6.聖女襲来
「デスリッチ、元気そうですね……」
『おお、魔王よ、よく来たな。我の監視か? 心配するな。まだ悪さはしていないぞ。ああ、グレイが言っていたが、ここの常連だったのだな。ならば……豆と鶏肉メインの料理に牛乳を出してやろう。今日は質のいい鶏肉が入ったのだ。楽しみにしているがいい。これで多少はマシになるといいな』
「その材料は……せっかくですし、いただきましょう、ですが、後でちょっとお話したいことがあります」
デスリッチはサティさんのとある部分をちらっとみてにやりと笑うと、キッチンに戻って行く。今のは確かバストアップに良いとされている食材である。
文句を言いたそうなサティさんだったが、彼女の胸がスライムパッドな事は他の魔物には秘密なので怒れないと言ったところか。それと多分バストアップ料理に興味があるんだろうなぁ……だけど、今はそんな場合ではないのだ。
「サティさん、料理もいいんですが、聖女の件はいいんですか?」
「ああ、そうでした。私としたことが……つい料理に興味が映ってしまって……デスリッチ大変です。聖女がこの街にやってきたのです!! 結界をはられたら厄介な事になるので、皆を避難させるために囮になって時間を稼いでいただけますか? 聖女にとってアンデッドは天敵でしょうし、あなたならば逃げ切ることは容易でしょう?」
『聖女だと……ふん、ゴブリンの巣に入る愚かな冒険者とはこのことだな』
サティさんの言葉で、楽しそうに料理を作っていたデスリッチの動きがぴたりと止まる。振り向いた彼の目に映るその感情は一体何なのだろうか、どこか禍々しい光を放っている。
ああ、そうか……こいつにとっては初恋の相手とかつての親友の子供なのだ。今は敵対をしているとはいえ憎しみだけでもなく、様々な感情があるのだろう。
『魔王よ、聖女の事は我に任せておけ。むしろ、我はそのためにあのような茶番を繰り広げたのだからな!! あれだ、時間は稼ぐのはいいが……別にアレをNTRしてしまっても構わんのだろう?』
「あなたは聖女と戦うつもりなのですか!? できれば、人間との戦いは極力さけていただきたいのですが……それに聖女が結界をはれば我々魔物は……」
『その問題は解決をしているのだよ。精霊の加護によってつくられたこの根源壊し(ルーツブレイカー)によってな』
そう言うとデスリッチは懐から神秘的な輝きをした短剣を見せつけるように取り出した。その短剣には精霊たちの言葉だろうか、その刀身には不思議な幾何学的な文字の描かれている。なにこれ、無茶苦茶かっこいいんだけど!! 興味を持った俺はスキルを使って鑑定をしてみる。
-----------------------------------------------------------------------------------------------
名前:根源壊し(ルーツブレイカー)
効果:魔術及び法術などのあらゆる現象の根源を破壊することができる。ただし、破壊をするにはその現象をある程度理解してないと効果が発揮しない。
備考:精霊のエレインが作成したが、先代勇者の影響でこういう厨二っぽいのが、人類で流行っていると勘違いしたせいで無駄に神秘的な外見である。書いてあることに深い意味はなく、デスリッチの悪口が書かれている。
製作者の残留思念:別にデスリッチのためじゃないんですからね!! こういうのが人間は好きなのでしょうか? 興味深いですね。
--------------------------------------------------------------------------------------------
すごいはずなのに全然すごくねえええええ!! てか、あの文字悪口なのかよ!! とはいえ、デスリッチは本気で聖女対策を考えているようだ。てか、NTRって……こいつのはもう、ただの逆恨みなのでは?
『魔王よ、確かに貴様は人間と戦う事を禁じている。だが、正当防衛ならば問題はあるまい? そして、その時にちょっと胸に触れてしまったりしても問題はあるまい?』
「いや、問題しかないだろ……」
「やっぱりセクハラをするつもりなのですね……」
正当防衛で胸に触れるってどんな状況だよ……と思って俺とサティさんはため息をつく。とはいえ、デスリッチは聖女相手でも余裕そうである。味方にすると心強いな。いや、心強いか? こいつの作戦失敗ばかりしてないか? 今回も失敗するんじゃない?
『おい、貴様なんだ、その不安そうな目は……』
「いや、だって、デスリッチの作戦全部失敗してるじゃん。アリシアの時も、ウィンディーネの時も、モナの時も……丸っきり、全滅じゃん。マジで余計な事をしないで時間を稼ぐだけにしてくれ!!」
『何を言う我は魔王軍一の知将にして、四天王だぞ!! 本気を出せば貴様など瞬殺することも可能なのだぞ』
「元四天王でしょう……それに、アルトさんに手を出したらだたではすませませんよ」
『ひぃっ、調子に乗りました。虚乳で美しいサティ様ぁぁぁぁぁ』
サティさんから凄まじいプレッシャーを感じたデスリッチは先ほどまでの威勢はどこにいったのか情けない悲鳴を上げる。
やっべえ、マジで不安しかないんだが……
『とにかく、聖女は我が……』
「失礼します。食事を取りたいのですが、席は空いてますか?」
「ああ、いらっしゃいませ……うぐぅ……」
デスリッチたちの会話を興味なさそうに聞いていたマッシュが、接客をしようとがお客さんに近くと、なぜか苦しみだした。一体どうしたんだ、それにこの人は……?
俺はニーソにミニスカートの女性を見て衝撃を受ける。
『馬鹿な……聖女なんでこんなところに……』
「くっ、冒険者ギルドにいるはずがなんでこんなところに……まずいですね……」
サティさんとデスリッチが小声で呻く。マジかよ、この人が聖女なのか……でもさ、でもさ……なんでこの人……
「『勇者に幼馴染の聖女を寝取られパーティーから追放された俺は、リッチになって魔王軍に入って復讐をする』のヒロインと同じ格好をしているんだよぉぉぉぉぉ!!」
「へえ、中々通ですね。私の格好に気づくなんて。私彼女のファンなんですよ」
そう言って聖女らしき少女は決めポーズをした。これが俺とコスプレ聖女との出会いだった。やっぱり勇者の仲間ってロクなのいねえな……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます