18.VSデスリッチ

「なんでブラッディクロスがここに? 別行動をしているはずじゃ……」

「フッ、アルトにお願いされてな。ずっと二人を付けていたのだよ。今の私は影の英雄!! シャドークロスと呼んでもらおうか!!」


 

 混乱しているアリシアの言葉にそう答えるとモナを抱えながらも器用にブラッディクロスさんはローブを脱ぎ去ってキメ台詞を言った。アリシアには悪いが嘘をつくのがあまりうまくないので、彼女には黙っていたのだ。

 てか、やっぱりクロスはかわらないんだな……と思いつつ俺はモナの状況を確認する。


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名前:モナ=アンダーテイカー

職業:魔法使い

戦闘能力:999

スキル:精霊魔術・連続魔・高速詠唱・魔物殺し・etc

健康度:良好。特に洗脳や状態異常もかけられていない上に、デスリッチのお手製の高級スイーツを食べさせてもらっているため、体の健康面はかなりいい。ほっぺもぷにぷに。

備考:王都にて勇者の仲間の魔法使いとして育てられた才女。英雄オベロンの血筋のものであり、その血を誇りを持っており、子供の頃はジョン=カルディックとよく勇者ごっこをしていた。

 幼馴染のジョンに助けられてちょっとドキドキしている。それに、アリシアは私の事を真剣に心配してくれているの? 勇者としては失格かもしれないけど嬉しい……でも、喧嘩したばかりだし、勇者パーティーの一員として何と答えればいいの? と混乱している。

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 ちょっとぉぉぉ、ブラッディさんとなんかフラグ立ってない? 幼馴染との恋愛とかデスリッチが聞いたらちょっと喜びそうである。

 というかデスリッチのことだからなんか洗脳とかしてそうだと思ったが、むしろ丁重も扱っているようだ。あの縄もきっちりしばっているが、痕は残りにくいようにしているようだし……

 まあ、何はともあれデスリッチは倒すんだけどな。



『ふん、そのロリっ子を助けたところでどうなる? 人質がいないとはいえ、エレインとの契約により全盛期の力を得た私相手にクソ勇者と、鑑定しか能の無い二股男、それに……なんか見覚えのある顔だな……そこの厨二っぽいやつよ、さっき何とかクロスと言っていたな……貴様、まさかカルデック家の血の者か!!』

「フッ、我が真の名を知っているとはな!! そう、私こそが勇者の血を引くものなり!! 故にそこのスケルトンよ、私が相手をしよう」

『貴様……やはりあの男の血を引くものか!! やるではないか、アルトよ……我に因縁の相手をぶつけるとはな!! 我を精神的に動揺させるつもりか!!』

「「え? そうなの?」」 

『貴様ら知らなかったんかい!!』



 俺とアリシアの言葉が重なった。待って、ブラッディクロスさんって勇者の血を引いてんの? そんなにすごい人だったのかよぉぉぉぉ。

 デスリッチがこちらに向けて、つっこみを入れるがこんな田舎町に勇者がいるなんて思うはずがないだろ!! いや、魔王も四天王もいるし、普通にあり得るな……

 だけど、デスリッチの意識はあきらかにブラッディクロスさんに向かった。これはチャンスだ。あいつだって、逆恨みの相手の子孫がいるのだ。冷静ではいられないだろう。



「ブラッディクロスさん、モナを守りつつ戦えるか? アリシア、俺が合図をしたら攻めるぞ!!」

「まあいいや、よくわからないけど、デスリッチを倒せばいいんでしょ。私はね……怒っているんだよ。大切な親友であるモナを危険な目をあわせたんだ。ただで帰れると思わないでよね」

「フッ、モナは任せろ、カルディック家の名にかえても守り抜こう!!」



 俺は二人に指示をしながら、デスリッチに対して笑みを浮かべながら先ほど本屋で買った本を掲げる。



『ふん、勇者の血を引いていようが雑魚は雑魚だろうが!! アルトよ、何だその笑みは? 貴様何を考えている?』

「俺の新必殺技、ブラックヒストリーを喰らえ!! 『幼馴染であるカレンは可憐な少女だった。カレンだけに……そして、勇者パーティーの一人であり、私の恋人でもある……』」

「急にどうしたの、アルト兄!?」

「フッ? なんだ、それは……英雄譚か?」



 いきなり先ほど本屋で買ったばかりの本を読み始めた俺に、アリシアとブラッディクロスさんが怪訝な顔をする。

 しかし、ただ一人デスリッチだけは何やら震えている。計画通りだ。



「なぜだ? なぜ貴様がその本を持っている……? 我がアンデッドになってから怒りのままに書いたソレを……」

「フハハハハ、お前は恋愛の才能は無かったがNTR本を書く才能はあったようだな!! この『勇者に幼馴染の聖女を寝取られパーティーから追放された俺は、リッチになって魔王軍に入って復讐をする』はそのNTRされた時の心理描写のリアリティが評価されてベストセラーなっているんだよ。もうすこし読んでやろうか? 『カレンの……』」

『やめろぉぉぉぉぉ!! 誤解だったとわかった今ではより恥ずかしいのだ。朗読するんじゃない!!』



 俺の必殺技によって、デスリッチが悲鳴を上げる。ちゃんと本屋で鑑定しておいた甲斐があったぜ。モナが最近はまっていると言っていた時にやたらと、題名がデスリッチの事っぽいと思ったんだよな。そうしたら案の定原作者はデスリッチだったのだ。

 ちなみに最終的には勇者から聖女を奪い返している……夢くらいならデスリッチにも見る権利あるよな……



『なんという屈辱だ……くっ、殺せ!!』

「うん、殺してあげるね、全てを飲み込め、エクスカリバー!!」

『え? ちょっと待って、今の殺せはお約束的な……我はまたこんな扱いぃぃぃぃぃ!!』



 羞恥によって魔術どころではなくなったデスリッチをアリシアの聖剣の輝きが襲った。そして、そのままデスリッチは吹き飛ばされて倉庫の窓を打ち破ってどこかへと飛んでいった。



「フッ? こんな勝ち方でいいのだろうか?」

「勝てばいいんだよ、勝てば。それよりも……本当の問題はこっちだ……」



 釈然としない顔をしているブラッディクロスさんに声をかけながら、俺は、モナの拘束を解いているアリシアの方を見る。

 そう……本当の戦いはこれからなのだから。

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