幕間 魔法使いモナ

「それで……まだ勇者は帰ってこないのか? ジョニー=カルデックよ」

「……」


 

 ここは城の謁見の間である。私と隣にいる男は王に呼び出されていた。王の言葉に隣の男は……答えない。 いや、マジ何で答えないのよ!! 頭おかしいんじゃないの?



「おお、すまなかったな……それで勇者はまだ帰ってこないのか? ホーリークロスよ」

「はい、デスリッチから魔王に関する有益な情報があると単独で偵察に行ってから、いまだ帰還はしてきません。ただ、定期的に連絡はきていますので問題はないかと」



 先ほどの沈黙とは嘘の様にすらすらと隣の男……ホーリークロスは答える。周りもまたかよという呆れた雰囲気である。こいつは本名がジョニー=カルデックというのになぜか、ホーリークロスと呼ばれないと答えないのだ。そして、それは王様が相手でも例外ではない。

 王様が温厚な人じゃなかったら処刑されていてもおかしくないんだけど……ああ、でも。こんなのでも勇者の血筋を継ぐもので、現王国最強クラスの剣聖だから黙認されるかもしれないけど……



「ふむ、連絡がきているとはいえ、勇者が長期不在というのは色々と心配だ。一度王都に帰るようにいってくれんかの」

「はい、わかりました」

「うむ、では下がるが良い」



 王の言葉で私たちは頭を上げて、最後にお辞儀をして謁見の間を出る。そろそろ言われるかと思ったけど、案の定というところね。

 私は憂鬱な気分になりながら、隣にいるホーリークロスに訊ねる。



「それで……どうするのよ。アリシアを連れ戻すの?」

「ああ、場合によってはそうなるだろうな」

「悪いけど私は反対よ。あの子は幼馴染のために一生懸命頑張っていたもの……何年も離れ離れになっていたのよ。もう少しくらい休んだっていいじゃないの」



 私が睨むようにホーリークロスに言うと、彼はわざとらしくため息をついた。



「我々勇者パーティーは人々を襲う魔物を倒し、平和をもたらす英雄なのだぞ」

「だからってあの子の幸せを踏みにじっていいわけじゃないでしょう!! あの子はたくさんがんばったわ!! あの子だって少しくらい幸せな時間を過ごしてもいいじゃないの!!」

「ああ、それには同意だとも。最後まで私の話を聞け、現に四天王のうちの一人のエルダースライムは魔王城に引きこもっていておとなしいし、ウィンディーネはハコネィの観光事業で金を稼いでいるだけ……武闘派のアグニは最近姿を現さず、厄介な存在であるデスリッチはアリシアが抑えた。そして、魔王は我々人間と共存を望んでいるという噂だ。つまり……勇者が出なければ勝てないほどのやばい奴らは、我々と敵対をする気がないという事になる」



 そう言って彼は一呼吸おいて私をまっすぐ見つめながら言葉を続ける。



「それなのに勇者の力を……たまたま、勇者の力に目覚めて、聖剣を抜くことができてしまった心優しきただの少女の力を必要するほど我々は腑抜けているのか? 彼女は我々のように英雄の血を引いているわけでもなく、ましてやその事を誇りに持ち、その恩恵を受けてきたわけではないのだ。有事でなければただの少女として生きていくのが自然だろう?」



 そう言うと彼はにやりと笑う。ああ、そうだ……この男は言動こそ少しおかしいところがあるものの、私と同じくらいアリシアを大切に想ってくれている心優しき男だった。伊達に勇者パーティーとして、私達をずっと支えてきたわけではないのだ。



「ホーリークロス……ごめんなさい、勘違いしていたわ。でも、場合によっては連れ戻すっていっていたけどどういうこと?」

「ああ、私はアリシアの事は信頼しているが、彼女の想い人であるアルトとやらの事はよくわからないからね。モナ……君にお願いがあるんだ。こっそりとアリシアの元にいって、アルトという男が信頼に足りる男か見てきてはくれないだろうか? 王も、君が連れ戻しに行ったと言えば納得するだろう。問題なければ、彼女は魔王を追っているとでもいってくれればあとは、私が適当に誤魔化そう」

「わかったわ。私も久々にアリシアに会いたかったし……でも、アルトがわるいやつだったらどうするの? そう……例えば、アリシアが惚れているのをいいことにヒモだったり、他の女と何股もしているようなやつだったら……」

「その時は君も手紙をくれ。私も行くとしよう。私と君が力を合わせて戦えばアリシアにだって負けないからね……強引に連れ戻すとしよう」

「そうね、わかったわ」



 そうと決まればすぐに旅の準備をしないと……ああ、そういえばアリシアが大好きだった。お菓子も買っていってあげよう。そう思いながらも一つ気になった事があったのでホーリークロスに聞く。



「そういえば、有名な四天王はともかく、あまり表に出ない魔王の動向とかよくわかったわね」

「ああ、少し昔にね……『巨乳美少女ファンタジー王国』の待機室で、面白い人物に会ってね。彼に色々と聞いたのさ」

「なによ、その『巨乳美少女ファンタジー王国』って……」

「フッ、紳士の社交の場とだけ言っておこうか」



 そう言うと彼はきざったらしくわらう。まあ、名前からしてどうせエッチな店なんだろうけど……私は深い意味を考えないでアリシアの元へと向かうのだった。

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