17.マッシュ

「おい、何を……ってお前の鑑定スキルはずる過ぎないか? アルトはいつも会った人間全員に使っているのか?」

「まさか……さすがに不審者相手ならともかく、必要な時以外は友人を鑑定何てしないさ。たださ、お前がなんでモナが勇者パーティーの一員だって知ってるんだ?」

「あー……そこかよ……デスリッチ様から半端に知識を得たからか。やらかしちまったな……それとも脳みそも腐ってるからかな。はっはっは」



 俺の言葉にマッシュがおどけた様子で頭を叩きながら言った。そう、俺が違和感を覚えたのはマッシュの『そうだな、三体くらいだな。不意打ちだったからな。例え勇者パーティーの魔術師とはいえどうしようもなかったんだろう』という言葉だ。

 俺達はアリシアを勇者とは言っていないし、モナは彼女の親友としか言っていない。それなのに彼はモナを勇者パーティーの一員と言っていた。そして、ここで偶然会うなんてタイミングが良すぎた。怪しんでスキルを使ってみればこの結果だったのだ。


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名前:マッシュ=ノワール

職業:アンデッド 元冒険者

戦闘能力:53

スキル:火魔術・水魔術・肉体美EX

マッチョ度:999

備考:孤児でありスラム街で野盗をしていたが、ブラッディクロスに倒され、彼の強さと説得により、その力を活かすために冒険者として生きることにした。魔術は使えるが実は杖で魔物を叩いて殺した数の方が多い。

 パーティーメンバーのイリーナに一目惚れをしており、彼女が知的な男が好きだというので魔術師になった。なんだかんだいい感じになりつつあって、今度の冒険が終わったら告白をする予定だった。

 しかし、その想いが彼女に届くことはもう二度とないだろう。

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「なんで……デスリッチのいう事なんかを……まさか仲間を生き返らしてもらう対価か? でも、復活って言ってもアンデッドだぞ!!」

「墓をさ作ってやりたかったんだよ……他の連中は死体の損傷が激しくてさ、アンデッドとしての復活も難しかったし、そんな風に生き返ってもあいつらは喜ばないだろう。でも、街のためにがんばったあいつがさ、ダンジョンの中で魔物に喰われるのは耐えられなかったんだ……せめて墓くらいはつくってやりたかったんだ……」



 そうやってどこか遠くを見て呟くマッシュに俺は何も返せなかった。俺だって、冒険者だ。他人の生き死にには慣れている。だけど、ソロの俺と固定パーティーを組んでいたこいつとでは仲間に対する気持ちは全然違うだろう。そんな俺がどんな言葉をかけられるって言うんだよ。



「俺の事はどうでもいいだろ、それよりさ、お前は自分の大事な幼馴染の様子を見てやれよ。俺の仲間とは違って生きてるんだからさ」


 

 マッシュはどこか優しい目で俺を見つめながらアリシアの方を指さした。彼女はデスリッチと対峙してにらみ合っているままだ。



『どうしたのだ、へっぽこ勇者よ、その聖剣は飾りかな? それとも、貴様としては、このロリ娘がいなくなったほうが都合がいいから手を抜いているのか? 王都に連れていかれる事はなくなるからな』

「んー!! んー!!」



 聖剣を持ったまま対峙しているアリシアをデスリッチが煽る。そして、その言葉に抵抗するようにモナが何かを言っているがさるぐつわのせいで何を言っているかわからない。



「そんなわけないでしょ!! デスリッチの目的は私だよね……? 私はどうなってもいいからさ。モナとアルト兄は助けてくれないかな?」

『正気か? 勇者パーティーの魔術師の代わりはいるが、勇者の代わりはいないのだぞ? お前が死ねば好戦派の魔物達も黙ってはいないと思うぞ。お前は世界よりもこの小娘と二股男を取るというのか?』

「当たり前でしょ、私にとっての世界は私の周りだけだよ。そして、私はモナやアルト兄の方が顔もしらないひとたちよりも大事なんだ。ふふふ、勇者失格だね……だけど、私は悔いはしないよ」



 そう言うとアリシアは聖剣を放り投げて、降参とばかりに両手を挙げた。その様子にモナが「んーんー」と何かを必死に訴えている。彼女の事だ。自分は放っておいて撃ってくれとでも言っているのだろう。

 そんなモナを見つめながらアリシアは穏やかな表情で言った。



「モナが言いたいことはわかるよ。でも、私にとっては世界より、モナの方が大事なんだ。だから……デスリッチ……私の事は好きにしていいよ。モナがもっているエッチな本でこの後の展開はわかっている!! アルト兄の目の前でエッチな事をしてNTRをするつもりなんだろ!! モナの持っているエッチな本みたいに、モナの持っているエッチな本みたいにぃぃぃぃ!!」

『いやいや、我は別にエッチな事に興味はないんだが? こいつ頭おかしいのか? 大体クソ勇者のような乳臭い女に興味はないわ。我の好みは……うう……カレン……好きだったのに……なんであいつを選んだのだ……』



 アリシアの言葉をデスリッチが慌てて否定する。途中までくっそかっこよかったのに、モナに見せられたエッチな本のせいでクソみたいなふんいきになってじゃねえかよぉぉぉ。

 てか、アリシアもモナに毒されてんのかよぉぉぉぉ……デスリッチが引いている上に変なトラウマを発症させているんだけど!!



『おい、アルト……貴様の幼馴染と言いこのエロリっ子といい、勇者パーティーはどうなっているのだ? 変態の巣窟か?』

「俺に話をふるなよ……俺は勇者パーティーじゃないんだが……あとさ、そんな風によそ見をしていていいのかな?」

『なに?』



 そう言って俺がモナを指さすと彼女は縛られ、さるぐつわをつけたままういていた。あ、パンツ見えた。今日はうさぎさんか……



『いったいどうして……』

「フッ、この英雄ブラッディクロスがいる以上、NTR本のような展開にはならんさ!! ここから先は私たちの英雄譚である!!」

『姿隠しのローブか!!』



 透明なままきめぜりふをいっているであろうブラッディクロスさんの存在にデスリッチが驚愕の声をあげる。

 そう実はブラッディクロスさんは姿隠しのローブをつけたままずっと俺達と一緒にいたのである。



「フッ、アリシアよ、今がチャンスだぞ!!」

「これを受け取れ!! デスリッチ何かにまけるかよ!!」



 俺はさっと駆け出して、聖剣を拾ってアリシアにぶん投げた。

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