7.vs聖女

「へえ、中々通ですね。私の格好に気づくなんて。私あの作品のファンなんですよ」


 

 少し恥ずかしそうにそういう聖女の言葉に俺は混乱をする。ファンって……あの本はただのエロ本な上にNTRものだぞ……夫婦以外と関係を持ってはいけないという教会の教えと真っ向から対立するし、主人公も聖なる存在とは真逆のアンデッドである。ていうか、デスリッチである。

 確かに男性的には実用的な本だったが、誰にでも優しく清廉潔白なという噂の聖女の読むものとは全然違う。まさかこいつ偽物か!! 



『ふふん、ここは我に任せていくがいい!!』

「わかりました。アルトさんは……」

「俺はここにいてデスリッチがやりすぎないか監視していますよ。聖女は、アリシアの友人でもありますからね」



 俺は隠し通路から逃げていくサティさんに答える。彼女は何か言いたげだったが、胸がさっさと行くぞと主張したこともあり、名残惜しそうにこちらを見つめながらも魔物達の後を追っていった。本物であろうと偽物であろうと、流石に人間相手に問答無用で暴力を振るったりはしないだろう。

 さて、鑑定させてもらうかな。



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名前:ジャンヌ=カルディック

職業:聖女

戦闘能力:999

スキル:聖魔術・神降し・絶対領域・エッチな妄想・聖女の笑顔

被虐願望:99999

備考:神の加護を得た存在として教会にて、純粋培養され聖女としての英才教育を受けた少女。現状人類最高峰の聖魔術の使い手である。12歳の時に友人のモナがこっそりと持ってきた『勇者に幼馴染の聖女を寝取られパーティーから追放された俺は、リッチになって魔王軍に入って復讐をする』を読んだことによって、性癖が開花した。

 最初の感想は「子供ってキャベツ畑で生まれてくるんじゃないんですね……」その夜に徹夜をして、書き写し、第二の聖書として他の修道女や聖女候補にも見せて、世話係の神父にマジで怒られた事がある。


ユニークスキル


絶対領域

神の加護によって邪悪なものから遠ざける効果がある。神いわく「やっべ、色々な属性混ぜたら加護が強くなりすぎちゃったわ。メンゴ」


エッチな妄想


 とある本の影響と、自分は誰かと交わる事の無いというある種の諦めから目覚めたスキル。どんな精神状態からも、エッチな妄想をすることによって、正気?に戻る。

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「うっそだろ……」



 いやいや、この子本物の聖女じゃん。どこが清廉潔白だよ。てか、むっつり性女じゃねえかよ……俺は噂は当てにならないなぁと思いつつ、アリシアや、モナを見て、まあ、あいつらの仲間だしなと思って納得をする。



「冒険者ギルドで時間をつぶしていたら魔物の気配がしたので、寄ってみたのですが……こんなところに魔物が潜んでいるなんて驚きました。でも、あなたは人間ですよね? なんで魔物達と一緒にいるのですか? もしや、人質がとられているのですか? なるほど……それで言う事を聞かなければいけないという状態なのですね……なんとうらやま……じゃなかった。辛い状況なのでしょうか? 私があなたをお救いしましょう。私の方に手を差し出してください。ご安心を……この街全体くらいならばすべての魔物の動きを止めて、アンデッドは浄化する結界を張る事ができますので」



 そう言って、彼女は勝手に納得をしてにこりと笑う。その笑顔には不思議と心を落ち着かせる効果があった。俺も、本性を知らなければ、清廉潔白で優しい聖女様に見えただろう。

 そして、彼女にはいま言った言葉を実行するだけの力があるのだろう。だからこそサティさんや、エルダースライムは恐れていたのだ。正直まずいな……彼女達ならば聖女の結界に対抗できるかもしれないが、他の魔物はそうもいかないだろうからな。



『ふん、相変わらず偽善者ぶった反吐が出るセリフだな。聖女よ。そして……カレンと同じことを言う……』

「偽善? 何を言っているのでしょうか。私は聖女として当たり前の言っているだけですよ。困った人を助ける。それが聖女としての力を与えられた私のすべき事ですからね。そして……悪い魔物は倒す。これも当たり前の事です。どうやら彼は操られているようですね。結界を張るとしましょうか」

『アルト!! なんとしてもやつを止めるぞ!! 四天王クラスならばともかく、結界が張られればグレイは死ぬぞ。貴様はこの女を纏うスキルを鑑定しろ!! あとは我が何とかする!!』

「グレイさんが!? まじかよ!!」



 俺は驚愕の声をもらしながら聖女に向かって、木のコップを投げつける。当たらないとはいえ、女性に暴力とはかなり罪悪感が湧くが非常時である。それに……グレイさんは強力なアンデッドである吸血鬼であり、戦闘力も35ブラッディクロスくらいあるのだ。そんな彼女ですら対抗できないとは……この聖女強いな!!



「無駄ですよ……私には何者の触れる事はできません。人はおろか、悪意を持って投げつけられたものでもね」

「うおおおおおおお、あぶねええ」



 ジャンヌの言う通り、俺が投げたコップは彼女に触れる寸前に倍のスピードでこっちに返ってきた。こんなん当たったら洒落にならねえぞ!!

 だけど……聖女の絶対領域は鑑定できた。



「彼女を守る結界の構成は……構成は聖なる結界術5割、反射魔術3割、あとは……精霊魔術が2割だ!! どんだけ複雑なんだよ!!」

『ふん、ヘタレにしてはよくやったな、褒めてやろう。それだけわかれば大丈夫だ』



 そう言いながら、デスリッチは呪文を唱えながら、短剣を振りかざす。そんなデスリッチを見てジャンヌはなぜか逃げずに満足そうに笑い……そして、その短剣を身に受けた。

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