1.鍛錬
「うおおおおおお、速すぎるぅぅぅぅ」
「まだまだだね、アルト兄」
俺は来るとわかっていた攻撃に全く反応できず、無様にも首筋で寸止めされた聖剣を見つめながら、悔しさを噛み殺しながら溜息を吐く。得意げに笑っているアリシアの顔が何とも憎らしいぜ。
てか、こいつマジで強すぎるんだが……
「フフフ、なんかアルト兄が悔しそうな顔をするのを見るとちょっとゾクゾクしてくるなぁ。それにしても、いきなり模擬戦なんてどうしたのさ」
「ああ、ちょっと俺も強くならないとなって思ってさ……」
なんか危険な性癖に目覚めそうなアリシアに少し言いよどみながらも答える。ハコネィでエルダースライムの話を聞いてから俺は色々と考えていたのだ。このままでいいのだろうかと。俺はサティさんに惹かれているわけで……きっとサティさんも俺の事を悪くは思っていないわけで……順調にいって付き合えばいずれ結婚という話にもなるかもしれない。そして、俺と結婚すれば彼女の魔物と人間の共存という夢に一歩近づくかもしれないらしい。
でも……それだけじゃあ、ダメなんだよな。魔物だって人間の様に一枚岩ではない。アグニのように力がないと従わないやつもいるのだ。そしてデスリッチのようなやつを従えるには権力だって必要だろう。だから、俺が四天王の一人になって、強さも認められれば少しは箔がつくのではないだろうか? そう思ってアリシアと模擬戦をしているのだが、こいつ強すぎる……
一週間戦い続けて、ロクに剣をあわせることすらできない。一回剣をあわせた時も鑑定で見たパンツの色を大声で叫んで動揺させた隙に攻撃したときにすぎない。
ちなみにその後無茶苦茶怒られてパフェをおごらされたりしたものだ。
「どうせ、四天王になってサティさんにアピールするんだーとか思っているんでしょ」
「え? なんでそれを……」
「やっぱりなぁ……アルト兄はわかりやすいんだよね。でも、四天王になるのってどんな条件なんだろうね?」
俺が焦った顔をすると、アリシアはやれやれとばかりに肩をすくめた。どうやら誘導尋問に引っかかってしまったようだ。
意外だったのは彼女が否定的ではないことである。まあ、アリシアもここに来て魔物への感情が変わったという事だろう。それよりもだ。四天王の条件か……
「やっぱり頭がおかしい奴がなれるんじゃないか? 四人にあったがどこかしらやばいやつだったし……」
「じゃあ、アルト兄も大丈夫だね」
「どういう意味だよ!? 俺は常識人だろ」
「いや、普通の人は憧れの人の秘密をしるためだけに鑑定スキルを極めたりしないんだよ……」
「う……」
それを言われるとこちらも弱い。元はと言えばサティさんの秘密を知るためだけに鑑定スキルを調べたんだよな……その結果色々大変な事になってしまったが後悔はしていない。
「まあ、とりあえず、デスリッチを見ている限り、なんか一つとびぬけた才能があれば行けると思うんだよな」
「アルト兄……あいつあんな感じだけど、一応先代勇者の仲間だったんだからね……最初捕えるときも結構苦戦したんだから……」
「そういや、そんな鑑定結果が出てたな……」
そう言われるとデスリッチって結構すごいやつだったのか? ルシファーさんが強すぎて正直いまいち実感がわかないんだよな。
「まあ、いいや。とりあえず、今日は馬車の警護の依頼が入ってるから、帰るのは夕方になると思う。飯は先に食べててくれ」
「うん、気を付けてね、私がついていかなくても大丈夫?」
「お前が来ると先に魔物を倒しちゃうから俺が戦闘経験にならないんだよ……」
そんな事を話しながら俺はアリシアと別れた。久々のクエストだ。気合が入る。
馬車の警護というのは結構冒険者では人気の依頼である。移動費は浮くし、何の問題もなければ戦わないで金も入るからだ。討伐クエストは必ず魔物と戦う事になるし、そこまで報酬も変わらないからな。
「あー、でもこんなことなら討伐依頼の方にしておけばよかったな……」
依頼主が行商を終え、元の街に戻る馬車に乗りながらそんな事を思う。結局行きは魔物と会う事もなくスムーズに終わってしまった。普段だったら働かなくて金が入るのだから喜ぶべきだが今は実戦経験がほしかったんだよなぁ……
「ふふふ、これすごい美味しいわね。王都に帰ったら、ホーリークロスにお土産として買ってあげなきゃ」
そんな事を言いながら生クリームたっぷりのクレープを食べているのは、魔法使いが良く着るローブを着た小柄な少女だ。年は13歳くらいだろうか? 全体的に小柄な金髪の意思の強そうな可愛らしい美少女だ。彼女は行商先の街で、俺達が住んでいるローグタウン行きの馬車を探していたという事で少しのお金を払って乗せてもらっているそうだ。
外見的にこんな子が一人旅って大丈夫かなと心配だったが、よくよく装備を見ればわかる。この子は相当な腕前だわ。ちゃんと実戦で使われているであろう魔石の埋め込まれた杖に、質の良いローブ。どこかのパーティーの魔法使いが里帰りでもしているのかもしれない。
てか、なんたらクロスって名前流行ってるのかね? 俺がそんな事を思った瞬間だった。
「魔物がでたぞー」
ようやく仕事らしい。俺は剣を持って馬車から出るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます