7.バカップル
「アルト兄に限ってそんな事はないよ、ねえ、アルト兄」
「ああ、当たり前だろ、俺達はラブラブだもんな。な、アリシア」
予想以上の反応に俺はおろか、アリシアまでも少し焦ったような顔をしている。お前の親友だろ。こいつの性癖を知らなかったのかよ。てか、ちょっと声が変な風になったけど不審がられてないよな。
俺が恐る恐る彼女の方を見ると、なにやら怪訝な顔をして、俺とアリシアを見ている。
「どうしたんだ? モナさん」
「モナで良いわよ、その代わり私もアルトって呼ばせてもらうわね……ところで……いつもは二人はダーリンとハニーって呼び合って手紙に書いてあったのだけれど……私の前だから遠慮しているのかしら? その……気にしなくていいのよ。私もアリシアが幸せそうにいちゃついているのは見たいし」
「んんんーーーー!!?」
そう言って少し恥ずかしそうに、でも何かを期待するような目で、モナは俺とアリシアを見つめた。ちょっと待てやぁぁぁぁ!! ダーリンとハニー何だよぉぉぉぉぉ!! そんなん実際言っているやつは見たことねえよ。
俺がアリシアを攻めるような視線を送ると、彼女は舌をペロっと出して申し訳なさそうにウインクをした。こいつマジで手紙に何を書いているんだ……
「あれ? 二人ともどうしたのかしら? 私何か変な事を言っちゃった……? それとも、アリシアの手紙に書いてあったことが嘘とか……まさかね」
「ひどい事をいうなぁ。モナは……俺達はラブラブだよな。ハニー」
「えへへ、うん、そうだよね、ダーリン。大好きだよ。ごめん、アルト兄、この後も手紙通りにやるから付き合ってね」
そう言うとアリシアは無茶苦茶にやけながらそう言った。最後は俺にだけ聞こえるようにこっそりとだ。そしてそのまま流れるように俺と手をつなぐ。ああそうか、アリシアの手紙に書いてあるっていう事はダーリン、ハニー呼びはこいつの理想なのか……中々やべえな。
などと思っていると店員がやってきて、料理を置いていく。お肉の焼ける香りがなんとも香ばしくてお腹をくすぐる。でも、アリシアはさっきステーキ食ってたよな。こいつ食いすぎじゃ……
「あ、料理が来たよ、ダーリンがそろそろ帰ってくると思って注文しておいたんだ。モナも良かったら食べてよ。あと甘いもの好きでしょ。ここのデザートはまあまあ美味しいんだよ」
「そんな、悪いわよ。英雄の血を引くものとして、誰かのご飯を奪うような真似はできないもの。自分の分は自分でたの……」
そういうモナのお腹から「くぅーーーー」という可愛らしい音が鳴り響く。わかるよ、馬車で移動してゴブリンと戦ったのもあって腹減るよな。いや、こいつ馬車の中でクレープ食ってたな。ただの食いしん坊なのか?
そんな事を思いながらモナを見つめると「魔術を使うとお腹が減るのよ」と言い訳しながら顔を真っ赤にしてうつむいている。
「いただくわね……あとでちゃんとお金は払うから」
「気にしないで、わざわざここまで来てくれたお礼に私がおごるよ」
「ああ、俺も出すわ。さっき俺達の護衛の任務を助けてもらったし……気持ちってやつだよ。受け取ってくれ」
「そこまで言うなら……断るのも申し訳ないし、ご馳走になるわ」
「へぇー。モナが戦ったんだ? モナの魔法はすごかったでしょ。彼女の魔法にはいつも助けられているんだよ。はい、ダーリン、あーん」
「ん? ああ、ありがとう。確かにな。あっという間にゴブリンを倒している姿はやばかったよ」
「はい、あーん」
「そんな……私なんてオベロン様に比べればまだまだだもの」
「まあ、あの人は先代勇者パーティーの魔法使いでしょ、実戦経験が違うから仕方ないよ。はい、あーん」
「そんなに一気に食えねえよ!?」
右手は常に手をつないだままで動きづらい上に、次から次へとアリシアによって差し出される肉の攻撃に耐え切れず俺はついに突込みをいれる。モナへの手紙に毎日あーんをしていると書いたと聞いているので、つい付き合っていたがこの女、致命的にあーんが下手すぎる。人間はそんなにすぐ咀嚼できる生き物じゃねえんだよ!!
