22.アルトとアリシア

「二人ともデスリッチの封印ができたよー。ってあれ、どうしたの?」



 俺とサティさんの間に広がるどこか気まずい空気を察したのか、アリシアが可愛らしく首をかしげる。その原因はアリシアなんだけどな!! でもさ、彼女が俺と婚約をしているって思っているってことは昔の俺は何か言ったのだろうか? 例えばよくある話で、昔結婚の約束をしていたとか……そしてそれを彼女は覚えていて、俺は忘れていたとか……だったら俺最低じゃん!!



「アリシアさんは……その……アルトさんと婚約しているっていうのは本当なんですか?」

「ああ、その事か、私の両親は商人だったんだけどね。ある日盗賊に殺されちゃって……泣いていた時にアルト兄が私に言ってくれたんだよ 「俺がお前の家族になってやるよ」ってさ、すごい嬉しかったなぁ……」



 サティさんの質問にアリシアが顔を赤くしながら答える。そこかぁぁぁぁぁぁぁぁ!! それは違うんだよ、俺は妹にならないかって聞いたつもりだったのだ。確かに、プロポーズに聞こえなくもないのか……

 アリシアには悪いが、何とか誤解を解かねば……



「アリシア……あのな……」

「大丈夫だよ、アルト兄、私ももう、わかっているから……アルト兄は私に妹にならないかっていう意味で言ってたんでしょ。私も薄々は感じていたし……デスリッチに唆されちゃったのも、この事実を認めたくなかったからなのかもね……アルト兄は本当に私を妹としてしか、見てないよね? 一緒に寝た時も手を出してこなかったし……」

「へぇー、一緒に寝たんですか……」

「いや、抱き枕になっただけですよ、抱き枕フレンド的な……」



 アリシアの言葉にサティさんが微笑みながら言う。いや、マジで掴んでいる手に無茶苦茶力が入っていてクソ痛いんだけど……でも、今はとてもじゃないが文句を言えない状況である。



「それなのにギャーギャー騒いでいたら、私もデスリッチみたいになっちゃうしね。だから……私はアルト兄の事は諦めるよ。サティさんと付き合っているんでしょ。サティさん、アルト兄をよろしくね。私はアルト兄が幸せになってくれるのが一番なんだ。だからさ、アルト兄がピンチになったら教えてね、その時は私はどこにいても絶対駆けつけるからさ……」



 そう言って、彼女は涙を瞳にためながら笑った。本当は辛いはずなのに笑った。そんな彼女に俺は何と言葉をかければいいかわからない。だって、彼女の気持ちを受け入れる事ができない俺に何ができるっていうんだよ……

 俺とアリシアの沈黙を破ったのはサティさんだった。



「アリシアさん、私とアルトさんは付き合っていませんよ、あれは、私が魔王だとあなたにばれないようにするための嘘です」

「え? 本当なの、アルト兄」

「え、ああ……最初は勇者と話したがっていたサティさんにお前を紹介するつもりだったんだが、お前が魔王を見つけたら殺すって考えているのが鑑定でわかったからな……サティさんを魔王と紹介するわけにはいけないと思ってとっさに嘘をついたんだよ……」

「そうだったんだ……でも、サティさん、いいの。敵に塩を送ってさ」

「ええ、私も正々堂々と戦って勝ちたいですから」

「ふーん、そっかぁ」



 アリシアは俺の事を見つめると、いつものように明るく笑って、俺の腕を掴んだ。彼女の柔らかい感触が俺を襲う。うおおお、いきなり何をするんだよぉぉぉ。俺は思わずにやけそうになる顔を引き締める。



「じゃあ、私にもまだ、チャンスはあるって言う事だね。こうすれば、アルト兄は私を異性として見てくれるみたいだし」

「な……」

「おまえ、そう言う事は色々誤解をされるからやめたほうがいいっての……」



 俺は昔のようにじゃれついてくるアリシアに文句を言う。だけど、このおっぱいの柔らかさには勝てないんだよなぁ……クッソ、確かに異性として意識してしまうぅぅぅ。いや、このおっぱいで妹は無理ですよ。

 などと思っていると左腕にも何やら柔らかいものが控えめにだが押し付けられる。



「サティさん!?」

「別になんかアリシアさんばかりくっついてずるいとか思っていませんから……」



 俺が思わず振り向くとサティさんは顔を真っ赤にしながら、ぼそぼそつ呟く。なにこの天国!! と思うが、サティさんの方はスライムなんだよなって思うと少し冷静になれる。



『あの……我の事忘れてない?』



 デスリッチが何かを言っているが、俺はしばらく、この天国を堪能するのだった。

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