13.修羅場の後で

「フッ、なるほど……そんな事が……モナは浮気やNTRには人一番厳しいからな……確かに彼女にアルトの二股野郎のような現状を理解しろというのは難しいだろう」



 俺がブラッディクロスさんに事情を説明すると彼は神妙そうにうなづいた。さすが幼馴染だからかモナの性格をよく知っているからか、あっさりと納得をしてくれた。

 今俺はブラッディクロスさんとアリシアと一緒にテーブルを囲んで、今回の件を話していた。ちなみにマッシュは面倒に巻き込まれたくないのか、どこかにいきやがった。薄情な奴だぜ。



「フッ、それでアリシアよ、君はどうするのだ? まさかモナをこのまま放置するわけではあるまい」

「それはもちろんだけど……でも、何て言えばいいのかわからないんだよ……」

「アリシア……」



 ブラッディクロスさんに問われ気弱そうにうつむく彼女に何と言ってやればいいのだろう。そう、モナの気持ちは確かに本物で、本心からアリシアを心配していたのだ。そして、アリシアも本気でモナとの再会は喜んでいたのだ……ただ、王都に帰りたくないからこそあんな嘘をついてこんな状況になってしまったのだ。

 でも、ただ、本当に王都に帰りたくないならそれこそ、ひたすら逃げることだってできたはずなのだ。なのに彼女は嘘をついてまで、モナを安心させようとしていた。彼女は彼女なりにモナの事を思っての行動だったのだ。

 だから……このままじゃ絶対いけないと思う。



「なあ、アリシア……お前はモナと仲直りをしたいんだよな?」

「そりゃあ、そうだよ、でも、私にそんな権利はないよ。モナが真剣に私を心配してくれているっていうのに騙したんだもん」

「だけど……それはモナを安心させるためだろ? このままでアリシアは本当にいいのか?」

「それは……よくないよ。でも……どうすればいいかわからないんだよ……」



 俺の言葉にアリシアが小さな声だが、確かに否定をした。昔もらった彼女の手紙にも名前こそなかったが、大切な友人ができたという事は書かれていた。モナはアリシアにとって、王都にいた時の心の支えだったのだろう。

 だったら……何とかしなきゃな。



「アリシア……だったら一緒に俺も謝るよ。お前と一緒にあの子を騙したわけだしな……二人して謝って、色々事情を説明しよう。それで二人で怒られようぜ」

「でも……アルト兄は私が無理に頼んだのに……それに……モナが許してくれるかな?」

「大丈夫だって。俺とサティさんとアリシアもさ……一回色々もめて戦って本音をぶつけあったじゃん。それで、今は一緒に仲良くやっているし、サティさんとも仲良くできてるんだ。大丈夫だよ」

「アルト兄……そうだね、私がんばるよ!! ありがとう!! 私……誤魔化さないで本当の事を話してみる!!」



 俺の言葉に安心したように顔を上げて、手を握ってきた。きっと不安だったのだろう。俺が手を握り変えると彼女は満面の笑みを浮かべた。



「フッ、話はまとまったようだな。それでは、私も力を貸そう。なーにモナの事だ。美味しいお菓子でも与えながら会話をすれば納得してくれるさ。それに、なんだかんだあいつはNTRものが好きだからな」

「え? でも、モナは絶対NTRは許さないっているよ」



 アリシアのもっともな言葉にブラッディクロスは「フッ」と笑う。



「フッ、自分の性癖に素直になれていないだけだ。そもそも本当に嫌いだったら王都中のNTR本なんか読まないだろう? 今はあいつも冷静ではないから少し頭を冷やしたら落ち着くだろうさ」

「流石ブラッディクロスさん!! このお礼は絶対するぜ!!」



 モナの幼馴染であるブラッディクロスさんの言葉は不思議な説得力があった。てか王都中のNTR本読んでんのかよ。マジでむっつりエロリっ子じゃねえかよ……



「フッ、別に構わんさ……お前らは本気でモナの事を考えてくれているようだしな。それよりも確認したいことがあるのだがいいだろうか?」

「ああ、なんだ?」



 俺が耳をちかづけると彼はぼそっと言った。



「つまり、アルトとサティさんは本当は付き合っていないという事だな? あくまで男除けのために彼氏を名乗っているだけなのだな? つまりサティさんはフリーなのだな?」

「え? ああ、まあ、そうだけど……」

「フッ、私の時代はまだ終わっていない!! サティさーーん!! アルトから話は聞きましたよ。もしもよろしければ不肖ブラッディクロスが代わりの役目をさせていただきますよ」



 そう言うと止める間もなく、ムチャクチャ嬉しそうに彼はサティさんの方へと向かっていった。いや、そういうのがめんどくさいから、俺が彼氏を役をやっているんだが……

 とはいえ、胸の中にモヤモヤしたものを感じながらも追いつくと案の定いつもの光景が広がっていた。



「ごめんなさい、仕事の方とはプライベートではお会いしないようにしているんです」

「なんでだぁぁぁぁぁぁぁ!! 私とアルトの何が違うと言うのだぁぁぁぁぁぁ」

「全然違います!! アルトさんってすごい頼りになるんですよ。優しいですし……それに、ブラッディクロスさん会話の最中にしょっちゅう胸を見てくるじゃないですか……やめた方が良いですよ。そういうの……」

「ばれてたぁぁぁ!? いや、だが、先祖代々伝わる秘伝の光魔法で視線を反射されているのに気づいていただと……本当にただの受付嬢なんですか? サティさん!?」

「うふふ、乙女には色々と秘密があるんですよ」



 ブラッディクロスさんそんな事をやっていたのか……勇者の血筋らしいし、ノゾキは勇者の一族の性癖なのかもしれないな……まあ、魔王であるサティさんにはそんな小細工は通じないのだろう。

 そんな事を思っていると、サティさんと目が合うとちょっと不満そうな顔をして、こちらにやってきて耳元で囁いた。



「アルトさんは私と恋人だって思われるのが嫌なんですか? ブラッディクロスさんにあっさり教えちゃって……」

「え? いや……それはですね。アリシアの事情を話すためでして……」



 俺が動揺していると彼女は不機嫌そうな顔を一変させて微笑を浮かべる。



「うふふ、冗談ですよ。アルトさん達の事情はちゃんとわかってますから。でも、約束のアルトさんの故郷を案内するのは忘れないでくださいね。私楽しみにしてますから」

「え……はい、もちろんです。でも、ほんとうに何にもないですよ」

「フラれたばかりの私の前でいちゃつくのはやめてほしんだけどなぁぁぁぁぁ!! やっぱり二人つきあっているだろぉぉぉぉ!!」



 俺達のやり取りを聞いたブラッディクロスさんが絶叫をする。そんなこんなで空気が少し和やかになった瞬間だった。窓ガラスを破って矢が飛んできた。

 それを咄嗟にアリシアが掴む。さすが勇者だ。身体能力がおかしいな……



「なんだろ、手紙がついてるよ。読んでみるね」



 そうして、彼女が矢に着いた手紙をよむと顔が真っ青になった。



「アルト兄……どうしよう、モナがさらわれたって……」

「はぁぁぁぁぁぁ」



 一体なにがおきてるんだよぉぉぉ。

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