21.終焉

「それで……精霊がデスリッチをそそのかしてなにを考えているのでしょうか?」

「んー、そうですね……多分あなたに伝えたらこじれそうになると思うんですよね……どう思います? オベロン」

『そうだな……このこじらせ魔王の事だ。変に意識して、暴走する可能性がある。黙っておいた方がいいだろうな』



 サティの質問にエレインとデスリッチはこそこそと話し合う。そんな彼らをサティは睨みつけながら魔力をいつでも放てるように戦闘準備に入った。

 


「それにしても、デスリッチが精霊と手を組むとは……一体どんな交渉をしたんですか? その……聖女をNTRとか聞こえてきたんですが……つまり、聖女を騙してエッチな事をするっていう事ですよね……」



 エッチな事と自分で言っていて何を想像したのか、サティは顔を真っ赤にした。もちろん知識はあるが経験はない。父が風俗に通っていたという事もありそういうのにちょっとした嫌悪感もあったが、最近は……まあ、その……気になっている男性とそういう風になる可能性もあるのかななどと思っている事もあり、余計恥ずかしい。



『何を想像しているのだ、このむっつり魔王は……』

「うるさいですよ、デスリッチ!! そこの精霊よ、本来あなたがたは中立のはず、今は魔物も人間の戦力も偏ってはいないと言うのに、なぜ干渉をするのですか!! それに、聖女は人類の貴重な戦力です。彼女が危機に陥ればあなたがた精霊も都合が悪いのではないですか?」

『ああ……その事ですか……』



 サティの言葉にエレインはクスリと笑う。そして、そのままデスリッチを指さして問う。



『デスリッチ……あなたは聖女を捕えたらどんなことをするつもりですか? 彼女に説明してあげてください!!』

『え? なんで魔王にそんな事を……』

『いいから早く説明してください』



 困惑するデスリッチだったが、エレインに促されて彼は渋い顔をしていたが、彼は開きなおったのか、少し恥ずかしそうに口をモゴモゴさせながら言う。



『それはその……聖女を捕えたらちょっと胸を揉もうかと……もちろん、服の上からだぞ!! 直に触るなんて……そんな事をしたら幸福のあまり成仏をしてしまうからな』

「え? それだけですか? その……もっとエッチな事をするんじゃ……オークに女騎士がやられているみたいな……」

『そ、そんな事をするわけないだろうが、この変態魔王め!! 大体我のはアレはもうくさり落ちてるわ!!』

「うわぁ……」


 サティの言葉に今度はデスリッチが顔を真っ赤にして反論する。そういえば、デスリッチってもう全てが骨なんですよね……確かにそういう事はもうできないのだろうとサティはちょっと哀れに思う。

 そして、予想以上にヘタレだった。



『これでわかりましたか? オベロンは初恋を拗らせて童貞のまま死んだヘタレなのです。まあ、胸を少し触られるのは聖女に申し訳ないのですが、むしろ彼女は喜ぶと思うんですよね……』

「え、喜ぶ?」

『いえ、なんでもありませんよ。それに、これは人間と魔物の共存に必要な事なのです。手を引いてはいただけないでしょうか?』

「いや、結局私にはデスリッチとあなたが何をしたかったのかよくわからないのですが……それに、今回のデスリッチのせいでアルトさん達に迷惑がかかったのは事実です。何かしらの罰は受けていただけないと困るのですが……」



 正直サティからしたらデスリッチたちの目的はいまいちわからない。デスリッチがアンデッドたちをこの街の周囲に呼んだせいで、色々と騒がしくなったが死者はでなかった。

 アリシアの友人であるモナがさらわれたが、彼女も無事に助けられたし、事情を聞いて、それによっては少しのお仕置きでいいかなと思っている。

 騒動のわりに被害が少なすぎるのだ。正直精霊が出てきたのは予想外でしたが……彼女はエレインを見つめながら困惑をする。



『くっくっく』

「何がおかしいのですか、デスリッチ?」

『はっ、愚かなだな、魔王よ!! 貴様の目の前にいるのはかつて勇者に聖剣を渡した強力な精霊エレインだぞ、ウィンディーネなどとは比べ物にならないほど強力な存在なのだ。貴様など相手にならんわ。やーい、パッド♪ パッド♪ スライムパッド♪」

「なるほど……命はいらないようですね……」



 デスリッチの挑発でサティの周りに世界の深淵のごとく黒いオーラが生まれる。それは彼女の感情を表しているかの如く、かつてないほどの魔力を放っている。



『さあ、エレイン、やってしまえ!! 最強の精霊の力を見せるのだ』

『いやいや、無理ですよ……私サポート系ですし……そもそも魔王に勝てるくらいなら、先代勇者に聖剣なんて渡さないで、自分で退治したほうが早いじゃないですか』

『え?』



 エレインの言葉にデスリッチの顔から余裕に満ちた笑みが消え去り、代わりに焦りと恐怖に染まる。



『いやいや、待て待て。聖剣を生み出すくらい強力な精霊なんだろう、なんとかせぬか!!』

『だから、方向性が違うんですって……神龍もフ〇ーザは倒せないですけど、人を生き返らしたり、ギャルのパンツをあげたりできるじゃないですか、それと一緒ですよ』

『いや、誰だ? 神龍って!! フ〇ーザって!!』

「話し合いは終わりましたか? 遺言はそれでいいんですよね?」

『ひぃ!!』



 サティが笑顔を浮かべながらデスリッチとエレインの方へと歩き出す。彼女の身体はかつてないほどの禍々しいオーラを纏っている。

 今だけならばかつてのルシファーすらも上回るかもしれない。



『ふふ、この威力ならば申し分ないですね、彼女も気づくでしょう。ではデスリッチ……生きていたらまた会いましょう。アデュー♪』

『は? ちょっと待て貴様ぁぁぁぁぁ』


 

 そういうとエレインが一瞬輝いたと思うとその後には何も残っていなかった。残されたデスリッチは体をカタカタと震わせて、涙目でサティに命乞いをする。



『サティ様はとても巨乳で、素敵な魔王様ですぅぅぅぅぅぅぅ。命ばかりは……命ばかりはぁぁぁぁぁ!!』

「パッドパッドうるさいんですよぉぉぉ!! それにアリシアさんばっかりアルトさんと一緒に寝たりとか、バカップルごっことかずるいですぅぅぅぅ!! 私もちょっとくらいイチャイチャしたかったぁぁぁぁぁ!!」

『後半は我関係ないだろぉォォォォ』


 

 その一言共に凝縮された闇がデスリッチを襲い、轟音と共に洞窟を崩壊された。そうして、また街に平和が訪れたのだった。

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