10.バカップルの部屋

「おかえりなさい、ダーリン」

「た、ただいま、ハニー」



 その言葉と共に俺は意を決して魔界へと入る事を決意する。だって後ろにはドン引きながらもこちらを見ているモナもいるし……嘘がばれたら俺のアルトが焼かれてしまう。

 しかし、中に入るとそこは色々とヤバかった。マジヤバいって……語彙力がなくなるほどヤバかったのだ。

 当たり前の様におかれているペアのマグカップに、どこで売っているんだというピンクの壁紙、生活感を出すかのようにベッドの上におかれている手編みっぽいセーター。そして、机には『アルト兄との初旅行記念』と書かれて大事に保管されている福引券の当たり券があった。なにこの存在しない記憶ぅぅぅぅぅ!!

 いや、確かに旅行は行ったが、サティさんもいたよな? むしろチケットはサティさんとアリシアで使って俺は一人部屋の予定だったんだよ。最初は!!



「ダーリン、ほら部屋着に着替えて。今日はきてくれてありがとうね。モナ」

「あー、悪い。ベッドに座ってくれ……床よりはましだからさ……」

「え……でも、そのベッド二人の愛の巣でしょう? ちょっと抵抗が……」



 そう言ってモナが指さしたところには大きな文字で『YES♡』と書かれた枕があったぁぁぁぁぁ!! なんだよ、これぇぇぇぇ。嫌な予感がした俺は枕をひっくり返るとやはり『はい♡』と書いてあった。イエスノー枕じゃねーわ。YESはい枕だわ。拒否権のない無限ループだわ。

 確かに愛の巣だと思われますね。俺童貞ですけど!!



「……その……毎日お盛んね……」



 俺が枕をひっくり返す光景を見てモナが顔を真っ赤にしながらつぶやいた。お盛んとかいうなよ、エロリっ子め。しかも、視線があったら逸らされてたんだが!? いや、違うんだ……とも言えず、俺は何ともいえない気持ちでアリシアをみると彼女はにっこにっこで俺を見つめている。



「はい、ダーリンは洗面台で着替えてね。モナは私のパジャマを貸してあがるからね」

「え……ええ、ありがとう」



 ちょっと引いたモナを横に俺は洗面台でもらったねまきに着替えようとすると書いてある文字に気づく。ピンクの手編みのセーターで半分のハート模様が刺繍されてるぅぅぅ。しかも、こっちはアリシア&アルトって書いてあんだけど!! まじでいつ作ったんだよォォォォ…… 俺は恐怖を感じながら彼女の手縫いのセーターに身を包むのだった。





 部屋のやばさはすごかったがそれ以降はわりかし平和に進んだ。アリシアお手製のクッキーを食べながら、王都での二人の話を聞いたり、勇者パーティーの冒険の話を聞いたりだ。聖女の子はどうやらまともっぽいけど、無茶苦茶苦労してそうだなっていう感想が頭をよぎったのは内緒だ。

 それにしても、お香だろうか、何か変わった匂いがする。不思議となんかいい気分になるな……



「それでね、モナのほっぺたってすごいぷにぷになんだよ」

「ちょっと、気にしてるんだから言わないでよね」



 少し酒をいれたからか、アリシアがそんな事を言いながらモナのほっぺたをぷにぷにし始めると、クッキーを食べていた(こいつがほとんど食った)モナが迷惑そうにアリシアの手をはたこうとする。

 しかし、さすが勇者というべきか、さっとモナの手を躱しぷにぷにのほっぺを触る。



「くっ、殺しなさい……」

「えへへ、幸せ――」



 抵抗は無駄だと分かったのか、なんかエッチな本に出てくる女騎士みたいな事を言っているモナをよそにアリシアは、にへらと気の抜けた顔をする。そんなに気持ちいいのか……



「ちょっと、アルト、あんたのハニーでしょ。なんとかしてよって……何その手は!? やめなさい!! 私のほっぺたがぁぁぁ」

「ちょっとだけだから……すまん」



 アリシアの顔があまりに幸せそうだからか、どんなものかと、俺もついつい彼女のほっぺたをぷにっとしてしまう。



「うおおおおおおおお、なんだこれ、なんだこれ」



 肌に吸い付くようなもちっとした弾力に、俺の指に反発するかのような感触が何とも気持ちいい。やべえってこれ、やべえってこれぇぇぇぇ!!



「でしょー、モナのほっぺたはすごいんだよ!! ホーリークロスと一緒に私もモナが寝ている時にぷにぷにしてるんだ。でも……私のだって気持ちいいんだよ」

「ちょっとアリシアにアルトやめなさい。レディに何て言う事を……っていうか、勝手にぷにぷにしてたの!?」



 そんな事を言いながらアリシアが頬を突き出してきたのでついぷにっとする。確かに気持ちいいんだけど……



「うーん、普通だな……」

「ひどい、私の身体を弄んでおいて!! どーせ、モナのほっぺには勝てないもん。アルト兄のばかぁ!!」

「くぅ、私のほっぺたが気持ちよすぎるせいでNTRぷにぷにをしてしまう事になるなんて……」

「いや、普通に気持ちいいって意味でだな……」



 そんな風に騒いでいる、隣の部屋からどんどんと叩く音が聞こえた。



「お前らこんな夜にうるせえぞ!! リア獣共が!! 羨ましいんだよ、死ね!!」

「「あ、はい……すいませんでしたーーー!!」」



 どうやら騒ぎすぎたらしい……俺達はあわてて声を抑える。てか、みんなやたらとテンションが高かった気がするんだが……ちょっと気になった俺はアリシアが焚いているお香を鑑定する。


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名前:アルラウネのお香

効果:興奮剤の効果があるアルラウネのエキスをたっぷりとと混ぜたお香。これを使うと、判断力が鈍るが色々と積極的になる。


製作者の残留思念:アリシアはいざとなるとヘたれますからね。私もいつかこれを魔物に使って……うふふふふ

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 ちょっと待って……なんかまたやばそうなアイテムじゃねえかよぉぉぉ。これ後遺症とかないよな? なんかエッチな娼館とかでつかわれそうなアイテムじゃん。



「なあ、アリシア、このお香はなんなんだ?」

「ん? ジャンヌが恋人と一緒にいるときに使えっていってたお香だよ。リラックス効果があるんだって」

「うわぁ……」



 ジャンヌって確かパーティーの聖女だよな……俺は最期の砦である聖女のイメージが崩壊していくのを感じた。

 ヤンデレ勇者に、NTR許さないむっつり魔術師、マダムキラーの剣士兼タンク、そして、なんか変なお香をつくっている聖女……やっぱこいつらも四天王と同様にやべえやつらじゃねかよぉぉぉぉ!!



「それより、なんか疲れちゃったしそろそろ寝ようかー。せっかくだし三人で寝よー」

「「え」」



 アリシアの言葉に俺とモナが困惑する。アリシアと寝るのも色々とやばいのに、モナも一緒はやばいよなぁ……と思いながら彼女を見ると、顔を真っ赤にしていった。



「私はその……二人がイチャイチャしている横で寝るのははちょっと……」

「お前実はむっつりだろ。NTR本をたくさん読んでいたって言ってたし……モナがいるのにそんな事をするかわけないだろうが」

「違うわよ!! それはその……そういう本があったから……」



 俺の言葉に顔を真っ赤にするモナ。やっぱりむっつりだこのロリっ子……確かに恋人同士が寝ている横でっていうのはNTRとしては結構ありそうなパターンだからな。



「いいから寝るのー!!」

「うおおおお」

「きゃぁぁぁぁぁ」



 そんな会話をしているとアリシアの馬鹿力に俺とモナはベットに押し倒された。


「アリシア酔ってるだろ?」

「そうよ、ちょっと冷静になりなさい」

「大好きなアルト兄とモナと一緒に寝たいんだ。だめかな?」



 反論しようとするとそんな風にいわれてしまう。こんな事を言われて断れる奴はいねえよ。俺とモナはため息をつきながらもうなづく。

 そうして、三人一緒に寝るのだった。感想? 掴まれた腕がアリシアのおっぱいに当たっていてマジで寝れませんでしたぁぁぁぁぁ!!

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