幕間:暗躍するアンデッド
「フッ、今日も我が剣は血に飢えている!! 喰らうがいいブラッディスラッシュ!!」
右の剣に聖魔術を、左の剣に闇魔術を込めた一撃が十字架の形になってアンデットを浄化する。正直闇魔術を使う必要はないのだが、あえて使っているのにはわけがある。
そう、カッコいいからだ。漆黒の闇とまばゆい光の対比が何とも美しいし、闇の力と光の力を使えるって言うのは何か少年心をくすぐるのだ。この美しい我が剣技を見ればサティさんもきっと惚れてくれるだろうに……
幼馴染のモナいわく「あんた勇者の血を引いているんだから光に特化しなさいよ。それになんか光が闇にNTRされているみたいだから止めなさい」と口うるさく言われていたが、あいつにはこのかっこよさがわからないのだろう。
「大丈夫ですか? 冒険者さん!! 私を庇って傷を……」
「フッ、気にするな。私の名前はブラッディクロス、このローグタウンの平和を守る正義の冒険者だ。この程度傷にも入らんよ。ヒール」
私の言葉と共に彼女を庇った際にできた傷を癒す。別に大きなダメージではないので放っておいても構わないのだがな。彼女が私の傷を見るたびに申しわけなさそうな顔をするので癒すことにしたのだ。
「フッ、しかし、街は外れの倉庫とはいえいきなりアンデットが現れるとはな……もしや、魔王軍の尖兵か?」
「はい……何をするでもなく、ここら辺にたむろってうろうろとしているんです……幸いこうして近づかなければ攻撃もしてこないのですが……」
そう言って不安そうな顔をしているのは今回の依頼者である。彼女はこの街の商人なのだが、街はずれの倉庫にアンデットが現れて困っているとの事で、冒険者ギルドに依頼をしたのだ。
大事な積み荷があるので心配でついてきたのである。
「フッ、心配するな、また、アンデットが現れた時はこのブラッディクロスに依頼をするといい。私の命にかけても君を守ろう」
「ブラッディクロスさん……」
私の言葉に依頼人の少女が目を潤ませている。どうやら決まったようだ。助けた場合のカッコいいセリフを666通り考えていた甲斐があったというものである。あと、この余裕がある感じの「フッ」という笑いも有効だったのだろう。これならサティさんだって……
そんな事を思っていた時だった。柔らかい感触に襲われる……
「あひぃ」
「本当にかっこよかったです。その……疲れたでしょう? 良かったら私の家で休んでいきませんか?」
「くぁwせdrftgyふじこlp」
どうやら、決まりすぎたようで、感動した依頼者の女の子が抱き着いてきたようだ。まずいまずいまずい、想定外である。思わず変な声を上げてしまった。なんで女の子ってこんなにやわらかくていい匂いがすのだ?
というかこんな時はなんて言えばよいのだ? 実の所女性にこんな風に抱き着かれたパターンは模擬戦をしていなかった。どうすればいいんだぁぁぁぁぁぁぁぁ。
「……をしようとしている……」
「え?」
「フッ、私から離れたまえ」
先ほど倒したアンデットが何やら喋っている。私は抱き着いてきた彼女とアンデットからかばうように再び剣を構える。
浄化しきれなかったという事か……彼女を避難させて、私はいつでもとどめをさせるように剣を握りしめながら耳を近づけた。
「アルトが……浮気をしようとしている……アリシアにNTRされる……サティが悲しむ……冒険者ギルドに急いで戻れ……」
その言葉を私に伝えたと同時に、アンデットは完全に浄化されたようで塵となって消えていった。なぜ、このアンデットが、アルトや、サティさんの名前を知っているかはわからない。もしかしたらくだらない幻術のたぐいかもしれない。
それでも……もしも、サティさんが悲しむ可能性があるのなら……私は……
「フッ、すまない。私は行かねばならないところができたようだ」
「ブラッディクロス様……」
そう言って私は彼女に別れを告げ夜道へを駆けだした。私は嫌な予感を感じていた。四天王のアグニの襲撃、勇者アリシアの帰還、そしてこのアンデット達の出現、この街に何かがおきているのは間違いないだろう。
もしかしたら、このアンデットは四天王一の知将であるデスリッチの手の者かもしれない。だったらなにか目的があるはずだ。まさか、魔王も来たりなんてな。
「フッ、我が名はブラッディクロス。愛に生きる男なり!! 仮にサティさんが私に振り向いてくれずとも、彼女に危機が迫るならば必ず守る!!」
私の声が闇夜に響く。フッ、決まったな!! 私は笑いながら街へと帰還するのだった。
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