アルトの実家
「何をしやがるくそ親父!!」
「うるせえ、お前こそ何を考えていやがる。このクズ男が!!」
「まさか……これがアルトさんの家の挨拶なんですか!!」
いきなり殴り合いを始めた俺と親父を見てサティさんが驚いた表情で、素っ頓狂な事を言った。どこの家庭に挨拶がわりにいきなり殴り合うやつらがいるんだよぉぉぉぉ。俺達は戦闘民族かなんかなのか?
「違いますよ、サティさん。うちの親父がとち狂っているだけです!! てか、冒険者なめんなよ!!」
「くそがぁぁぁ、無駄に強くなりやがって!! そこのお嬢さん、騙されちゃいけませんよ。こいつに何を言われたか知りませんが、こいつには婚約者がいるんです!!」
俺は親父の拳を掴んでひねり無力化させる。そりゃあ四天王や勇者パーティーとかに比べればクソザコだが、一般人に負けるほど弱くはないのだ。
てか、親父はマジで何を言っているんだろう。俺に婚約者……?
「へぇー? アルトさんちょっと詳しくお話を聞かせていただけますか……?」
「「ひっ!!」」
婚約者というワードに反応して、サティさんからすさまじい殺気が放たれて俺と親父は恐怖のあまり抱き合った。無表情な彼女の視線に心臓を鷲掴みにされたような恐怖を感じる。
いやいや、魔王やべーよ。波動で凍てついたわ。てか、そんなことよりもはっきりさせないと。
「待った!! 俺に婚約者ってどういう事だよ!! まさか、アンジェリーナさんと子供の頃結婚の約束をしていたとか?」
「いや、あの子はお前なんて眼中にないっての。今は旦那さんと幸せな家庭を築いているしな。街のみんなで結婚式をして祝ったんだが、ドレス姿むちゃくちゃ可愛かったし、谷間がやばかったな。」
「さらば初恋ぃぃぃ!! てか、結婚式呼ばれてねえんだけど!!」
「お前いつクエストから帰ってくるかわからないんだから仕方ないだろ。それよりも、アリシアちゃんと婚約してるんだろ!! この前『四天王の一人を倒したんでアルト兄と正式に婚約します。王都に一軒家を買う予定なので準備が終わったら遊びに来てくださいね』って手紙が来てたぞ。俺の親友の娘に手を出すのは百歩譲って許すが、堂々と二股とは何を考えてやがる!! そんなクズに育てた覚えねえぞ!!」
「「うわぁ……」」
その一言で色々と察してしまった。俺とサティさんが同時に呻く。事情を察したのかサティさんの先ほどの殺気は収まっていた。
てか、ちゃんとフォローしといてくれよ、アリシアぁぁぁ!! あいつは元々勘違いをしていたからな。あの時はそのまま王都に俺を連れて帰るつもりだったのか……なんか罪悪感が……でも、本当の事を言わなければいけない。
「あー、話がわかったわ……その……実はアリシアの勘違いなんだよ……ねえ、サティさん」
「どういうことだ? 詳しく話してみろ」
「アンジェリーナさん……どんな方なんでしょうか……?」
俺の言葉に親父が怪訝な顔をする。サティさんにも助力をと思ったが、なにやらぶつぶつつぶやいている。一体どうしたのだろうか?
「いやー、悪かった!! そうだよな、アリシアちゃんは思い込みが激しいもんな。あー、本当に娘みたいに育てていた親友の娘と実の息子がくっつくのかーって悩んで損したわ……」
あの後、俺とサティさんで経緯を説明すると親父も納得してくれたようだ。先ほどの言動を誤魔化すように大声で笑っていやがる。
まあ、親父からしたら親友の娘と自分の息子がくっついてショックを受けていたところにようやく認めようとしたら、他の女をつれてきたのだ。ぶちぎれてもおかしくないだろう。
そして、落ち着いたこともあり、サティさんと親父がそれぞれ自己紹介を済ませ雑談をしているところだった。
「冷静に考えたら勇者のアリシアちゃんとヘボ冒険者のアルトじゃ釣り合いが取れないしな」
「あんたな……」
「そんなことはないですよ」
親父の冗談っぽい一言に俺が呻くと、サティさんがちょっと不満そうに口を開く。
「アルトさんは確かに強くはないかもしれませんが、みんなが嫌がるクエストも率先して受けてくれますし、誰に対しても偏見なく優しいです。そんなアルトさんにたくさんの人が救われていると思います。私にとっては……勇者や魔王と同じくらいすごい存在だと思います」
「サティさん……」
「へー……」
サティさんの言葉に親父は感心したような、嬉しそうな笑みを浮かべる。そうして、親父は真剣な顔をして口を開く。
「サティさん……ギルドの受付嬢をやってるって言っていたが、あんたはアルトの事をよく見てくれているんだな。ありがとう」
「え……よく見ているだなんて、そんな……今のは友人として尊敬できるみたいな感じでですね……深い意味はないんです」
「ふふふ、こいつは言動こそあほな所もあるし、エロいが、困った人を助ける心だけは持ったやつなんだ。だけど、その長所はあんまり目立たなくてな……だから、そこを見てくれる人が家族以外に現れて嬉しいよ」
そう言うと親父はなぜか立ち上がると俺を手招きした。そして、ニヤッと笑う。
「じゃあ、俺は出かけるから、サティさん自分の家だと思って、ゆっくりしていてください」
「え? 親父はどっかいくのか?」
「ああ、ちょっとこれから予定がな……てか、家にはお前この子だけなんだろ? 察しろよ。サティさんはいい女だ。絶対逃すなよ。それに、お前も昔から巨乳な彼女を連れてくるって言ったもんな……やっぱり遺伝だよなぁ……俺もさ、母ちゃんの巨乳に……」
「いや、両親のそう言う話マジで聞きたくないんからやめろぉぉぉぉぉ!!」
俺が絶叫すると親父はへらへら笑いながら出て行った。しかし、親父の言葉で否が応でも意識する。そう……この家には俺とサティさんしかいないのだ。
「あっという間に行ってしまいましたね……もうちょっとお話をしたかったんですが……」
「ああ、すいません、用事があるみたいで出て行きました」
「そう……なんですね」
サティさんがちょっと緊張したのはきのせいだろうか? 俺とサティさんの間の空気が変わった気がしたのだった。
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いよいよ。明日書籍が発売します。素敵なイラストもついてくるので興味があったら購入してくださると嬉しいです。
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