4.温泉街ハコネィ
「アルト兄……こんな事言うのはあれだけど……おならしたらちゃんと言ってね……人間なら誰でもするからさ……」
「何で俺になるんだよ、そういうアリシアがしたんじゃないのか? 全くいつまでたってもガキなんだから……」
「可愛い女の子になんてことを言うのさ!! それに勇者はおならなんてしないもーん」
「ああ、これは温泉の匂いですよ。硫黄か何かがこういう匂いをするらしいですよ」
温泉街であるハコネィも近くなり、馬車から漂ってくる匂いで俺達が騒いでいると、サティさんが少し困ったように苦笑して言った。
本で読んだことはあるが、本当に卵の腐ったような匂いがするんだなぁと少し感動する。どうやら、それは俺だけではなくアリシアもそうらしく、馬車を下りると同時に満面の笑みを浮かべた。
「アルト兄、サティさん!! すごいよ、街の中にお湯が流れてるー!! これも温泉なのかなぁ!!」
初めて見る温泉街にアリシアがはしゃいだ声を上げる。彼女の言う通り、街のそこいらに溝のようなものが作られており、そこには湯気の立っているお湯が流れているのだ。匂いからしてこれも温泉なのだろうか?
「これは足湯ですね、体をつかるのではなく足だけをお湯にいれて楽しむものですよ、せっかくだしやってみますか? 服を濡らさないようにしてくださいね」
そういうと彼女は靴を脱ぎ始める。スカートから一瞬覗いた生足が艶めかしく、思わず生唾を飲む。「ふーん、エッチじゃん」などと思っていると、隣のアリシアが不満そうに頬を膨らませていた。
「アルト兄のエッチ!! サティさん、気を付けて、アルト兄がエッチな目でサティさんの足を見ていたよー。小声で「エッチじゃん」とか言ってたよ」
「アリシアやめろぉぉぉ!! あと俺の心を読まないで!! もしかして、声出してた? 死にたいんだが!!」
「ふーん、アルトさんは足もお好きなんですね」
「お客さん方、女神焼きはいかがですか?」
俺がサティさんに冷たい目で見られ、アリシアとくだらないやり取りをしていると、声をかけられる。声の主は体そのものが水で形成されている12歳くらいの少女だ。すごいな、この街には精霊がいるのか。
精霊は自然に宿る存在と言われ、魔物とは違う。目の前の子も外見こそ女の子だが、性別はないし、年齢も見た目通りではないだろう。
「ああ、いただこうかな、サティさんとアリシアも食べますか?」
「うん、食べるーー!!」
「じゃあ、私もいただきますね、アルトさん、お金は後で……」
「いえいえ、さっきのクッキーのお礼ですよ、これくらいは払わせてください。じゃあ、三つおねがいします」
俺は好感度アップ間違い無しで返答をしながら精霊に返事をするが、なぜか彼女はサティさんを見つめ驚愕の顔をする。小声で「女神様……」と呟いた後に、どこか崇拝するような目でサティさんを見つめたのだった
「お金はいりません、どうぞ。お納めください」
そして、その一言だけ言ってさっさと去ってしまった。
「サティさん……昔ここで何かやりました?」
「いえ……特になにもしていないはずですが……」
「まあ、いいんじゃない、この女神焼き、バターが使われていて美味しいよ」
困惑する俺達を余所にのんきな声でアリシアが言う。まあ、よくわからないし、とりあえず食べるかと女神焼きを見ると、デフォルメされた女神はどこかサティさんに似ているような気がした。
その姿はまるで魔王像である。胸はぺったんこだけど……
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