるほど……アルトさんは女性の胸が本当に大好きなんですね」

「そりゃあ、当たり前って……うおおおおおお、サティさん!? え、何でこんなところに?」



 声の方を振り向くと頬を風船のように膨らましているサティさんがこちらを睨んでいた。と言っても怒っているというよりも、ちょっと拗ねている感じで可愛い。



「何でって……アルトさんが聖女との戦いで怪我をしていないか? って心配になったのでみんなを避難させたら戻ってきたんですよ。悪いですかー」

「いえいえ、全然悪くなんてないですよ。むしろ嬉しいです!!」

「本当ですかねー。ところでその女性は……? なんだかやたら神々しくて、近寄りがたいんですが……まさか……」



 サティさんはジャンヌを見るとちょっと怪訝な顔をして、驚愕の表情を浮かべた。魔王の直感なのか、どうやら正体に気づいたらしい。

 そんなサティさんを見て、彼女は少し照れ臭そうに自己紹介を始めた。



「はい、私の名前はジャンヌ=カルディックと言います。現代の聖女にて、オベロン様に心奪われた存在です」

「え? デスリッチにですか……」

「はい、この気持ちはもはや憧れを超え、恋を凌駕し、愛へと昇華致しました!! この想いは神ですら引き裂けないでしょう!! むしろ神の試練とかいいですよね!! どんな障害が私たちの間に現れるか楽しみですらあります」



 恍惚の表情を浮かべながら聖女にあるまじき言葉を吐くジャンヌに、サティさんが顔を真っ青にして、デスリッチにつかみかかる。



「ちょっと、デスリッチ!! この子、聖女ですよね!! 洗脳でもしたんですか!! そうでもなければ、女の子があなたに恋をするはずがないじゃないですか!!」

『この魔王、我にはやたらと厳しいんだが!! てか失礼すぎるだろうがぁぁぁぁ!!』

「確かにあなたは、子孫である聖女をわがものにすれば、先代勇者や先代聖女へのNTRになるとは言っていましたが、心を操るのは我が魔王軍でも禁呪に指定したはずですよ」

「流石オベロン様です!! 子孫を汚すことによって、私だけではなく、カルディック家そのものへのダメージを与えるという事ですね!! 天才です!!」

「え? 本当になんなんです、この子……」

「ああ、なんか素でこんな感じらしいです……」



 ノリノリでうなづくジャンヌにドン引きをしているサティさんに事情を説明すると半信半疑ながら納得してくれたようだ。

 事情を理解したサティさんは大きくため息をつきながら言った。



「まあ、デスリッチに恋をするというのが理解はできませんが……事情はわかりました。それならば魔王城へと案内しましょう。この先にワイバーンが待っています。オベロン、ジャンヌさんの面倒を見てあげてください」

「ありがとうございます。お優しいですね、魔王様」

「ふふ、お気になさらず、人間と魔物が和解をするには実際の生活を見てもらうのが一番ですからね。あなたの身の安全は私が保証しましょう。その代わり一週間後にはちゃんと帰るのですよ。そのワイバーンにのってください」

「はい、わかりました。うふふ、振り落とされないように抱きしめなきゃですね」

『いや、我には拒否権がないのか?』



 そう言いながらデスリッチたちは、ワイバーンに乗っていく。デスリッチは抵抗していたが、サティさんの圧力とジャンヌの胸の力に負けて、二人で乗る事になってのである。

 そして、胸が当たってデスリッチが正気を失った時に彼女がぼそりと呟いた。俺は聞き間違えかと思ったが、確認する前に、ワイバーンが飛びだってしまう。



「じゃあ、私達もいきましょうか………今回はアルトさんが前に乗ってくださいね」

「え? まあ、べつにいいですけど」



 俺、ワイバーンをそうじゅうしたことないんだよなぁと思いながら乗ると、サティさんがぎゅーと抱きしめてくる。ああ、でもこれってスライムなんだよなぁと思っていると、いつもの柔らかい感触が……ない?



「その……エルダーの分裂体は今は街の様子を監視しているんです。だから、今は本当に二人っきりなんです」



 彼女が熱い吐息と共にそんなことをつぶやく。ということは今のサティさんはノーパッドノースライムなわけで……たしかに柔らかさは感じられないけど、彼女の体温と甘い匂いをいつもより感じられる気がする。

 


「じゃ、じゃあ、いきましょうか」

「は、はい……」



 お互い恥ずかしくなって俺はワイバーンに魔王城まで運んでもらうことになった。この空の旅は前よりも景色を楽しめなかったけど、それ以上にドキドキした。

 だけど……ワイバーンに乗るときにジャンヌが「私だって、これが愚かな片思いだってことはわかっていますよ。でも……私は恋をできる相手にすら会えなかったのですから好きにするんです。どうせ……長生きはできませんしね」と、そうつぶやいた彼女は裾にかくれていた腕輪を見てどこか悲しい目をしていたのが気になった。

 聞き間違いや、そういうなりきりプレイじゃないよな……



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