20.世界の均衡

『くそがぁ……あのクソ勇者め少しは手加減をせんか……本気で浄化されるところだったわ……』



 全身ボロボロな状態のデスリッチは足を引きずりながらも、かつて魔王や勇者と戦った洞窟へと向かう。あそこまで行けば消耗した力を協力者に回復をしてもらえるのだ。

 必死に洞窟に向かっていると、背後でかさかさっと木々の揺れる音がした気がする。慌てて振り向くが何もいない。まあ、何かがいても問題はないだろう。あいつならばなんとかしてくれるはずだ。



『戻ったぞ、エレイン……早く我を癒すのだ』

『全く勝手な事をして、何を偉そうなことを言っているのですか……まあ、癒しますけど……』


 

 デスリッチが洞窟に向かって叫ぶと、女性の形をした水の精霊がひょっこりと現れた。そして、彼女が手をかざすと同時に、デスリッチをまばゆい輝きが包み込む。



『ふぅ……だいぶ楽になった……」

『別に回復したのはあんたのためじゃないんだからね!! 私の野望のためなんだから!! 勘違いしないでよね!!』

『いや、そんな無表情に言われても怖いんだが……』

『あれ? ツンデレってやつ今は流行ってるんじゃないですか? おかしいですねぇー……』

『ツンデレが流行ったのは少し昔だな……今はウザカワやメスガキ、全肯定系女子が流行っているぞ

『まったくあなた達人間の流行は移り変わりがはげしいですねぇー、まあ、いいでしょう。それで……本来の計画である。アルトの知人を使って、彼をおびき寄せ、魔王と勇者に助けさせて、『三人の仲を強固なものにしてハーレム計画♡』という筋書きを勝手に変えた理由を教えていただけますか? 私はそのために、あなたに力を与えたのですが……』



 それまで脱力した顔でデスリッチを見ていたエレインの目つきがスッと鋭くなる。何ともつかみどころのないエレインに対してデスリッチは不敵に笑う。



『決まっているだろう、あのままでは勇者が王都に連れて帰らされそうだったからな。それでは、勇者がアルトと結ばれる可能性はなくなってしまうだろう。それでは、アルトと魔王だけが結ばれて、勇者は嫉妬に狂うかもしれん。そうしたら、お前の目的である人間と魔物の共存が遠のくだろう?」

『そういうものでしょうか? 私はてっきり自分の子孫が不憫なのが耐えられなかったから計画を変えたのだと思ったのですが……違いますか、オベロン=アンダーテイカー』

『……何のことかな。魔王軍一の知将である私を舐めるな。ちゃんと約束通りアルトを使って、魔王と勇者の関係を改善してみせるさ』



 エレインの言葉にデスリッチは一瞬間を置いた後に答える。骨である彼の表情からは何も読み取る事は出来ない。

 けれどエレインには彼の気持ちはバレバレの様である。

 


「まあいいでしょう。私としてはこの世界の均衡が保たれれば、誰と誰が結ばれようがどうでもいいんですよね。戦争は世界を歪めますからね……ルシファーが道を作り、サティがそれを継いだおかげで、魔物達はかつてないほど人間達に友好的です。そして人間達も魔物からの被害が減っているため反発が少ないんです。チャンスは今しかないんですよ」

「ふん、貴様ら精霊はいつもそうだな……かつて、勇者に聖剣を渡した時も別に人間のためなんかではない。魔物が強くなりすぎて、均衡が崩れたからであろう?」

「もちろんです……、私達精霊にとっては世界の均衡こそが大切ですから……」



 エレインの言葉にデスリッチは吐き捨てるように言った。そんな彼にエレインは興味なさそうに返事をする。基本的に精霊たちはこんな感じなのである。ウィンディーネとそれに感化されたハコネィの精霊たちが異常なのだ。



「まあいい、それよりも貴様こそ我との約束を覚えているだろうな? 聖女の結界を砕く力を我に与えると……」

「ええ、もちろんです。あなたとの約束は守りますよ……あなたに聖女の結界を破る力を与えましょう」

「くっくっく、これで勇者や聖女に復讐ができる!! 我は甘かったのだ!! 領地を奪う? 違う、そんなものでは足りないなぁ!! NTRをされたのならNTRをし返せばいい!! 本人がいないならその子孫を我が物にすればいいのだ!! そうは思わないか? エレインよ」

「さぁ……私達としてはNTRという概念に興味がないので……それよりも……そこで隠れている方、そろそろ出てきたらどうですか? バレバレですよ。強力な魔物が二体……あれ? なんで胸部に魔物が? え、魔物をパッドにしているんですか? なんで!? なんかの儀式ですか?」

「流石は精霊ですね……ばれましたか……あとこれはパッドじゃないです。私の胸です」


 

 エレインの言葉に影にひそんでいた人影が姿を現す。漆黒のローブに一見豊かに見える胸の美少女である。

 その少女を見つけて、デスリッチが驚愕の声をあげる。



「な……魔王!! なぜ貴様がここに!!」

「あなたの気配見つけこらしめようとしたらとんだ大物がいたようですね……」



 そうして姿を現したのはサティだった。


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ついに、この作品の表紙が公開されました!!


「スキル『鑑定』に目覚めたので、いつも優しい巨乳な受付嬢を鑑定したら、戦闘力99999の魔王な上にパッドだった件について~気づかなかったことにしようとしてももう遅い……ですかね?

アマゾン」


で検索すると見れます。サティさん可愛いな!! 表紙だけじゃパッドってわからないぜww

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