1.アルトの故郷

「いやいや、本当に何でもないところですよ。その……がっかりしないでくださいね」

「がっかり何てしないですよ。アルトさんの故郷に行くんです。とっても楽しみにしていたんですから」



 少し気後れしている俺にサティさんは満面の笑みで答える。そんなサティさんの服装はレースをあしらった水色のワンピース姿であり、いつもの受付嬢の制服とは違いこれも何とも可愛らしい。なによりも歩くときにちらりと覗く生足がたまらないし、その存在を主張している虚乳もしっかりと布で守られているので色々と安心である。

 そう……俺とサティさんはは今俺の故郷に来ているのだ。まあ、故郷とはいえいつもの冒険者ギルドから徒歩30分くらいの同じ街内なんだけどね。

 とはいえ、気になる人を自分の家に招待とか無茶苦茶緊張するんだが!!



「それにしても、同じ街でも結構雰囲気が変わりますね。こっちはみんな落ち着いている気がします」

「そうですね、冒険者ギルドの方は市場も近いから活気がありますが、こっちは民家が多いですから……あ。なつかしい。昔この店でよく買い食いをしていたんですよ」



 歩いていると昔なじみのお店を見つけて、俺は思わず声をあげる。お店をちらりと覗くと、おばあさんが、何やら鍋をかき回しているようだ。

 俺が子供の頃から外見変わらないんだけど、何歳なんだろうな。彼女が作る料理は絶品で、よくアリシアと一緒に小腹が空いたら食べていたものだ。



「おーい、おばあちゃん!! 元気か?」

「くっひっひ。おや、あんたは『疾風のアルト』じゃないか。すっかり大きくなったねぇ」

「疾風……ですか? というかこのおばあさん笑い方がなんか変わってますね」



 俺が声をかけるとおばあさんは懐かしそうに声を上げる。しかし、その通り名はやばい。案の定サティさんが不思議そうな顔をしている。

 ちなみにおばあさんの笑い方はみんなで鍋を回している姿が魔女っぽいと言ってたらノリノリでやってくれているだけである。むっちゃ懐かしい。



「ちょっとおばあちゃ……」

「くっひっひ、『疾風のアルト』っていうのはこの子の通り名さ。すごい速さで、女の子のスカートをめくっていってねぇ……何度注意してもやめないんだよ。おまけに『俺は疾風のアルトだ。風である俺を止める事はだれもできない」って言って……」

「おばあちゃーん!! いつものスープを買うから勘弁してくれぇぇぇぇぇ」

「はい、まいどーー」

「ふぅん、ずいぶんと楽しそうな子供時代だったんですね」



 色々と言ってほしくないことを暴露するおばあちゃんを中断させるために俺は必死に叫ぶ。やっべえ、サティさんの好感度がどんどん下がっていくぜ。



「サティさん、これは子供の頃の事でして……」

「別に気にしなくてもいい大丈夫ですよ。それにしても。アルトさんって子供のころからエッチだったんですね」



 言い訳をするもサティさんは微笑みながら答えるばかりだ。いや、その笑みがこわいんだけど……俺はおばあちゃんを恨めしそうに見つめながらスープをもらう。

 てか、俺ってエッチだと思われてるの……? せいぜい鑑定スキルを死ぬほど磨いて女のバストサイズを鑑定しようとしただけのごく普通の男なんだが……



「くっひっひ。それで、アルトや、その人はあんたの恋人さんかい? ずいぶんと別嬪さんじゃないか」

「え……それは……その……」



 おばあちゃんの言葉に俺は言葉を詰まらせる。友達と言うには親しすぎるが、恋人というには、告白もしていない。何といえばいいんだろうか? 

