2.くまの少女
アルト、お前が前に出るなんて珍しいじゃねえか、腕はにぶってないだろうな」
「はっ、カインズ。俺を舐めるなよ。伊達に最近アリシアにボコられてないぜ。今の俺は昔の俺ではない、新アルトだ!!」
「いや、ぼこられてんじゃねーかよ……」
俺は一緒に護衛を受けた弓を構えている同僚の冒険者のカインズと軽口を交わす。呆れた顔をしているけど、アリシアマジでつええんだよぉぉぉぉぉぉ。あんなんどうやって倒すんだよ……こいつも俺と同じCランクである、目の前のゴブリンなんて敵ではないだろう。
「久々の獲物だゴブー!!」
「ふふふ、今日はごちそうだゴブーーーー」
魔物の群れはゴブリンだった。8匹程度なので、正直俺一人でも倒せない相手ではない。最近四天王とか化け物じみた相手ばかりと戦っていたか可愛く見えるぜ。
ゴブリンは一般人からしたら脅威だが、初心者の冒険者でも何とか戦えるレベルだ。中堅冒険者が二人いれば敵ではない。
ちなみにサティさんたちいわく、こういうところにいて問答無用で襲ってくる魔物は、俺達人間で言う山賊みたいなもので、魔王や四天王の眷属でもないので気にしないで倒してくれという事だった。まあ、魔物も色々いるのだろうね。
俺はとりあえずリーダーらしきゴブリンに鑑定スキルを使用する。
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名前:ゴブール=グラトニー
職業:野盗
戦闘能力:22
スキル:挑発
恋したい度:999
備考:普段は道を通る馬車や通行人を襲って生計を立てている。自分達以外はどうでもいいと思っているので、罪悪感はない。
周りに♀がいなさすぎるからサブリーダーのゴブリン♂が気になって仕方ない。どうしよう。もう、男同士でもいいかな……人間の♀はどうかって? いや、お前らゴブリンに発情するか? しねえだろ。そういうことだよ。
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特に特殊能力もないな。これなら俺とカインズの敵じゃねえな。俺が彼に「いくぞ」と目配せをして剣を構えて突っ込もうとした時だった。
背後から突如凛とした声が響き渡る。
「人を襲うしかできない哀れな魔物達よ、あなたを倒す高貴なる人間の名前を刻んであの世へ行きなさい!! 私の名前はモナ=アンダーテイカー!! かの英雄オベロン=アンダーテイカーの血を継ぐものなり!!」
「ちょっと、お嬢ちゃん、そんなとこに登ったら危ないよ、降りてきなさい!!」
背後を振り向くと馬車にいた小柄な少女が、馬車の屋根に上ってローブをたなびかせながら杖を構えているところだった。依頼主である馬車の持ち主のおっさんは冷や汗を垂らしながら、少女に降りるように説得する。
まるで、はしゃいだ子供に手を焼いている親みたいである。子供って高い所好きだよな。なんだでだろうね?
「なんだありゃあ……」
「マジかよ……」
隣にいるカインズもあきれた様子で呻いていたが、何気なく彼女の放とうとしている魔法を鑑定して、俺は思わずうめき声をあげる。なんだ、あの魔力は……アリシアが放つ魔法よりもはるかに緻密で……高威力だ……
「ファイアーボール!!」
彼女の杖からちょうど九個の火の玉が現れて、俺達の目の前にいたゴブリンと、隠れていた一匹のゴブリンを爆風と共に、燃やし尽くす。
それは信じられない光景だった。普通魔法は一つの詠唱で一つだ。なのに彼女は同時に九つのファイアーボールを放ったのだ。英雄の血を引くって言うのも本当かもしれない。
てか、オベロンアンダーテイカーってなんか聞いたことあるな……なんだっけ?
「所詮、ゴブリンなんてこんなものかしら。おじさん、別にお金はいらないわよ。ノブレス・オブリージュ、英雄の血を引くものとして当然のことをしただけよ」
唖然とした表情の俺達に得意げに笑いかけてくる彼女は爆風でローブをたなびかせながら得意気にそう言った。すると、風で彼女のローブがめくれて、色々と見えてしまう。
「くまさんか……」
「ああ、可愛らしいくまさんだったな……」
そう、それが俺とくまさんパンツの魔術師モナ=アンダーテイカーとの出会いだった。てか、結局戦ってないんだが?
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