8.アルトとモナ

俺とアリシアは以前の騒動から部屋を別にしている。そりゃあそうだよ、さすがにこちらを異性として見ているってわかったら妹のように思っているとはいえ一緒に住むのはお互い酷だし、ぶっちゃけ誘惑に耐えれる自信がない。



「アルト兄……ちょっと鍵をもらっていいかな? 一緒に住んでいるって偽装するために私の私物をアルト兄の部屋に持っていくからモナをつれて時間を稼いでおいでくれない?」

「ああ。わかった。ちょっと散らかっているからついでに片付けておいてくれ」



 耳元で囁くアリシアに俺は部屋の鍵を渡す。「えへへ、合鍵作っちゃおうかな」とか言っていた気がするが気のせいだよな? 勝手に合鍵作るのは犯罪だよ……



「じゃあ、モナ。私はちょっと部屋を片付けているからダーリンと一緒に買い物しててよ。モナが大好きなクッキー焼いてあげる」

「本当、ありがとう!! じゃなかった……さすがに悪いわよ。そりゃあ……クッキーは食べたいけど……」

「いいのいいの、気にしないで。モナに久々に会えるの私も嬉しいんだよ。じゃあ、先行くね」

「ああ、気をつけろよ」

「クッキー楽しみにしてるわ、後私は絶対NTRしないから安心してねー!!」


 

 そう言って元気よくアリシアを送り出すのはいいんだけどさ、大声でNTRって叫ぶのマジで勘弁してくれない? 周りの人がぎょっとした顔しながら俺達を見つめてくれるんだけど……そして、俺とモナの二人での買い物をすることになった。



「そういえば、王都でのアリシアはどんな感じなんだ?」

「そうね、いつも明るくていい子よ。それでいて戦いではすごい頼りになるんだから!!」



 俺とモナの共通の話となると、やはりアリシアの話である。俺が軽く尋ねると喋る喋る。アリシアとよく特訓後の反省会をしただの、限定のスイーツを食べたに行っただの。一緒にお菓子をつくっただの、たくさん話題が出てきた。てか、この子食べ物の事ばかりだな!!

 だけど……楽しそうにアリシアの話をしているモナを見て、この子は本当にアリシアの事を思っているんだなというのがわかる。そもそも、アリシアのために王都からこんな田舎まできてくれたのだ。本当に良い子なんだろう。だからというわけじゃないけれど自然と感謝の言葉が口から出た。



「アリシアと仲良くしてくれてありがとう。あいつってさ、結構寂しがりやなところがあるからさ、王都で一人でやっていけるか心配だったんだが、モナがいてくれたから元気にやっていけたんだと思う」

「え……えへへ、当たり前でしょう。だって私はアリシアの大親友ですもの!! でも、私も安心したわ。あなたもちゃんとアリシアの事を考えてくれているのね。もしも、あの子を利用するだけの屑野郎だったら懲らしめてやろうと思っていたの」

「そんなはずないだろ。てか、懲らしめるってどうするつもりだったんだよ」

「そうね、浮気をするようなクズだったら、股間だけ切り裂いて焼いてやろうと思っていたの。そんな事にならなくて本当によかったわ。あ、安心してね。知り合いの聖女に頼めばどんな負傷でも、死んでなければ治せるから命を取るつもりまではないわ」



 無茶苦茶物騒な事を晴れ晴れしい笑顔で言うモナに俺は心臓がばくんばくんとする。おいぃぃぃ。デスリッチの妄想のせいで子孫にNTRも浮気もぜったい許さないガールができてるじゃねえかよぉぉぉぉ。

 てか、俺がボコられるのはいいけどっていうのも無しだわ。さすがにアルトのアルトを切り取って焼かれるのは許容できねえ……というか冷静に考えて、全然いい子じゃねえわ。こいつやっぱり頭おかしいよぉぉぉぉぉ!!



「アルト……あなたに大事な話があるんだけど聞いてくれるかしら」

「ん? どうしたんだ?」



 俺が自分の股間の心配をしているといきなり真面目な顔をしてモナが聞いてきた。あれ、もしかしてサティさんとの事がばれたのか? 俺のアルトを焼く気なのか? まだ未使用なんだが!!



「あなたこのまま、アリシアと一緒にどこか遠くへいってくれないかしら?」

「は?」



 間の抜けた声をあげる俺に彼女は真剣な表情でこちらを見返すのだった。

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