5.作戦会議

「アルト兄、サティさん本当にごめん……モナがいる間だけ、私とどこでもいちゃつくバカップルつきあってことにしてくれないかな?」

「「は?」」



 突然のアリシアの言葉に俺とサティさんは困惑する。そんな俺達を見て、アリシアは本当に申し訳なさそうな顔をして説明を続ける。



「いやー、実はモナにはアルト兄と婚約者って言ってて……その……もしも、勘違いだってばれたら王都に帰って来いって言われちゃうかなって思って……つい、色々盛っちゃったんだ。てへ」

「それに関しては俺も悪かった……でも、盛ったってどんな話をしているんだよ……」

「それがね……」



 俺の言葉にアリシアは少し気まずそうに頬をかく。婚約者云々に関しては俺の方の言い方もあれだったので、正直攻められないんだよな。それに……俺もアリシアが王都に行くのは寂しいと思っているのが事実だ。彼女がここにいる事ができるというのなら何とか協力をしたいという気持ちはある。



「いつも一緒にクエストやっていて、終わったら冒険者ギルドの食堂で、あーんってしながら食べさせあっているとか、一応別々には暮らしているけど、実際は半同棲状態で、部屋ではペアルックとか……」

「盛りすぎだろぉぉぉぉぉぉ、マジでバカップルじゃねえかよぉぉぉぉぉ」

「アリシアさんってそういうのが夢だったんですね……」



 アリシアの言葉に俺は絶叫し、サティさんは苦笑する。仮に付き合っていてもきついんだが? 盛っていいのはおっぱいだけなんだよぉぉぉぉぉと口走りそうになったが、サティさんを見て万が一口走ったら洒落にならんなと正気に戻る。



「だって、しょうがないじゃん、夢だったんだもん!! そういうことをしたかったんだもん!! 王都に行ってアルト兄とずっと会えなくて、色々妄想ばかりしてたんだよぉぉぉ」

「くそ、俺の言葉足らずが招いた事態だからなんもいえねえぇぇぇぇ、アリシア本当にごめんな!!」

「まあまあ、アルトさんもアリシアさんも落ち着いてください。要するにモナって言う子がいる間はアルトさんとアリシアさんが付き合っているふりするっていう事ですよね。私もアリシアさんを騙した事がありますし、今度はアリシアさんがアルトさんの彼女の演技をするっていうのでいいんじゃないでしょうか?」

「サティさん……いいの?」

「ええ、私もアリシアさんがいなくなると寂しいですから……アルトさんもそれでどうでしょうか?」

「まあ、俺はいいですけど……」



 サティさんの提案に俺は迷いながらもうなづいた。いや、まあ実際は俺とサティさんは付き合っていないし、事情が事情だからいいんだが……むちゃくちゃバカップルの演技をしなければいけなそうなんだが? サティさんは俺がアリシアといちゃついても全然気にならないのだろうか? などと思ってしまう。



「よかった……やっとできた友達がどこかに行ってしまうかと思いました……」


 

 あ、違うわ、サティさんはようやくできた友達がどこかいくのが嫌だから必死なんだわ……まあ、ずっと友達がいなかったっぽいしな。

 でも、嫉妬心とかないのかとちょっとショックを受けていると彼女が俺達を見つめて真剣な顔で言った。



「その代わりですが、アリシアさん、今度は私が一日中アルトさんを借りますからね。アルトさん……以前約束をしたようにアルトさんの故郷を案内してくださいね」

「もちろんです!! って言っても何にもないところですが。というかこの街の外れのほうなんですが……」

「知ってますけどアルトさんの案内で行きたいんですよ、アルトさんがどんなところで、どんなふうに育ったか知りたいんです」



 そう言って少し恥ずかしそうに笑いながら言うサティさんの言葉に、狂ったように俺は頷く。実家に来たがるっていう事はちょっと脈ありでは? 

 などとデレデレしているとアリシアが頬をふくらましている。まあ、文句を言わないって事は納得してくれたっていう事だろう。



「ですが、冒険者ギルドの人たちは私とアルトさんが付き合っているって思っているんですよね、どうしましょう」

「あー、それに関してはこいつら冒険者だから金でなんとかなりますよ」

「そういう事か、わかったよ、アルト兄」



 俺の言葉にアリシアは納得したかのようにうなづくと、大声で叫んだ。



「というわけでみんな!! 協力してねー!! お金は払うからここにいない冒険者の人たちにも言っておいて!! 金髪の高そうなローブを着たモナっていうツインテ―ルの子が来るから、私とアルト兄が付き合っているって言う風に口裏あわせて。ここにいない人たちにも言っておいて」

「おー、いいぜーー」

「よっしゃー、ただ酒だぁぁ」



 アリシアの言葉に冒険者達が楽しそうに騒ぎ始める。気が早い奴はもう酒を頼んでやがる。冒険者は楽しい事好きで金にうえているからな。こういう面白いイベントには参加するし、犯罪とかはともかく、簡単な嘘なら付き合ってくれるのだ。

 そして……冒険者として結構難しい依頼をやってくれたり、酒場で一緒に騒いでいるアリシアがいなくなるのはこいつらも嫌なんだろう。ブラッディクロスさんみたいに今はいない連中にも話は行くはずだ。あの人は今周囲にやたら出没しているアンデットを退治しているのである。



「しかし、アリシアお金は大丈夫なのか? 俺も払うぞ」

「いいよ、アルト兄。それにお金なら、デスリッチを討伐した時にもらったデスリッチ貯金があるからね」

「はじめて役に立ったな、あいつ……」



 そんな事を話していると冒険者ギルドの扉が開いて一人の少女が入ってきた。



「こんにちは、私はモナ=アンダーテイカーよ。人を探しているのだけれど……」



 冒険者ギルド中の人間が同時にうなずいた。いや、こいつらマジで連携すごすぎだろ。そうして、俺達とモナの物語がはじまる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る