13.家族風呂

「アルト兄は私を馬鹿にしているのかな?」

「いやいや、マジだって!! 嘘じゃなんだよ、本当に集会があって歌っていたんだよ」

「なに、そのパッド♪ パッド♪ スライムパッド♪ って歌……あ、でもなんかゴロが良いよね。今度サティさんの目の前で歌ってみようかな?」

「お前な……魔王VS勇者の決戦になっちゃうから絶対やめろよ……」



 あの魔の集会から帰ってきた俺はそこで見たことをアリシアに相談していた。自分の下着がご神体となっていたと知ったらショックを受けるだろうから、もちろん、サティさんには内緒である。

 てか、俺は温泉まで来て何をやっているのだろうか……



「それで、アルト兄はどうしたいのさ? ウィンディーネを倒すの? まあ、相手は四天王で、変態みたいだし、倒すのなら手伝うよ。元々そういうのって勇者の役目だしね。」

「だから何でお前はそう、暴力的なんだよ……サティさんはウィンディーネを信頼しているようだし、ウィンディーネも頭はおかしいけど、人間に害は与えてないからなぁ……ただ、下着は奪い返さないとな。常識的に考えて自分の下着が奪われたままだとしんどいだろ」

「うーん、確かにちょっと不安になるかな……何に使われてるかわからないし……」

「だろ、だからさっさと取り返して、それからウィンディーネには二度とやらないように言おうと思う。現物があればシラもきれないだろうし、サティさんに言いつけるっていえばいう事も聞くだろ」

「やっぱり四天王は変態しかいないなぁ……ていうか人の衣類を盗むって事自体頭おかしいよね」

「ああ、そうだな……そういや、話してて思い出したんだが、お前が俺の家にやってきた時から、肌着が消えてるんだが知らない?」

「あー、なんか体が冷えてきちゃったな……もう一回お風呂に入ってくるね」


 

 そういうと、アリシアは慌てた様子で俺の部屋から出て行ってしまった。一体どうしたんだろう? そんなに温泉が気にいったのだろうか?

 まあいいか、と思い俺は今度はサティさん達の部屋の扉をノックする。



「サティさーん、大丈夫ですかー?」

「ああ、アルトさん入ってきて大丈夫ですよ。まあ、ちょっと驚いちゃいましたけど、魔王城でウィンディーネと一緒にお風呂に入った時も同じような事がありましたし……」



 俺が扉を開くと、ベッドに真っ赤になったエルダースライムを寝かせて、手で扇いでいるサティさんが俺にほほ笑む。いつもと違い空気抵抗のなさそうなボディだが、そこをつっ込んだら殺されそうなので黙っておく。それに今はそんな場合じゃないしな。

 てか、あいつ常習犯なのかよぉぉぉぉぉ。サティさんも疑おうぜ。犯人は身近にいるんだよ。



「先ほどは取り乱してしまい申し訳ありませんでした、本当に助かりました。やはりアルトさんは頼りになりますね」

「いや、俺はただサティさんの名誉を守らなきゃって思っただけですよ」

「ふふふ、それが嬉しかったんですよ。その……私はいつもは守る側ですし……、それに、アルトさんは本当の私を知っても引かないでくれました。そのうえ……そのことを馬鹿にしないでくれました」


 

 そう言うと彼女は俺の正面に座る。今はエルダースライムがいないため、サティさんの体つきは何というか、とてもストレートだ。

 だけど、その顔はお風呂上りのためか上気していてその姿が、俺にはすごく魅力的に見えた。それこそいつもより……



「アルトさん……私のせいでゆっくり温泉に入れてませんよね? よかったら一緒に入りませんか?」

「え? でも今のサティさんは……」



 俺は思わず、ベッドの上で寝ているエルダースライムを見つめる。この状態でお風呂に入ったらさすがにみんなにばれちゃうんじゃ……



「アルトさんの言いたいことはわかりますよ。その……家族風呂っていう個室の温泉があるらしくて……そっちを予約したんです。一人だと寂しいですし、よかったらどうかなって思って……」

「その……本当にいいんですか……?」



 俺は信じられない言葉に思わず聞き返す。二人っきりでお風呂に入るという事への確認もある。でも、それ以上に彼女がそれまで、必死に隠していたコンプレックスを俺にさらすという事なのだ。

 そんな俺の言葉に彼女は少し、びくびくしながらうなづいた。



「はい、アルトさんにならいいかなって思っているんですがどうでしょうか?」

「もちろん、行きます!!」



 俺は迷わず即答したのだった。さすが女神様だぜ!

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