9.モナの話

よほど間の抜けた顔をしていたのだろう、俺の表情に、彼女はクスリと笑う。そして、周囲を見回した後に俺にだけ聞こえるように耳元で囁いた。



「実はね……最近は魔王や四天王も大人しいし、このままならアリシアも勇者として働かなくていいんじゃないかってホーリークロスと話し合っているわ」

「ホーリークロス?」



 ちょいちょい聞く名前だが、それって人の名前なの? そういえばブラッディクロスさんも王都から来たらしいが、なんたらクロスっていうのは流行っているんだろうか?



「ああ、ごめんなさい、ホーリークロスって言うのは、私達の……勇者パーティーのタンク兼前衛職の男の名前よ。勇者アリシア、魔術師である私、聖女ジャンヌの四人パーティーなの。私たちは四天王の一人であるデスリッチを捕えることに成功して、その褒賞で今は少し休暇をもらっているのよ」

「そういえばアリシアもそんなこと言ってたな……」



 いや、実際はデスリッチに騙されて、サティさんから俺を奪いに来たんだけど……とりあえずモナにサティさんの事がばれるわけにはいかないので、とりあえずうなづく。



「その休暇でアリシアはあなたに会いに帰ったの。デスリッチ……恐ろしい相手だったわ……不意をうってホーリークロスとアリシアが時間を稼いで、ジャンヌが成功するかどうかがほぼ賭けに近い、伝説の結界術を使わなければ勝てなかったでしょうね……私の魔術何て彼からしたら児戯みたいなものだったようで全然通じないし……」



 え? ちょっと待って? そんなに接戦だったの……? アリシアが瞬殺したわけじゃなかったのかよ。デスリッチってそんなに強かったのかよ? 勇者パーティーを相手に結構いい戦いをしてんじゃん。

 あいつがまともに魔術を使ったとこ見たことないがモナよりやべえのかよ……今日のゴブリン退治の時の魔術で彼女はかなり上位の魔術を使えると知っているのだが……

 それはともかく、ちょっと彼女が暗い顔をしたので俺は話題を変えることにする。

 


「へぇー、じゃあ、ホーリークロスって人のハーレムパーティーなのか? なんかちょっと羨ましいな」

「ふふん、安心しなさい。あいつは30歳以下の女性には一切興味がないのよ!! 『マダムキラー』の名前は伊達じゃないわ!! だからアリシアのNTRの心配はないから安心してね。ただ時々ほっぺたをぷにぷにしてくるのはむかつくけど!!」

「あ、そうなの……」



 知らん人のどうでもいい性癖を知ってしまった……しかし、ホーリークロスさんじゃないが確かにモナのほっぺたをぷにぷにとしたくなる気持ちはわかるな……


「それで……俺にアリシアと一緒にどこかいってくれないかっていうのはどういうことだ?」



 俺はモナのぷにぷにの頬っぺたをみながら、少し恐れながら聞いてみる。



「うん、魔王達が積極的に人間と争う気が無いって言うなら、アリシアも頑張らなくていいでしょう? でも、王都の人間には勇者は王都にいて有事には自分たちを守るべきだって考えの人もいるのよ……だから、あなたにはアリシアと一緒にどこかに逃げてほしいの。そうすれば本当に自由に王都の目もごまかせるだろうから」

「なるほどな……」



 どうやら彼女も魔物達が人間と戦う気が無いのは知っているようだ。ならばサティさんと会話をしてくれるかもしれない。

 あとは彼女は魔物をどう思っているのか気になったかだ。先ほどまでの話を聞く限り、積極的に魔物を狩ろうとするタイプではないようだが……アリシアの時の様なパターンもあるからな。



「だったらさ……もしも、魔王や四天王が人間と和解をしたいって考えていたらどうだ?」

「そうね……少なくとも私やホーリークロスは実際会話をしてもいいと思っているわよ。そりゃあ、デスリッチはともかく、魔王城に引きこもっているエルダースライムや観光業をやっている中立に近いウィンディーネに関しては、私達もあまり被害を受けてないし……武闘派だったアグニも最近はなぜかおとなしいしね」

「そうなのか。なんか勇者のアリシアは結構やる気だったし、あんたらは勇者パーティーの家系なんだろ。だからてっきり魔物を憎んでいると思っていたんだが……」

「そんなことはないわ。そもそも、私たちは自分の身を守るために戦っているんですもの……でも、そうね……貴族の一部はやはり魔物を恐れているし、ジャンヌはどうなのかしらね? あの子は積極的に魔物を狩りにいくし……」

「勇者パーティーも色々あるんだな。あ、ここがうちだよ。ひぃ……」



 彼女とホーリークロスという人を説得すれば何とかサティさんと会話をさせる事もできるんじゃないか、そんなことを思いながら自室の扉を開けるとそこには地獄が広がっていた。



「あ、お帰りなさい。ダーリン。まってたよ!! おかえりのぎゅーしよ♡」



 そんな意味不明な事を言ってきたのはもちろんアリシアだ。ただし、服装はピンクの手編みのセーターで半分のハート模様が刺繍されている。これってまさか……俺にも同じようなセーターを着ろって言う事じゃ……

 しかし、衝撃はそれだけでは終わらなかった。俺の部屋全体がピンク色に染まっている。待って? シーツとかピンクだし、イエスノー枕とかあんだけど?



「なんでこの短時間でリフォームできんの?」

「ふふ、勇者の力を舐めないで欲しいな」



 勇者の力をもっとマシな事につかえよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 俺はなぜかドヤ顔をしているアリシアに脳内でつっこみを入れる。まあ、これだけやればモナも満足だろうか……そう思って彼女の方を見ると……



「うわぁ……」



 引き攣った顔で普通にドン引きしていた。ですよねぇぇぇぇ。てか、アリシアのやつこのまま既成事実を作ろうとしてない?



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この作品はなろうでも投稿しているのですが、『マンガがうがうコミカライズ原作大賞』の銀賞を取りました。


アプリで漫画が掲載、コミカライズされますーーー!!


また、詳細が決まったらお伝えします。サティさんとアリシアの水着がイラストで見たい……

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