やべえよ、冒険者ギルドでこんなにいちゃついているやつら初めて見たよ。周りの顔見知りの冒険者は顔を真っ赤にしている俺をみて、笑いをこらえているやつまでいやがる。
「お待たせいたしました。デザートです。まあまあなケーキですよー」
ちょっと刺がある口調でケーキを持ってきたのはサティさんだった。もしかして、様子を見に来てくれたのだろうか? でも、俺とアリシアが手を握っているのを見て眉をひそめた後にすごい拗ねた顔をして唇を尖らせている。
胸のスライムも一瞬不満をアピールするかのように不自然に動いた。しょっちゅうサティさんの胸を見ていた俺じゃないと見逃しちゃうくらいの動きだったが、無茶苦茶怒ってそう!!
サティさん事情は説明したじゃないですかぁぁ……あと、エルダーもハコネィでハーレムオッケーって言ってたじゃねえかよぉぉぉ!!
「ん、どうしたのモナ? サティさんを見つめて……あの人の胸は本物だよ」
「いえ、別にあの人の胸を見ているわけではないのだけれど……さっきの店員さん、私が入っていた時にあなた達と仲良さそうに話していた女性よね。なにかNTRの気配がするのよね」
サティさんをじーと見ていたモナにアリシアがどうしたのかと聞くとそんな事を答える。この女無駄に勘がするどいな!! てか、意外と恋愛経験豊富だったのだろうか? 貴族は子供のころからパーティーを開いたりするから結構恋愛は早いと聞く。
「なんだよ、NTRの気配って……モナは恋愛は詳しいのか?」
「ふふ、任せてよ。私はNTRを回避するために色々と勉強しているの。王都にあるNTR本の八割は読んでいると断言できるわ。最近読んだお勧めは『勇者に幼馴染の聖女を寝取られパーティーから追放された俺はリッチになって、魔王軍に入って復讐をする』ね。主人公の魔法使いが勇者にNTR返しをするところは最高だったわ」
こいつNTRを楽しんでるじゃねえかよぉぉぉぉぉぉ!! 満面の笑みを浮かべるモナに俺はなんとも言えない気持ちになる。てか、その本の作者ってデスリッチじゃねえよな?
「ちなみにリアルの恋愛経験は?」
「ないわ!! でも、模擬戦では全勝よ。恋人をNTRなんて絶対させないもの」
「うわぁ……妄想かよ……」
俺の質問に元気よさげに答えるモナ。この子、ブラッディクロスさん系だったのか? パーティー内で恋愛とかないんだろうか? まあ、ないんだろうなぁ……
「なによ、その反応!! 妄想じゃないわ。模擬戦よ!! それに私は子供っぽいって言われるけどちょっと変わった趣味の人からは人気なんだから!! これでもお洒落はけっこうしてるし、胸だってBはあるんだから!!」
「うぐぅ……」
「サティさん、大丈夫ですか? いきなり胸をおさえてどうしました?」
どや顔のモナの言葉にサティさんが流れ弾を受けてしまったようだ。受付の方から悲痛な叫びが聞こえてきた。なんかこのままいくと色々とサティさんに迷惑をかけそうな気がする……
「飯も食べたしそろそろ帰るか……」
「そうだね……これ以上はなんか申し訳ないし……モナは宿は決まってないんでしょ、だったらうちに来なよ。久々にお泊りパーティーしよ」
「え、でも……」
モナはなぜか俺の方を見て、もじもじとしている。ああ、アリシアが俺の部屋に泊まると思って遠慮しているのか。
「いいんじゃないか? 久々に会ったんだろう?」
「ありがとう……じゃあ、お二人の愛の巣にお邪魔するわね」
はぁぁぁっぁぁ? 一緒に住んでることになってるのかよ!!
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