 ちらっとサティさんを見るが、彼女は意味深に微笑んできた。その瞳は何かを期待しているようで……だったら俺も素直にならなきゃいけないよな。



「その……大切な人かな」

「アルトさん……」



 俺の言葉にサティさんが、嬉しそうに微笑んだ。サティさんも喜んでくれているっていう事は、俺の独り相撲じゃないんだよなって少し肩をおろす。



「くっひっひ、あのアルトがすっかり立派になったもんだねぇ。鑑定スキルしかないのに冒険者になるって聞いた時はびっくりしたもんだけど……本当に成長したねぇ」

「ああ、おばあちゃんが餞別にって言ってくれた飯の味は覚えているよ」



 懐かしい味を楽しんでいると、カップを持っていないほうの手が何かに触れた。サティさんの手の様だ。彼女の手はなにやら俺の手の周りをうろうろしている。

 気になって彼女の方を見つめるとなぜか顔を真っ赤にしている。まさか、これって手をつなぎたいって事なのかな……俺が恐る恐る彼女の手を掴もうとした瞬間だった。



「くっひっひ、昔からアルトは女の子の大きい胸が大好きだったものねぇ。アンジェリーナちゃんもいつも胸を見てくるって言ってたし、巨乳な彼女を作るんだぁって口癖のように言っていたけど……ちゃんと夢がかなってよかったじゃないか」

「ふーん、そうなんですね。アルトさんは巨乳がお好きなんですね」

「うおおおおおおおおおお、おばあちゃんご馳走様ぁぁ。サティさん早く俺の家に行きましょう!!」



 おばあちゃんの一言で一瞬で空気が変わった。俺の手はぺちんと弾かれて、さっきまでの甘い雰囲気は消し飛んだ。

 代わりにサティさんはデスリッチ(ゴミ)を見るような目で俺を見つめている。やべえ、ここは地獄だぁぁぁ。おばあちゃんサティさんのは巨乳じゃないんだよ。虚乳なんだよぉぉぉぉぉ。

 俺は心の中で、叫びながらサティさんを引っ張って、店から逃げ出すように駆け出した。それにしても俺の過去は黒歴史しかねえな!! まあ、巨乳は好きなんですけどね!!



「アルトさん……手つないだままですよ」



 気まずさのあまり、しばらく、無言で歩いているとサティさんがぽつりと言った。とっさに手を握って駆け出していたのだ。



「あ、すいません。つい……」



俺が慌てて手をほどこうとするがなぜかサティさんは強く俺の手を握ったままだ。



「サティさん……?」

「まあ……そのちょっと複雑な気持ちですが、大切な人って言ってくれたんで許してあげます。それに、私はまだ成長期ですからね。これから育つでしょうし」



 そう言う彼女の顔は真っ赤で……とても可愛らしかった。魔物の成長期はわからないが、もう育たないんじゃないですかね? って思ったが、本能がそれを止めてくれた。

 そうして、俺達はそのままさっきとは違った意味で無言で歩く。



「ここが俺の家です。まあ、魔王城に比べれば小さいですが……」

「いえいえ、素敵だと思いますよ。ここでアルトさんが育ったんですね……」



 そう言ってゆびをさしたのはごく普通のレンガ造りの家である。別に金持ちでもなんでもない普通の家だからな。

 だけど、なぜかサティさんはまるで宝物でも見つけたかのように嬉しそうに見つめる。



「お前……アルトか……」



 そして、たまたま外に出てきた40歳くらいの男……俺の親父と目が合った。彼は俺をみてサティさんを見て、繋がれた手を見つめると驚いた顔をした。

 ああ、やっべえ、これ絶対いじられるやつじゃん。俺がそう覚悟をしていると、予想外の行動に出た。



「このクズ男がぁぁぁ。お前をそんな風に育てた覚えはないぞ!!」

「いきなりなにすんだよぉぉぉぉ!!」

「アルトさん!?」



 俺はいきなり拳を振り上げて殴り掛かってきた親父の拳をいなす。さすがに冒険者だからな、不意打ちでも喰らったりはしないんだが……まじでどうしたの?


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いよいよ、来週17日に書籍が発売されます。




読んでいて面白いなと思ったら、素敵なイラストもついているので購入してくださると嬉しいです。


続刊の有無は最初の売れ行きが大事らしいんですよね……


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