22.ウィンディーネの真意

「私は……サティ様がハコネィに来なくなって、寂しかったんですわ。サティ様にとってハコネィは……私は……もう、価値が無いものなのだろうかっておもってしまって……だから、久々にサティ様が来てくれて嬉しくて……それで、サティ様に喜んでもらえるならできる事を何でもやろうと思ったんですわ。だって、私が誰よりもサティ様の事を思っていて……サティ様の力になりたいと思っていたんですもの……」

「それで……この……胸をアレする儀式を……」

「はい……この『精霊の源泉』の効果で、サティ様をバストアップすることができればサティ様はもっとここに来てくれるようになったと思ったんですわ……」



 サティさんの問いにウィンディーネは途切れ途切れにだが答える。要するに彼女は寂しかったのだろう、それまで来てくれていたサティさんが来てくれなくなって……だから、手段を選ばず彼女はサティさんに喜んでもらって自分の価値を認めてもらおうとしていたのだ。

 サティさんもウィンディーネの入った自分の胸を押さえながら複雑な顔をしている。



「ウィンディーネ……あなたは三つほど勘違いをしています。まず、私は巨乳なので、そのような儀式は不要です。そして……」

『いや、もう魔王がパッドだという事は四天王全員とこの場の全員が知っているし、この様子だと精霊全体に広まって……モゴモゴ……』

「デスリッチマジで空気よめよぉぉぉぉぉぉ」



 俺はデスリッチの口を咄嗟に塞ぐ。いや、こいつの言いたいことはわかるよ。でも、今絶対いい事言う流れだったじゃん。てか、サティさんのデスリッチを見る目がこわかったよう……こりゃあまた降格だな。おめでとう。



「こほん……そして、わたしにとってウィンディーネ、あなたは大切な存在なのです。信じてください。あなたが……このハコネィで私の愚痴を聞いて、励ましてくれたからこそ、私は魔王として頑張ってこれたのです。私にとってあなたとハコネィで過ごした日々は大事な思い出なのです。それとも……あなたにとっては違いましたか?」

「サティ様……私にとってもあなたとの出会いは大事な思い出ですわ!! あなたが私の力を!! 行動を!! 肯定してくれたからこそ、私は頑張れたのです!! そう、私にとってあなたとの思い出は本当に大切な記憶なのですわ!!」

「ありがとうございます……あの時は本当に楽しかったですね。私はただのサティで……あなたもただの精霊で……お互いの立場も関係なく仲良くできてましたね。私は……あなたの事を友達だと思っていたんですよ」

「友達ですか……私の事をあなたはそんな風に思ってくださっていたんですの……」



 サティさんの少し寂しそうな顔でそう言うと、ウィンディーネは衝撃を受けたかのように固まる。そんなウィンディーネにサティさんは優しく微笑みながら言葉を続ける。



「はい、私はあなたの事を部下ではなく友達だと思っていました。だから四天王になってあなたがやってきた時に私はまたハコネィの時の様に気楽に話せると思っていたんです」

「でも……私はあなたの偉大さを知って……部下としてあなたを支えようとしていたんですわ……そこでもうすれ違っていたんですのね……」

「はい、あなたは私の話を聞いたり、こうして遊びに来た時に普通にしてくれるだけで十分私の力になっていたんです……でも、私ももっと言葉や行動をすべきでしたね。今だってあなたに手紙の一つでも送っていればこんなことにはならなかったのに……」



 辛そうに顔を伏せるサティさんをウィンディーネが否定する。



「違いますわ!! 私が勝手にあなたに見捨てられたと勘違いをして余計な事をしただけですの……サティ様は悪くありませんわ」


 そう言ってお互いを庇いあっている二人の話を聞いていて思う。単純な話二人に足りなかったのは自分の気持ちをぶつけるという事だ。サティさんは友達がいなかったと言っていたし、すれ違っているウィンディーネにどういう風に接すればいいかわからなかったのかもしれない。そして、それはウィンディーネも同じわけで……だったら簡単ではないかもしれないが解決する方法はあるはずだ。



「二人がお互い悪い所があると思ったんだったら話あったらどうでしょうか? そりゃあ、ウィンディーネは色々やらかしているから、無罪放免にはならないと思いますが、それはさておいて本音で一回話あう機会があってもいいと思うんです。それに俺達はまあ、ちょっとびっくりはしたけどそこまで被害はうけていないし……なあ、アリシア」

