9.ジャンヌの目的

「貴様ら、ジャンヌ様を放せ!! 汚らわしきアンデッド共め、何をするつもりだ」


 その声を皮切りに6,7人の聖騎士たちがやって俺達を睨みつける。こいつらは一体何をしにきたのだろうか? 本来聖騎士は教会の警護や、要人を守ったりするのが仕事である。

 その一人一人が、優れた剣技と聖魔術を使う事ができる優秀な騎士なのだ。ていうか俺もアンデッドたと思われてない? そんな陰気な顔をしているか? ふざけんなよぉぉ!!



「デスリッチとりあえずジャンヌから離れろ。時間は十分稼いだしさっさと逃げよう。厄介な事になりそうだ。」

『おぱーい?』

「こいつまじでつっかえねえなぁぁぁぁ!!」



 俺はあまりに無能すぎるデスリッチに思わず叫び声をあげる。こいつさっきからマジで何の役にも立ってないんだけど……「おぱーい、おぱーい」と言っているだけである。

 とりあえず、サティさん達もそろそろ逃げ出しただろうし、聖騎士にこちらはジャンヌを傷つける意志はない事を言って退散しよう……そう思った時だった。



「ジル……逃げてください。さすがは魔王軍の四天王の一人デスリッチと、その側近デスアルトです……私の結界を破るほどの力を持っているのは予想外でした……このままでは危険です。私が彼らをおさえているうちに逃げてください!! このままではあなたたちもアンデッドになってしまいます……」

「ああ、本当だ、ジャンヌ様に触っている!! ジャンヌ様の絶対領域を破るなんて……私もジャンヌ様のぬくもりを感じたいというのに……汚らわしいアンデッドどもめ許さんぞ!!」


 

 待って? ジャンヌを何を言っているの? デスリッチに抱き着いたのはこいつだし、そもそも俺達は人をアンデッドにするつもりなんてないんだけど……というか俺は人間だけど……デスアルトってなんだよぉぉぉぉ。

 てか、ジルって呼ばれた聖騎士の目線が無茶苦茶怖いんだけど!! これあれだよ。サティさんとの関係がばれた時のアリシアみたいな目だよ。 



「ジル隊長!! 危険です。ジャンヌ様が身を挺して守っているうちに体制を整えましょう。あれは魔王軍四天王のデスリッチですよ!! 私達が束になっても叶う相手ではありません!!」

「だが、ジャンヌ様があのアンデッド共に汚されてしまう。あの本の様になってしまうのだぞぉぉぉぉ!!」

「大丈夫ですよ、ジル……私を信じてください。私は聖女なのです。何がおきようともアンデッドには屈しませんよ……ああ、このセリフ言ってみたかったんですよね。くっ殺みたいで素敵です♡」



 俺達を余所になんか盛り上がっているジャンヌとジルと呼ばれた聖騎士に突込みをいれる。いや、どうなってんの? というかジャンヌは何を考えているんだ? まるで、彼女達に助けてほしくない……というか俺達と行動をしたいかのようである。

 ジャンヌは俺と視線があうと申し訳なさそうな顔をして、目線で「申し訳ありません、話をあわせてください」と訴えてきた。


「まあ、なんか事情があるんだろ? のってやるよ」



 俺は溜息をつきながら一歩前へでる。デスリッチはいまだに正気ではないようだし、俺がやるしかないのか……

 正直状況はわからないが、ジャンヌを助けるとしよう。アリシアの友人だし、何か事情があるのだろう。それに……ジャンヌの目線はどこか救いを求めているようで、なぜか放っておけないのだ。

 

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名前:ジル=ドーレ

職業:聖騎士、元聖女候補

戦闘能力:125

狂信度:89

スキル:聖魔術・中級剣術・聖女への憧れ・被虐願望

備考:神の加護を得た存在として教会で、純粋培養され聖女としての英才教育を受けた少女。辛い訓練の時もジャンヌに励まされて、聖女にこそなれなかったものの聖騎士として彼女に仕える道を選んだ。12歳の時にジャンヌがこっそりと見せてきた『勇者に幼馴染の聖女を寝取られパーティーから追放された俺は、リッチになって魔王軍に入って復讐をする』を読んだことによって、性癖が開花した。

 娼婦の子であり、教会の前に捨てられた過去をもつためか男嫌いである。いつも手作りジャンヌちゃん人形と一緒に寝ており、それがないと寝付けない。

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 うわぁ……この子もウィンディーネ系かよ……俺はげんなりとしながら鑑定結果を見て思う。戦闘力も0.8ブラッディクロスと人間の中では強い。でも、サティさんや、四天王の敵じゃないな。

 それにこの子の弱点はわかった。



「ふはははは、ジャンヌよ、いい加減に諦めるのだな。貴様の結界はすでにデスリッチ様が解いている。その命はデスリッチ様が握っているのを忘れるなよ。だが、このままただ倒してしまってもつまらん。そこの女騎士達を助けたいのだろう? ならば、我らと共に来るがいい!! そうだな……一週間我らに屈することが無ければ解放してやろう!! 女騎士どもよ、デスリッチ様の名にかけて、聖女の命を奪わないと誓おう。もっとも、デスリッチ様の手にかかればこのような小娘一瞬で屈するだろうがなぁぁぁ」

「くっ、何て卑怯なのでしょうか……ジル、お願いです、ここはいったん引いてください。私を信じてください……私は聖女なのです。こんなアンデッド達には負けません!! くぅぅぅぅぅ」



 目線で訴えるとむちゃくちゃ乗り気でジャンヌが話をあわせてきた。ちなみに最後のうめき声は苦痛ではなく、愉悦のうめき声である。

 聖騎士たちからは見えないが、こちらからはむちゃくちゃにやにやしているのが見えるんだけど……聖女とは?



「わかりました……ジャンヌ様……私はあなたを信じます!!」

「さあ、行くぞ。ジャンヌよ。さっさと歩け、デスリッチ様の計画の支障が出るだろうが」



 そう言いながら俺達はサティさんが通った隠し通路の方へと向かい、スイッチを押して扉を閉めた。これでしばらくは時間が稼げるだろう。

 ちなみにデスリッチは正気を失っているのでジャンヌが運んでいる。意外と力あるな、この聖女……



「それで……何が目的なんだ。こんな茶番までさせたんだ。事情は話してもらうぞ。てか、どうしよう……教会に指名手配とかされないよな……」

「ありがとうございます……アリシアから聞いていた通り、あなたは優しい人ですね。それと安心してください。とっさにアルトさんがアンデットに見えるように幻覚をかけておきましたから。彼女たちにはアルトさんがゾンビに見えていたと思います」



 少し歩いて、ここならば聖騎士達に声もとどかないだろうと思い俺はジャンヌに問いただす。なるほど……だから彼女達はとくにつっこまなかったのか……よかった……俺の顔がアンデッドみたいというわけではなかったようだ。



「へぇー、アリシアからはどんなことを聞いているんだ」

「ふふ、彼女とは頻繁に手紙のやりとりをしているんですよ。だから、アルトさんとの婚約が勘違いで、冒険者ギルドの受付嬢と仲が良い事とかも知ってますし、モナとの喧嘩を仲裁してくれたということも聞いています。それと……目の前のデスリッチが、モナの先祖であるオベロン=アンダーテイカー様であることも……」

『あの小娘め!! 余計な事をいいおって……オベロンだったときの事は黒歴史だというのに!!』



 そう言うと、ジャンヌはデスリッチをちらりと見る。その目には何やら強い感情が宿っているようだ。そして、ジャンヌの言葉にようやく正気に戻ったらしきデスリッチが怒りの声をあげる。どちらかというと、今の方が黒歴史だと思うんだけど……



「怒らないで上げてください。アリシアはモナの事を心配していたんです。彼女はオベロン様に憧れていましたからね……ショックをうけるだろうから言うべきか言わざるべきか悩んでいたんですよ」

『ふん、あの小娘が……変な気を遣いおって』



 デスリッチも同じ血を分けているモナの事は可愛いのか、アリシアがモナを案じていたと知ると怒りを収める。

 しかし、肝心な事が何一つわかっていないんだよな。



「それで……ジャンヌは一体なんのためにローグタウンに来たんだ?」

「はい、それは二つあります。一つはこの『勇者に幼馴染の聖女を寝取られパーティーから追放された俺は、リッチになって魔王軍に入って復讐をする』にサインを頂きたいという事……」

『ちょっと待て、なんで我がこれを書いたと知っているのだ?』



 慌てた様子のデスリッチの質問に彼女は本を取り出しながら、クスリと笑って答えた。



「簡単ですよ。この本は私の先祖である勇者と聖女に関して詳しすぎます。私達親族か、よっぽど親しいものしか知らないことも書いてありましたから……そして、あなたの正体がオベロン様と知った時ピンと来たんです。かまをかけたのですが大当たりの様ですね」

『ぐぬぬぬ……』

「お前本当に四天王一の知将なのか?」



 ジャンヌにはめられて悔しそうな声をあげているデスリッチに思わずつっこみを入れてしまう。



「それで、もうひとつはなんなんだ?」

「はい……私はいままで教会のためにこの身をささげてきました。でも、アリシアが勇者の運命から逃れて、アルトさんと共に生活しているのを知って、私もまた自由に生きてみたくなったのです。それでですね……恋に生きてみようと思ったのです」

『??』



 そう言うとジャンヌはもじもじとして、顔を赤らめてきょとんとしているデスリッチを見る。その目はどこか濡れて熱い視線を送っている。え……まさか……



「私は『絶対領域』に目覚めた頃から私に触れることのできる方にこの身をささげようと誓っていました。そして、目の前にその相手がおり、それは私の大好きな本の作者にて、憧れのオベロン=アンダーテーカーだったのです!! これはもう、運命ですよ!! 神様の導きに間違いありません。この本を読むかぎり、オベロン様がちょっと歪んだSっぽい性癖を持っていることは知っています。媚薬をしみこませたスライム攻めとか何とも秀逸でした。ぶっちゃけむちゃくちゃ興奮しました!! それでですね……」



 彼女は一区切りして言葉を繋げる。



「デスリッチ……いえ、オベロン様、お願いします。凌辱を前提につきあってください!!」



 ジャンヌは熱に浮かれたように顔を赤くしてそう言った。


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