11.ギルドにて

性格に難があるとはいえ、なんだかんだ二人の美少女とベッド一緒にしたため、心が休まらなかったのこともあり、早朝にギルドに行く。

 サティさんの笑顔で癒されそうと思い彼女の元へ行くと、なぜかジトーっとした目で見られた。



「おはようございます、アルトさん、ずいぶんと眠そうですが……昨晩はお楽しみのようでしたね」

「え、何がですか?」

「アルトさんから、アリシアさんの匂いがしてますよ、いったい何をしていたんだか……」



 いつもの笑顔とは違い、無茶苦茶冷たい声色なんですけど……しかも、唇を尖らせてにらみつけてくる。いやいや、事情は知ってるはずじゃ……



「いや、だからこれは演技の一環で……」

「わかってます、わかってますよぉぉぉ。でも、モヤモヤするものはモヤモヤするんですーちょっとくらい意地悪させてくださいよぉぉぉ!!」



 そう言って、涙目になりながら拗ねているサティさんは無茶苦茶可愛い。しばらく、彼女の愚痴を聞きながら、今度絶対美味しいものでもおごろうと思っていると彼女が、急に真面目な顔になって、俺にだけ聞こるくらいの声で囁く。



「そうだ……話したいことは別にあるんですよ。ここらへんで最近アンデッドがやたら出没をしているのは知っていますよね」

「ああ。たしかブラッディクロスさんとか何人かの冒険者がうけていましたね」

「実はあれはデスリッチのしわざかもしれません」

「は?」



 俺は思わず聞き返す。最近この付近で頻繁におきているアンデッド退治の依頼を思い出していると、意外な人物の名前が出てきた。



「え、でも、あいつは……あれ、ハコネィでどうなったんだ? いつの間にか消えてましたよね」

「ええ、私のお仕置きが怖くて逃げただけならいいんですが……ハコネィの温泉は彼にとっても縁のある場所なんですよ。先代の勇者パーティーが聖剣を手に入れた場所ですから……精霊の女王と彼は知り合いなんです。もしかしたら、精霊の女王を騙して力を取り戻そうとしているのかもしれません。それに、アンデッド達を放って、情報収集をするのは彼の得意な手口です。怪しいアンデッドがいたら鑑定をしてもらえると助かります」

「わかりました。サティさんはどうするんですか?」

「私はちょっとデスリッチが潜伏してそうな場所を片っ端から探します。今はモナさんが来ているので、魔物に対する印象を悪くするわけにはいきませんからね……」

「おいおいおい、そんな風にサティさんと仲良く話しているとあのちっこい子供に怪しまれちゃうぜ」



 俺とサティさんが話していると割り込んできたのはマッシュだ。彼は大きい体を揺らしながら、からかうように言った。彼の言葉に、吐息を感じれるほど近づきすぎていた俺達は顔を赤くして、ばっと離れる。でも、まあ、この光景をモナに見られたらまた「NTRよ」とか言いそうだよな。

 そして、俺はサティさんにお辞儀をして離れる。



「それでさ、実際の所サティさんとアリシアのどっちが本命なんだ? まあ、俺としては二人共ってのもありだと思うけどよ」

「いやー、実際それはどうなんだろうなぁ……」



 エルダースライムのようにハーレムを推奨してくるマッシュに俺は曖昧な返事をする。てか、サティさんが近くにいるんだよ。そんなことを言うんじゃねえ!!

 というかこいつが近くに来てからやたらと臭うな……香水にしてもつけすぎじゃない?



「なあ、マッシュ、なんでそんな風に香水をつけているんだ?」

「ああ、パーティーメンバーの好きな匂いだったんだよ」

「ああ、お前のとこのオカマの剣士そういうのすきだったもんな。というかお前が組んでるパーティーのメンバーはどうしたんだ? いつもはそいつらと一緒にいるじゃん」

「ああ、そうか、アルトはちょうどハコネィに行ってたんだっけな……ダンジョンに潜った時にな……俺以外を残してみんな死んだよ……」

「ああ、そうか、悪かったな……」

「気にするなよ、よくあることだろ」



 そう言う彼に俺は何と声をかけていいかわからなくなる。俺達冒険者はいつでも命懸けだ。だから、こういう風に知っている顔が死んだり、昨日まで一緒に酒を飲んでいた奴が姿をみせなくなることだって珍しい事じゃない。

 でも……だからといって慣れたりはしないんだよな……



「ああ……でもまあ、幸いにも俺は戻れたからな……おかげで、あいつらの墓をつくってやれたから満足だよ」

「そうか……ならよかったよ……」



 どこかさわやかな笑みを浮かべるマッシュに俺は笑顔で返す。冒険者が全滅する場合は墓を建てる余裕もないからな。おそらく、後衛であるマッシュだけでもみんなが生き残らせてくれたのだろう。そして、彼はパーティーにせめてものお礼とばかりにお墓を作った。この後彼がどうするかは彼次第である。まあ、ここにいるっていうことはまだ冒険者を続けるんだろうが……

 これから鍛錬したいし、彼とパーティーを組むのもありかもしれないな……



「あー、ダーリンひどいよ、なんで朝起きたらいないのさ!!」

「浮気……と思ったらマッチョと密会だったのね……は? まさか、アルトはそっちもいける口なの? BLNTR……新しい……」

「新しくねえし、頭おかしいだろ。なんでもNTRにすんなよ!! 朝一の方がいい依頼があるんだよ」



 騒がしくやってきたアリシアとモナに俺は適当に答える。いや、本当になんだよBLNTRって……



「また、私以外の冒険者とクエストを受けるつもりなの!! ひどいよ」

「だって、お前と組むと魔物とか盗賊とか瞬殺しちゃうじゃん……俺が強くなれないんだよ……」

「えー、だって、ダーリンに何かあったら耐えられないもん」



 そう言いながらアリシアは俺の腕を組む。周囲にひとがいるのにやはりダーリンって呼ばれるのは恥ずかしんだが……でも、おっぱいが当たっているとつい許してしまう自分がにくい。にへらとしているとすさまじい殺気を感じ、視線の先にはサティさんが一切目が笑っていないのに笑顔を浮かべてこちらを見つめていた。

 まじでこわいんですけどぉぉぉぉぉぉぉ



「フッ、サティさん、ただいま帰りましたよ!! 依頼通りアンデッド共はかたづ(片付)けておきました。そして……アンデッドが不可解な事を……うん、モナじゃないか。なんでこんなところに?」

「久しぶりね……ジョン……じゃなかった。ブラッディクロス。たまには王都に帰ってきなさいよ。ホーリークロスが寂しがっていたわよ」

「うむ……叔父上がか……確かに最近帰っていないな……考えておくとしよう。それよりもだ……」



 ブラッディクロスさんはモナとの会話を適当に切り上げてこちらへと向き直る。なんか嫌な予感がするんだが……俺は慌てて彼の口をふさごうとしたが遅かった。



「アルト……恋人であるサティさんがいるのにあんまりくっつくのはどうかと思うぞ。それだとあのアンデットが言ったことが本当みたいではないか」

「え? ちょっと待ちなさい。アルトとサティさんが付き合っているってどういう事かしら?」



 ブラッディクロスさんに口止めする前に帰ってきちゃったぁぁぁ!!

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