「まあ、結局私が一方的にボコボコにしてたしね。私は美味しいものでも奢ってくれたら許してあげるよ」



 俺の言葉にアリシアも頷いた。実際俺達が被害を被ったのはここでの戦闘での傷とあの変な歌による精神攻撃くらいだ。問題がサティさんがどうでるかである。



「アルトさん……ありがとうございます。ウィンディーネ……もう一度昔にみたいにゆっくりと話しませんか? それで……ここから私たちの関係をやり直しませんか?」

「サティ様……いえ、サティお姉さま……」



 そう言って、ずいぶんと小さくなったウィンディーネをサティさんは大事なものを抱きかかえるようにして手のひらにのせてほほ笑んだ。何とも百合百合しく美しい光景である。

 お互いが、もっと素直になればこんな風にならなかったのだろう。そういえばサティさんが友達がいないと言った時に少し寂しそうな顔をしたのは友達から部下になってしまったウィンディーネの事を思い出していたのかもしれない。

 いい雰囲気で終わりそうな時だった。しかし、そうはいかなかった。サティさんは微笑みを浮かべたまま聞く。



「話は変わるのですが……不思議な歌が聞こえてきたのですが、あれはなんなのでしょうか?」

「ああ、サティ様も聞いてくださったんですの!! 昔、私に胸が育たないと相談してくださったじゃないですか!! そして、デスリッチが居酒屋でアグニに喋っていたのをたまたま聞いたところ今もお変わりない様子で……」

「デスリッチ……殺さなきゃ……あれは生きていてはいけませんね……」



 サティさんがこわいよぉぉぉぉぉぉぉ。殺気に満ちた目で笑いながらサティさんが呟く。しかし、ウィンディーネはその様子に気づかないようでどんどん喋り続ける。




「しかし、今のサティ様はとても大きな胸をされていてスライムパッドの事を聞いたんですの。そして、パッドの意味を調べまして……パッドとは普通の方はしない、特別な物らしいですわね。私達精霊は体型どころか姿形も変えられるのでよくわからないのですが、自分の貧乳を気にしつつもパッドで頑張るサティ様のお姿に感銘を受けて敬意と尊敬の念を含めてつくったのです!! 私もお湯しか使えないというコンプレックスを乗り越えて成長できました。そして、その話をみんなにしたところ他の精霊たちにも同様に感銘を受けてくれてハコネィの一大宗教になっているのですわ!!」

『ひぃ、何か黒い靄が我の魔力を奪っていくぅぅぅぅ、こんなところで死んでたまるかぁぁぁ』

「うわぁ……サティさんかわいそう……」

「そうだよな……人や魔物と精霊だと価値観が違うよな……」


 

 悪びれるどころかむしろ誇らしげに言うウィンディーネにサティさんの微笑みは固まったまま半泣きになる。その様子にデスリッチは悲鳴を上げながら逃げ出して、俺やアリシアも悲しい顔をするのだった。

 四天王の仕事とかそう言う事の前に誰か常識をおしえてやれよぉぉぉぉぉ。てかデスリッチ死んだんじゃねえかな……



「アルトさん、アリシアさん……ウィンディーネが色々とご迷惑をおかけいたしました。後程彼女には謝罪をしてもらうつもりなのですが大丈夫でしょうか? 今はちょっと一刻も早く話さなければいけないことができたので……」

「ええ……その色々とちゃんと話し合ってきてください」

「うん、さっきも言ったけど、私は美味しいものをおごってもらえば大丈夫だよ」

「では失礼しますね、ウィンディーネ、とりあえず盗んだ下着は返してもらえますか?」

「サティお姉さま、そんなににぎらないでくださいませ。ああ、ぬくもりが気持ちいいですわー。でも、今儀式を止めると豊乳効果が切れますわよ。いいんですの?」

「う……あ……う……構いません……よ。流石に人間達に迷惑はかけられませんし、私は巨乳ですから。エルダー後はお願いできますか? 私の下着を回収しておいてください」



 サティさんは無茶苦茶悩んだ後に険しい顔をして、エルダースライムに回収を頼むとウィンディーネを連れていってしまった。多分一瞬悩んだんだろうなぁ……でも、最終的には人間達の事を想ってくれたのにサティさんの優しい性格が表れている。

 そして、代わりとばかりにサティさんの肩から降りたエルダースライムが口を開く。



『ウィンディーネが迷惑をかけましたね。申し訳ありませんがもう少しお付き合いいただけますか?」



 もちろん、ここまで来たのだ。俺達も最後まで付き合うべきだろう。

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