2.温泉旅行
「アルト兄どれが当たったの?」
「アルトさん、まさかそれって……」
俺がこのチケットをどう扱おうか悩んでいると、サティさんと、アリシアが声をかけてくる。そして、二人とも俺の手の中にあるチケットを見て察したようだ。
しばらくの沈黙の後、アリシアが口を開く。谷間を強調するようにしながら、彼女は俺に囁くのだ。
「アルト兄、私、温泉旅行って行ったことないんだよね、もしも連れて行ってくれるなら、ちょっとエッチな水着だって着てあげるんだけどなぁ……」
そう言って、体をくねらせながら上目遣いで甘えるような声を出してくる。うおおおおお、こいつ色仕掛けをしてきやがった!! いつの間にそんなハレンチな子に育ったんだよ。お兄ちゃん許さないぞと思って冷静に谷間を見た後に、アリシアの顔を見ると羞恥のためか、リンゴのように顔を赤くしている。
こいつだいぶ無理をしているな……そう思うと、こいつはこいつのままなのだなと安心する。
「ああ、温泉旅行いいですよねぇ……あそこって夜景とかもすごい綺麗なんですよ、それに私には関係がありませんが、『豊乳の湯』もあるんですよね……」
そう言うとサティさんは少し遠い目をする。この人だけ何か違う方向で行きたがっている気がする……でも、綺麗な夜景でサティさんと散歩とかやばくないか? それでいい雰囲気になったりとか……
俺がそんなことを思っていると、腕を引っ張られた。
「アルト兄は誰と旅行に行きたいの? これはアルト兄が当てたんだ。素直に言ってくれていいよ。その……受け入れるからさ……」
先ほどまでの勢いはどこにいったやら、気を遣ったようなアリシアに俺の罪悪感が刺激される。てか、そもそも、サティさんとは付き合っているならばともかく、ただの友人である。旅行に誘って断られたら無茶苦茶気まずくなりそうだし、かと言って、異性として見ていると言われたアリシアと、その想いを受け入れる覚悟のない俺が二人で行くわけにもいかないんだよな……
「よかったら、三人で行かないか? 一人分を三人で割り勘すればそんなにお金はかからないし……この前無茶苦茶強い敵とも戦ったから疲れを癒す会兼祝勝会みたいな感じで……」
「私もいいの? ありがとう、アルト兄!! だから私はアルト兄が大好きなんだ」
そう言ってさっきまでの悲しそうな顔はどこへ行ったやら満面の笑みを浮かべてアリシアが抱き着いてきた。そうすると彼女の胸が当たるわけで……
くっそ、妹だと思っているのに体は反応してしまうぅぅぅぅぅ!! これがアリシアの作戦なのか、天然なのかわからん!!
「だからこういう場で抱きつくなっての、誤解されるだろ」
「私は誤解されてもいいのに……」
「それで、サティさんはどうですか? よかったら三人でと思ったのですが……」
俺はさっきから黙っているサティさんに恐る恐る声をかける。あー、やっぱり旅行っていうのは焦りすぎたか? そうだよな。この前看病しにきたりしてくれて、最近よく飯にいったりするから勘違いしてしまったか。くっそこれじゃあ、デスリッチをわらえねぇぇぇぇl!
俺がどうフォローしようかと思っていると、ぽつりと蚊の鳴くような声が聞こえた。
「でも……水着……なんですよね……」
「「あ!!」」
その一言で俺とアリシアはサティさんの表情の原因に気づく。確かに水着じゃスライムパッドが隠せねぇぇぇぇぇぇ!!
俺とアリシアの視線は仲良くサティさんの胸元に集中した後に顔を見合わせてうなづく。
「やっぱり、旅行よりも美味しいものを食べに行こう。これはブラッディクロスさんあたりに売りつけてうまい料理屋に行こうぜ」
「そうだね、アルト兄。私この前言ったお店がいいな。あの豚肉が美味しいお店!! 特上豚とチーズのコースがいいな-」
俺とアリシアは必死に話題を変えようとすると俺達の視線に気づいたサティさんが、自分の胸元を押さえながら拗ねたように唇を尖らせた。可愛いな、おい!!
「そんな風に気を遣わなくっても大丈夫ですよ」
「でも、サティさん……」
「大丈夫って言っているじゃないですか。私の水着姿でアルトさんをメロメロにしてあげますからね!!」
完全に意地になった顔のサティさんがそう言っているが本当に大丈夫だろうか? そう思っていると、サティさんの服の間から一瞬スライムが触手の様に伸びてきた。こわ!! 公共の場だぞ、ここ!!
『ヘタレ』
サティさんの胸のスライムがそんな事を吐き捨てるように言ったような気がするが気にしないでおく。そうして俺達は旅行に行くことになった。
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