4.アルトとサティさん

うおおおおおおお、やばいやばい。これってあれだよな。もうフラグ立っているよな……俺は果実水を入れながら、先ほどのやり取りを思い出す。

 エルダースライムだって、空気を読んで外出したのだ。そもそもである。付き合う前の男女がお互いの実家に行き来するっていうのがあれだもんな。サティさんも真剣に考えてうちにきてくれたのだろう。

 若い男女が二人……しかも、お互い気になっている関係だ。こんな状況で何をするかって言ったら決まっている。



 そう……告白である。



 あいにくモテた経験はあまりない上に、恋愛経験もあまりない俺だが、流石にここまでおぜん立てされたのだ。どうすべきかなんてわかっている。

 だけど……それと同時に引っかかっていることが二つある。一つはアリシアの事である。俺はアリシアにあれだけアプローチをされているのに、やんわりと断ってはいるものの、ちゃんとした返事をしていないのである。エルダースライムやアリシアはハーレムで良いとか言っているが普通はだめだろ。

 それと……サティさんは魔王なのだ。サティさんは気にしないでいいと言ってくれるだろう。エルダースライムもサポートをしてくれるだろう。だけど、他の魔物達はどうだろうか? アグニは多分力がないと認めてくれない気がするし、デスリッチは……まあ、どうでもいいか。

 とにかく、今の俺はサティさんにふさわしい男なのだろうか? むしろ俺なんかと付き合ったりしたら、サティさんの株が落ちるんじゃないだろうか。そんな事を思ってしまう。



「サティさん。飲み物を持ってきましたよ」

「アルトさん!! おもったより早かったですね!!」



 そう言うとサティさんは顔を真っ赤にしながら、何かを隠した。いや、なにかじゃねーよ。俺のエロ本じゃん。『巨乳勇者調教計画』じゃん。今読んでたよね? え? なんで? 無茶苦茶恥ずかしいんだけど!!



「サティさん……今のは……」

「何でもないです!! 飲み物ありがとうございます。ちょうと喉が渇いていたんです」



 俺が最後まで言い終わる前にサティさんは飲み物に手を付ける。実はむっつりだったのだろうか……誤魔化しているつもりだろうが全然誤魔化せていない。

 親父やエルダースライムが気を遣ったおかげで余計二人っきりという事を意識してしまいお互いどこかぎこちなく無言の時間が続く。

 だけど……不思議と嫌ではなかった。



「なんか不思議ですね……少し前はただの冒険ギルドの受付嬢と冒険者だったのにこんな風に二人っきりでいるなんて」

「そうですね……色々とありましたもんね。サティさんが魔王ってわかった時はどうしようかとすごい焦りましたよ」



 サティさんの言葉に俺はうなづく。いやいや、本当に色々とあったよ。マジで……巨乳だと思ったら虚乳で……しかも、魔王だったのだ。最初は殺されるかと思ったしな。

 だけど、俺はサティさんの正体を知ったことを後悔なんかしていない。




「でも、私の正体を知ったのがアルトさんで良かったなって思っているんですよ。他の人でなく、アルトさんだったから私はまだこの街で受付嬢を続けれていると思いますし」

「サティさん……俺もです。サティさんの正体を知って後悔した事なんかありません」



 俺が彼女の言葉にうなづくと、サティさんがゆっくりと寄りかかってくる。甘い香りが俺の鼻孔を刺激する。

 俺は緊張のあまり手を震えさせながら、彼女の肩を抱くと、サティさんもまた震えていることに気づく。ああ、彼女も緊張しているのだ。

 今更当たり前の事に気づく。彼女は異性の部屋に行くのは初めてだって言っていた。緊張しないはずがないのだ。だってサティさんは魔王である前に女の子なのだから……



「実はですね……私はお酒には酔わないんです。だからエルダーに言っていたことは全部聞いていたんですよ。その……あの時に比べて私はアルトさんの事を色々と知りました。そして、アルトさんも私の事を色々と知ってくれたと思います。私はその上でここに来ているんです」

「え……それって……」



 そのひとことで俺が最初にサティさんと食事をしていた事の思い出す。もっとお互いの事を知ったら俺は彼女に告白しようと思うみたいな事言ったのだ。それを彼女が聞いていて今ここにいるという事はつまり……彼女がこんなにも勇気を出してくれているのだ。ここで告白しなければ俺はクソじゃないだろうか?

 それでも、俺がうじうじしているとサティさんが意を決したように深呼吸をしてからこういった。



「くっ……勇者である私にこんな気持ちにさせて……責任を取らないんなんてひどいです!!」

「サティさん……それは『巨乳勇者調教計画』で主人公とヒロインが結ばれるセリフじゃないですか。そんな事言われたら俺……」

「え? 本当にこんな言葉に効果があるんですか? 男の人って何を考えているんですか!! でも、積極的になってきてくれてうれしいっておもっている私がちょろくて憎い」


 

 サティさん言葉でもう限界だった。俺を萌えさせるためにここまでしてくれたのだ。くだらない言い訳をしているわけにはいかないだろう。

 俺がサティさんを抱きしめると一瞬びくっとしたがそのまま彼女は俺を見つめる。その瞳はとてもうるんでいて……俺は彼女の唇に吸い込まれるようにしてお互いの唇を重ねようとして……



『大変なことがおきました……、おっとそちらも大変な状況でしたね』

「うおおおおおおお」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ」



 乱入者の声に俺とサティさんは悲鳴を上げながら距離をとった。ふざけんなよぉぉぉぉぉ。無茶苦茶勇気を出したんだぞ!!



『キスくらいすぐできるでしょう? そのくらいならまちますよ』

「できるかぼけぇ!! 空気って言うものがあるんだよぉぉぉぉぉ!!」



 俺は顔を真っ赤にしながら答える。サティさんにいたっては顔を手で隠して悶えている。そうだよな、サティさん的にはキスシーンを親にみられるようなもんなんだよな。俺なら死ぬわ。



「それよりもエルダー。何があったんですか?」

『大変です。サティ……聖女がやってきました』

「聖女がですか……」



 エルダースライムの言葉にサティさんが険しい顔をする。そこには先ほどまでのか弱い女の子ではなく魔王城で見た魔王の顔だ。

 いつになく真剣な二人を見て俺は疑問に思ったことを聞いた。



「でも、勇者や、魔法使いも来ていたじゃないですか。今更聖女くらい来てもそんなに慌てなくても……」

「アルトさん……聖女は別なんですよ……最悪この街にいる魔物が全滅する可能性もあります……そして、私はここを出て行かなくてはいけなくなるかもしれないんです」

「え?」



 サティさんのその言葉に俺は何と返事をすればいいかわからなかった。

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