6.彼女はNTRを許さない

その一言で、一瞬冒険者ギルド中の視線がモナに集中する。彼女は怪訝な顔をするがすぐに澄ました顔で言った。



「私はもう十五歳で成人してるわ。ここには依頼をしに来たの。だからあんまり舐めないで欲しいわね」



 おそらく何度も経験があるのだろう、何を勘違いしたのか彼女は少し頬を膨らませながらそう言った。でもそう言う反応がより子供っぽさを強調するんだよなぁ。てか、ほっぺたすごい気持ちよさそう。

 そして、みんなが注目をしたのは別の理由である。よかったギリギリ間に合ったぜ!!



「あれ、モナーー。どうしたの? もしかして私に会いに来てくれたの?」

「うお、いってぇぇぇ」

「あれ、アリシアじゃないの!! よかった、あなたに会いにきたのよ。ところでそちらの方は? ってさっきの冒険者じゃないの」



 俺はいきなりアリシアに腕を引っ張られて悲鳴を上げると同時に押し付けられた胸の感触に思わずにやりとしてしまう。

 そして、モナはアリシアとくっついている俺を見て驚いた顔で声をあげる。そりゃあ、そうだよな。さっき馬車で喋った相手が探し人ってどんな確率だよって話である。



「うん、この人が私の幼馴染で婚約者で恋人のアルト兄だよ、えへへ……やばい、自分で恋人って言ってにやにやしちゃうよぉぉ。それで……アルト兄とモナは知り合いなの?」



 アリシアが自分で答えながらデレデレの笑みをうかべている。もちろん、俺がモナと出会った経緯は既に説明済みだが、モナを欺くために聞いているのだ。



「ああ、それはな……」

「アリシア安心して、彼とは馬車で出会っただけよ、NTRする気はないわ。本当はもうちょっと早く来る予定だったんだけどね……アンデットがそこらかしらにいて、倒すのを手伝ってたらちょっとおそくなっちゃったの……」

「は?」



 モナはアリシアを安心されるように手を握りながら、微笑んだ。いや、こいついきなり何を言っているんだ? 日常会話でなんでいきなりNTRなんてでてくるんだよ。どんな英才教育されてんだよ? こいつの家系なんかやばい地雷でもあるんじゃないか?

 俺がすごい顔で彼女を見つめたのに気づいたのだろう。



「ああ、ごめんなさい……うちの家系は浮気とNTRに関しては敏感なのよ……」

「「は?」」



 モナの言葉に俺とアリシアが同時に聞き返す。このようすだとアリシアも知らなかったようだ。しかし、浮気とNTRに敏感てどんな家系だよ……愛人の子供に追放ざまぁでもされたのか?

 モナは周りを見回して小声で言う。



「我がアンダーテイカー家はNTRを許さないの……先代の勇者と聖女が結婚をしているのは知ってるわよね?」

「ああ、常識だろ。現に勇者と聖女の子孫が統治している土地もあるしな。確かカルデック領だっけ……」



 俺は彼女の言葉にうなづく。あまりにも有名な話だし、特に俺はデスリッチからその事をも聞いているからな。まあ、なんというか逆恨みされて可哀そうだよな。勇者と聖女。



「ここだけの秘密だけど、本当は……聖女は勇者じゃなくて、幼馴染のオベロンと恋仲だったの。でも彼は魔王と相打ちになって死んだからでしょうね……聖女は勇者とくっついたわ。ちなみに聖女とオベロンが恋人だって言うのは、当時、オベロンから実家に送られてきた手紙にかいてあるんですもの間違いないわ」

「うわぁ……」



 モナの言葉にアリシアがどん引いた声をあげる。デスリッチのやつ黒歴史を実家に送ってるんじゃねえよ……おかげで子孫が勘違いしてんじゃねーか……



「アリシアが引くのも気持ちはわかるわ。勇者が親友の恋人をNTRするなんて信じられないわよね……あなたたちも知っているように勇者と聖女は魔王を倒した後に帰ってすぐ結婚したのよ、その意味はわかるわよね。もしかしたら、オベロンが死んで慰めていい感じになってのかもしれない……でも、もしかしたら、勇者は聖女をNTRしていたのかもしれないの。だからアンダーテイカー一族はNTRや浮気を嫌悪しているよ。だから……アルトさん、もしあなたが浮気をしてアリシアを悲しませたりしたら……絶対許さないわ」



 そう言うと彼女はすさまじい目で俺を見つめてくる。ふざけんなよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。デスリッチの妄想のせいでNTR絶対許さない一族が生まれちゃったじゃねえかよぉぉぉぉぉ。

 これは絶対嘘がばれたらやばいやつじゃん。そう思ってサティさんの方を見つめると彼女も苦笑していた。



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