23.これからの在り方

『まずはアルトさんとアリシアさん、サティとウィンディーネの事をありがとうございます。我々スライムではやはり感情の機微を理解するのは少し難しかったようです。そして……ウィンディーネがご迷惑をおかけしました』



 そう言うと魔王城で見たときよりも小さい彼女は礼儀正しくお辞儀をする。どうやら酔いからは醒めているようだ。

 などと思っているとアリシアがツンツンと肩をつついてくる。



「ねえ、アルト兄……この人誰なの? 私たちを知ってるみたいだけど……」

「ああ、そっか……アリシアはちゃんと会ったことないんだっけ? 四天王の一人であるエルダースライムで普段はサティさんのパッドをしているんだ」

「え? ああ……この人がパッドスライムなんだ……けっこうまともそうなのに……」



 俺の言葉に驚きの声をアリシアが漏らす。いや、ぱっと見まともだけど、サティさんの事ならば俺の体内に忍び込んで脅迫すらするからな……結構やばい奴なんだよと内心ぼやく。



『それでは、サティの下着の封印を解きましょうか……それとアルトさん達に話しておきたいことがあります。ついてきてください』

「え、ああ……わかりました」

「大丈夫、アルト兄は私が守るからね!!」

『ご安心を……危害を加えるつもりはありませんよ。ではこちらへ……増殖せよ!!』



 その一言と共に温泉の上にエルダースライムが体液を一滴たらすと、スライムでつくられたゼリー状の道が作られてサティさんの下着が祀られている台座までの道ができた。すげえ、はじめて尊敬したよ、エルダーさん!!



『実は……こういう風に信仰心を一つに集中させて願いを叶えたのはウィンディーネが初めてではないのです。昔にも一度だけ、精霊の信仰心を使用して願いが叶えられたのです』

「それは一体どういう理由で……」



 俺がエルダーさんの後ろをついていきながら訊ねると、返事は予想外の所から返ってきた。まさか、昔の人も巨乳になりたかったのだろうか?



「聞いたことがあるよ、それがこの聖剣エクスカリバーなんだよね。かつて人間と魔物が戦っていた時に圧倒的に不利な人間を救済するために精霊エレインから授かった聖剣……それがこのエクスカリバーなんだよね」

『流石ですね、勇者。私達魔物はその聖剣によって、敗れました。その時に使用された精霊への信仰心の量に比べれば、この下着に使われる予定だった信仰心は可愛いものですが、あなたたち人間を絶望的なまでに窮地に陥らせたでしょう。そして……そうなってはアグニのような過激派を私達も制御できなかったかもしれません。お二人には本当に助かりました。いや……ちょっとくさいですねこれ……』


 

 そう言いながら、エルダースライムは台座に置かれていた下着を回収する。いや、回収するって言っても、スライムって透けているから、下着が丸見えなんだが……サティさんこういう下着を履いてるんだ……やっぱりローブと同じで黒が好きなんだな。

 などと思っていると足に激痛が走る。


 

「いってぇ!!」

「アルト兄!! エッチな顔してサティさんの下着を見ないの!! 言いつけるよ」

「すいませんでした、本当に勘弁してください!!」



 俺は踏まれた足の痛みに耐えながらも、アリシアに土下座をする。そんな事がばれたら好感度がくっそ下がるじゃないかよぉォォォォ。でも仕方なくない? いいなって思っている人の下着があったらついみちゃうんだよぉぉぉ。



『話を続けてもいいでしょうか?』

「あ、はい……どうぞ」



 俺達の行動を見て、苦笑をしているエルダースライムは一息いれて話し始める。



『この下着が完成していたら、サティの胸は少し大きくなって、願いが叶うとただの下着にもどったでしょうね。そこで話を戻しますが、『魔物から我々の身を守ってほしい』そういう風に願われ造られた聖剣がまだ勇者の手元にあるという事は、どういう事だと思いますか?』

「人々がまだ……魔物をおそれているからでしょうか」



 俺の言葉にエルダースライムがうなづく。そりゃあそうだよな。俺はサティさんの正体を知って、アグニがやってきた時の事を思い出す。今でこそ俺達はサティさんや、エルダースライムと普通に接しているが最初はマジでビビってたもん。

 そして……それが当たり前なのだ。サティさんやエルダースライムがいくら頑張っていようとも人間と魔物の共存には未だ遠いのが現実である。



『ヘタレなアルトさんに、二つほどお話をしましょう。私は、勇者でも英雄でもない、力なき普通の人間と魔王が結婚でもすれば、魔物と人間の関係も少しはマシになり、お互いの恐怖が薄れるかもしれないと思っています』

「それって……」


 

 要するに俺とサティさんに結婚しろって言っているのか……確かに勇者でもなんでもない普通の人間である俺と魔王が結婚して幸せそうにすごせば魔物に対する偏見もなくなるかもしれない。でもさ……



「そんなのずるいよ!! そんな事言われたら私の勝ち目がもっと……」

『勇者よ、最後まで聞いてください。我々魔物は別に夫が妻を二人つくっても罰するような決まりはありません。サティは……性格的に夫は一人と決めているようですが……夫が妻を何人も娶るというのは理解しています。仲の良いアリシアさんならもう一人の妻を認めると思いますよ。まあ、そこらへんはお二人の説得方法次第ですが』

「う……でも、確かに知らない女の子にアルト兄がもっていかれるくらいならば、サティさんならいいかな……」

「いやいや勝手に話を進めないでくれよ。色々と考えさせてくれ……」



 俺は思わず文句を言う。そんな風にサティさんや俺の気持ちを利用しないでほしい。それに、俺は……俺の恋物語は俺が自分で考えて決めたいのだ。

 でも……俺はサティさんの事が気になっていて……それで俺が彼女と結ばれればサティさんの願いも叶うのか……

 どうするのが正解なのだろう。エルダースライムの口車に乗せられている気もするが、だけど……彼女は俺とサティさんの関係を認めてくれているのだ。



『まだまだ時間はありますし、強制するつもりはありません。もちろん、この話はサティは知りません。ただ、こういう考えもあるのだと胸に止めておいてくれたら嬉しいです。さて行きましょうか。そろそろ二人の話し合いも終わっているでしょう』


 

 そして、エルダースライムは話は終わりだというばかりに、歩きはじめる。俺は彼女の言った意味を考えながら帰路につくのだった。

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