8.初体験

「やったか!!」



 デスリッチの短剣が聖女の胸元に吸い込まれるようにして吸われていくのを見て俺は思わず声を上げる。これで聖女の力を一時的にでも無効化できれば、彼女も結界を張る余裕がなくなり、目の前の俺達の相手をせざるを得ないだろう。

 そして、デスリッチがやりすぎるようならば俺が止めればいい。そう思った俺の視線にうつったのは予想外の光景だった。



『なっ……なっ……』

「うふふ、やりました!! 流石デスリッチですね!! 私の絶対領域を限定的にとは言え無効化するとは……ああ、これが他者に触れるという事なのですね……」



 そう言ってどこかうっとりとした様子で、ジャンヌはデスリッチに抱き着いた。一体何を……と思ったが、デスリッチの様子がおかしい。まさか、あいつを浄化するつもりなのか!!



『お……お……』

「ジャンヌ、確かにこいつは傲慢なくせに、ヘタレだけど、いいやつ……じゃないな。むしろこいつのおかげで俺は散々な目にあってばっかりだしな……あれ、こいつを庇う理由なくない? いやでも、今回は魔物を守るために頑張っていたんだ。こいつを浄化するのは待ってくれないか!!」

「浄化……? 一体何の話でしょうか……私は、ただ他人の温もりを味わっているだけですよ。まあ、アンデッドなんで温もりはありませんが、でも……これはこれで汚されている感じでいいですね」

「じゃあ、なんでこんなデスリッチが苦しそうなんだよ!! 正気に戻れ、デスリッチ!!」



 俺は鑑定スキルを使って、ジャンヌに抱き着かれて、悶えているデスリッチにおこった異変を鑑定しようとしたのだが、本当に何にもないんだけど!! マジで抱きついているだけじゃん。じゃあ、なんでこんな苦しんでいるんだ……その答えはすぐにわかるのだった。



『お……お……おぱーい……」

「は?」

「おやおや……確かに胸は当たっていますが、アリシア程大きくはないですし、そんな風に言われるとちょっと恥ずかしいですね……ああ、でもこれも一種の羞恥プレイ? さすがですね、デスリッチ!! 魔王軍の四天王は伊達ではありませんね」

『おぱーい……柔らかいおぱーい……』



 デスリッチが壊れたぁぁぁぁぁぁぁぁぁってか、ふざけんなよぉぉぉぉ。何百年も童貞だったからか、胸の感触にパニックになっているようだ。しかも、相手は美少女聖女だしな、ちょっと気持ちはわかる。てか羨ましいわ、クソが!!

 

 

「というかですね……そんなに警戒をしなくても大丈夫ですよ、元々私は別に魔物を倒しにやってきたわけではないですから。私だって仕事だから、敵対する魔物やアンデッドを倒していただけですし、アリシアがこの街で住んでいるというのに、デスリッチやここにいた彼らを放置していたのにはきっと理由があるでしょう? 人に害を与えない魔物を倒すつもりはありません。それに、アンデッドを全滅させたらアンデッドプレイができなくなってしまいますし……」



 そう言うと彼女は苦笑する。どうやら、ジャンヌは問答無用で魔物を倒すというタイプではないのか。勇者パーティーの中では珍しく話がつうじるようだ。最後の方はごにょごにょ言っていたが、よくきこえなかったしなぁぁぁぁ!! ところで、アンデッドプレイってなんだろうな。



「私のスタンスを理解していただけました? それで……あなたは人間ですよね? 状態異常回復の法術を使ったのに、態度が変わりませんし……なぜ魔物に協力をしているのですか?」

「それは……」



 いつの間に法術を使っていたのだろうか? 聖女は伊達ではないという事だろう。それにしても、俺は何と答えればいいか悩む。サティさんの正体をいうわけにはいかないし……アリシアがいればあいつに説明をしてもらえばいいんだが……俺の名前を言っても彼女が知っているかわからないしな。

 魔物と一緒にいる男が幼馴染と言っても変な勘違いをされる可能性がある。



「は? まさか魔物達にその身を捧げ、サキュバスとかエッチな魔物の快楽を得るためにその身をうったのですか? そんな狼藉神が許しませんよ!!」

「俺何も言ってないんだけど!! てか、そんなことのために魔物につくかよ!!」

「そうなんですか? 魔物の中には本来人が感じる事の出来ないほどの快楽を与える魔物もいると、私の愛読書のおまけページに書いてあったのでありえるかと思ったのですが……」

「あー、そういや、そんなんあったな……」



 俺はデスリッチが書いた例の本にそんな事が書いてあったなと思い出す。待てよ、っていうことは魔王であるサティさんも色々すごいんだろうか……



「ほう、その下劣な笑み、私の推測が当たったようですね。本当にまるで聖女カレンのようですね……なんと羨ましい……」

「いや、そのカレンって小説のキャラだよな。一緒にしないでくれる? デスリッチ何とか言ってくれよぉぉぉ。これじゃあ、俺が快楽のために魔物に身をうった変態みたいになるんだけど!!」



 俺はデスリッチに助けを求める。なんだかんだこいつはアリシアを騙したみたいに口が上手いからなんとかしてくれるだろう。

 その考えはあっさりと裏切られた。



『おぱーい、おぱーい……』

「とりあえず、デスリッチが使い物にならないからちょっと離れてくれるかな? こいつまじで使えねえな!! 本当に元四天王かよ!!」

「えー……せっかく感覚を楽しんでいたのですが……でも、そろそろ時間もありませんし、仕方ないですね」

『くっ、流石だな、聖女よ。我の精神を混乱に招くとは、やるではないか!! これが神の奇跡か!! アルトよ。油断をするなよ、まだ何か隠し玉をもっているかもしれんぞ!!』

「いや、ジャンヌは何もしていないぞ。お前の童貞力がやばいだけだよ……何がNTRだよ。お前じゃ絶対NTR何て出来ねえよ……」

「へぇ……アルト……、もしかして、この人が……」



 俺はやたらと焦った顔をしているデスリッチに、うんざりした声でツッコミをいれる。てか、ジャンヌが俺を見て不思議な笑みを浮かべているんだけど……嫌な予感がしてきたぁぁぁ。



「すいません、アルトさん、デスリッチ、あなたがたにお願いがあるのですが……」

「ジャンヌ様。ご無事ですか!!」



 その言葉と共に何人もの人間がどたどたと入ってきた。十字架が描かれた防具をしているその姿はあまりに有名である。聖騎士じゃねえかよぉぉぉぉぉ!! まさか、ジャンヌが呼んだのか!?


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一話を読むとポイントももらえますのでぜひ!!


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